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能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が諸注意を解説 第2回 災害関連死について

ノウハウ 能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が諸注意を解説 第2回 災害関連死について 能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が諸注意を解説 防災・危機管理アドバイザー、 医学博士

ノウハウ
2024年1月1日に能登半島地震が発生。同地域で中小企業や個人事業主として会社を運営する経営者の中には、避難所で避難生活を送っている方もいるだろう。また、組織としてボランティア活動に乗り出している会社もあるかもしれない。そうした中、被災地ではどのような支援が必要で、被災者はどんな注意をするべきなのか。防災専門家で元熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム実践研究教育センター特任准教授の古本尚樹氏が、熊本地震や東日本大震災被災地・被災者調査を踏まえて留意点などを解説。2回目は災害関連死について。
 
 

熊本地震では災害関連死の死者が8割以上

 
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能登半島地震発災から約2週間を経たが、この災害関連死についての課題が浮上している。すでに二桁の災害関連死が認められ、今後も増加するだろう。著者が熊本大学で防災や被災者の健康について調査、研究した経験から、この課題については多様な要素が複合的に関与していることを挙げる。
 
熊本地震では、災害直接の死者数より圧倒的に関連死のほうが多く、死者全体の8割以上を占めている。関連死の8割は高齢者であり、さらに関連死の4割は自宅で亡くなっている。
 
その背景には、いわゆるかかりつけ医と切り離された時に、次のセーフティーネットの準備が不十分、あるいはそこへのアクセス支援が不十分だったことが挙げられる。郊外に居住していた高齢者は、地元のかかりつけ医が被災により、利用できなくなり、次の医療機関へのアクセス障害として道路の破綻も大きく影響していたし、熊本市など中心部へ出るにしても渋滞が激しく、家族などのサポートも必要になっていた。
 
また、在宅避難者が多く存在し、その在宅避難者が分散し、行政や民間からの支援が十分に行き届かなかったことも影響している。とりわけ医療や保健に関わるスタッフの巡回などで、在宅避難者全体を網羅するのは困難でもあった。これは指定避難所にいない場合についての支援で課題となっている。
 
そして、もともと医療機関で入院していた被災者にとって、避難生活が基本健常者向け中心での支援になっていることは、疾病の悪化、ひいては死に至る原因になっているとみられる。例えば食事で言うと、病院食のように特定の内容に特化した食事は、災害時での提供は困難になる。そのため、症状が悪化するケースは多い。また、車中泊の影響でエコノミークラス症候群で、体調を崩す被災者も多かった。予防のためには、適度な運動や足などのむくみ防止努力が不可欠である。
 
避難生活は、初期から中長期、復興期に至るまで変遷する。それぞれの環境で、ソーシャル・キャピタルとの関係は、その後の健康維持、ひいては生命を守るために不可欠な要素である。ソーシャル・キャピタルとは、人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる、“信頼”“規範”“ネットワーク”といった社会組織の特徴である。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000011w0l-att/2r98520000011w95.pdf (厚生労働省)
 
すなわち、コミュニティや家族関係、また自ら社会への貢献を進めることなど、つながり具合に関わること、またその質に関することである。
 
 

被災者の不安や変化に対する、周囲の気付きが重要

 
著者の熊本地震被災地、西原村での調査でも、コミュニティで“声かけ”が相互にできる環境は、被災時から一貫して、被災者の健康に影響を及ぼしている。通常の生活に戻るまでの間に、より正常な状態に近い住環境、食生活、また医療サービスなどへのアクセスが早く整うことのほうが、被災者の健康に貢献する。
 
今後、仮設住宅にて危惧されるのは、災害関連死ともに関与の大きい、“孤独死”の問題だ。特に中高年の男性は要注意である。コミュニティから隔離されて、そのまま仮設住宅で亡くなるケースは少なくない。仮設住宅では様々な保健活動や外部からのイベントなど、飽きのこないことが多くある。健康教室もあるので、健康維持には重要なのだが、関りを持たない階層も多く、“孤独予備軍”になりかねない。
 
仮設住宅の場合、ある程度行政による“見守り”があるのだが、それでもプライバシーの観点から、踏み込めないのが現状だ。だから、紙面ポスティングや掲示、隣近所にいる人のちょっとした「声かけ」が重要になってくる。
 
一方、みなし仮設住宅では在宅避難者と同様で、その生活実態が把握されないことが多く、注意が必要だ。乳幼児を抱えた世帯は、このみなし仮設住宅を選択することが少なくないが、従来受けていた行政サービスが縮小された時に、そのままにしないで自ら情報を取りに行くことを心がける必要がある。
 
被災者の不安や体調変化に、周りにいる者が気付けるかが、この災害関連死には大きな要素として挙げられる。というのも、その対象が要配慮者、要支援者の階層が多く含まれているからだ。
 
今後、経済的な不安をはじめとして、家計の維持を起点とした課題は大きく、メンタル面での不調に影響する。日本の社会的な課題、核家族化は家族関係の支援を希薄化している側面もあり、介助が必要な被災者への支援ができないこともある。家族内で高齢者が高齢者を支えることは、通常でも困難だが、災害時は双方に生命のリスクが高まる。
 
行政での保健や福祉等サービスには限界がある。自治体やその職員も、被災者である場合が多いのだ。ここには、民間、ボランティア等の支えが必要だと思う。特に有資格者(看護師や精神保健福祉士など)のニーズは多様にあるから、こうした有資格者のボランティアが活動できるように、行政はその“橋渡し役”になることも重要だ。
 
避難生活のスタイルは、変化を続けている。指定避難所だけが“避難所”ではない。むしろ諸般の事情でそれ以外の“避難所”“避難住宅”で生活せざるをえない被災者が多い。こうした人たちは可視化がしづらく、結果としてセーフティーネットから漏れてしまう。そのため、自力で動けるか、動こうとできるかは重要だ。仮に自力で動けない人には、周囲の配慮と気付きが重要である。その“仲介役”が行政等に支援の必要性を提示、要請してほしい。
 
能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が解説
第2回 災害関連死について
(2024.2.21)

 プロフィール  

古本 尚樹 Furumoto Naoki

防災専門家
元熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム実践研究教育センター特任准教授

 学 歴  

・北海道大学教育学部教育学科教育計画専攻卒業
・北海道大学大学院教育学研究科教育福祉専攻修士課程修了
・北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻地域家庭医療学講座プライマリ・ケア医学分野(医療システム学)博士課程修了(博士【医学】)
・東京大学大学院医学系研究科外科学専攻救急医学分野医学博士課程中退

 職 歴  

・浜松医科大学医学部医学科地域医療学講座特任助教(2008~2010)
・東京大学医学部附属病院救急部特任研究員(2012~2013)
・公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター研究部 主任研究員(2013~2016)
・熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム 実践研究教育センター特任准教授(2016~2017)
・公益財団法人 地震予知総合研究振興会東濃地震科学研究所主任研究員(2018~2020)
・(現職)株式会社日本防災研究センター(2023~)

専門分野:防災、BCP(業務継続計画)、被災者、避難行動、災害医療、新型コロナ等感染症対策、地域医療
※キーワード:防災や災害対応、被災者の健康、災害医療、地域医療

 

 個人ホームページ 

https://naokino.jimdofree.com/

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