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3、大手企業の血みどろの努力(ツケを将来に残さないための努力)

 
 国、地方公共団体等の企業会計の手法を導入していない機関は、ある意味でノー天気です。単式簿記による収支計算書しかありません。収入より支出が多ければ国債や公債を発行すればいいんです。ツケを将来に残さないようにと、行政改革やら、事業仕分けで一時的なパフォーマンスで国民受けしても、その成果は惨憺たるものでした。
 
 最近、地方公共団体も、貸借対照表を作るように義務付けられま(リンク資料P6最終段落) が、行政資料等から作成する財産法的手法による作成方法で、複式簿記の手法によらない、貸借対照表の作成です (これではダメだということは、連載2010年3月号「地公会計制度の改革」の項 参照)。
 
 なぜ、地方公共団体等はノー天気なのか。将来にツケを残さないための、会計手法を持たないからです。民間企業は、血みどろの努力をしています。
 
 
 減損会計の仕組みは後で説明しますが、一般企業の場合、来期にどの程度の減損損失を計上しなければならないか、土地等の時価の下落傾向から事前に予測がつきます。
  したがって、その予測される損失を計上しなくても済むように、私の関わったある地域金融機関では、営業店の統廃合とか、組織変更をして、その組織等が生み出すであろう将来収益を確保するための必死の営業努力が始まりました。廃止店舗で将来の収益が見込まれないような営業店は、当然にすぐ売却されました。
 なぜそこまで早い意思決定ができたのか? そりゃ、血みどろの経営努力を、総行員一同になってやらなければ、次期決算で減損損失を計上せざるをえなくなり、自己資本比率が8%を割り、自滅の道を歩かざるをえないからです (自己資本比率の考え方は 税効果会計見直し論と自資本比率『ニッセイ経営情報』 平成15年4月号 参照)。
 
 「繰延税金資産」 という、貸借対照表に計上される会計上の資産概念である勘定科目があります。これについては、小泉内閣時代の竹中平蔵氏が中心になって不良債権処理をしていたころ、新聞紙上の一面にもたびたび掲載されたことがあるので、少しは記憶に残っているかもしれません。

 この税効果会計もずいぶん悪者扱いにされて、ある部分間違った報道がずいぶんとされていました (これについての警告 「会計の分かりにくさが日本経済を破綻させる」 という趣旨で書いた二つの私の雑誌掲載記事「税効果会計見直論と不良債権問題」 (『ニッセイ経営情報』 平成15年3月号)、「税効果会計見直し論と自己資本比率」 (同4月号) を参照してください。公認会計士ですら間違った表現をしていたので危機感を感じて書いたものです)。

 
 さて話を戻しましょう。私の関係したある上場会社は、繰延税金資産を全額取崩す意思決定をしました。したがって当然に次の期は大幅な赤字決算です。それと並行して大幅なセカンドキャリア計画 (言葉を換えるとリストラ) も実行に移されました。経験したことのない大幅赤字を計上しましたが、翌期は、全社一丸となった血みどろの (というより壮絶な) 経営努力で黒字転換しました。
 なぜそこまで早い意思決定ができたのか? そりゃ、二期連続で最終利益が赤字なら、コベナンツ条項に引っかかって、社債等も発行できなくなるからです。
 
 コベナンツ条項、、、耳慣れない言葉ですか? 債務制限条項 (コベナンツ条項) とは、お金を銀行から借りる際に、「こんなことをしたら、お金をすぐに返してね」 という約束(条項) のことをいうのです。もうすこし固めに表現すると、「予め設定した条件に該当する事態となった場合、その効力が発生する条項」 のことをコベナンツといいます。
 
 上記二つの事例は、身近なところで体感していたのですが、結果的に素早い意思決定で、血みどろの努力をし、ツケを次の世代に残さないで済んだことになります。
 地方公共団体等も、似たような努力をしてはいるんですね。しかし私にいわせれば、努力をしている恰好を、国民や住民に見せているだけです。
 パフォーマンスだけはマスコミ受けした事業仕分けや、各地方公共団体に設置されている行政改革推進室等の仕事ぶりをみれば、民間の努力からはほど遠いといえます。
 箱もの行政の結果、当初計画と違いその施設等が、現段階では将来の世代には役に立たないということが分かったのならば、減損処理をし、損益ベースの予算・決算でプライマリバランスを保てるよう、無駄の削減もしくは税収アップの方策等の手当てをすべきなのです。
 
 最近の新聞報道をみると、「市場が国家を選ぶ時代が来た」 といわれ始めました ( 『日経新聞』6月20日朝刊「通貨混沌 早まる危機循環」債権運用大手ピムコの運用統括ビル・グロス氏)。 
 
 
 
 

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