もしあなたが自分の商品やサービスをもっと売りたいのならば、まず売り場に“熱”を産み出すことから始めましょう。“熱”がない店では、お客さんは買う気が起こりません。それは、リアルな店舗であっても、ネットショップであっても同じです。
ツルハシブックス主催「うちのまち なじみの店 ものがたり」から
講師のお米屋さん・飯田商店を地元の女子学生たちが訪れた
こんにちは。コピーライターの川上徹也です。
連載の4回目。売り場に“熱”を産み出すために、今回は「お店を学校にする」という手法を解説していきましょう。
通常、お店とお客さんは、「売り手」と「買い手」の関係です。この関係であれば、よそに「価格の安い店」や「サービスがいい店」ができれば、買い手は簡単によその店舗に行ってしまいます。それ以前に、利用しても、ほとんどの店は忘れられてしまうのです。
しかし、あなたのお店を「学校」にすることができれば、あなたとお客さんは、「売り手」と「買い手」の関係を越えて、より深い絆で結ばれる特別な関係になります。そうなれば、他の店が少しくらいよくても、お客さんが離れることはありません。
さて、ひとくちに「学校」と言っても、そこにはいろいろな要素があります。私が考える、お店に導入できる学校の主な要素は以下の3つになります。
① 学ぶ・・・ 学校でいうと「授業」にあたります。あなたの店を、お客さんが何かを「学ぶ場」にすると、お互いの関係が深まります。この場合、「教える先生の立場に店側の人間がなる」「それ以外の人間(お客さんを含む)が先生になる」の2つの方法が考えられます。
② 集う・・・ 学校でいうと「部活」「サークル」にあたります。あなたのお店が、趣味などの新しい交流の場になれば、お店とお客さん、またお客さん同士の関係も一気に深まります。言い換えると、あなたのお店を中心にしたコミュニティをつくるということです。この場合、「あなたの店が売っている商品やサービスを中心としたコミュニティをつくる」「あなたの店とは直接関係のないテーマのコミュニティをつくる」の2つの方法が考えられます。
③ 体験する・・ 学校でいうと「課外授業」「体験学習」のイメージです。人はいくつになっても初めて体験することには特別な感情を抱きます。あなたのお店が、お客さんに何か新しい体験を提供できるとすれば、そこはお客さんにとって特別な場所になります。その結果、お店とお客さんとの関係が深まっていくでしょう。この場合、「あなたの店が売っている商品やサービスに関連した体験をする」「あなたの店とは直接関係のないテーマの体験をする」の2つの方法が考えられます。
まずは、この3つの要素のどれかを導入しましょう。あなたのお店は学校に近づきます。どの要素をメインに持ってくればいいかは、店の業種やあなた自身のキャラクターによって変わります。もちろん、組み合わせるのも可です。
あなたのお店が、学校として楽しい場所になっていれば、お客さんはまた行きたいと思うようになるでしょう。あなたの店は、忘れられない店になるのです。
「レモン」そのものではなく「レモンを育てる楽しさ」を売る
園芸・ガーデニング用品を扱うネットショップ「
花ひろばオンライン」は、「花ひろば学園レモン部」という活動で注目を集め売り上げを伸ばしています。ネットショップでも、店を学校にする取り組みができるという好例です。
レモン部は、社長の高井尽さんを顧問に、お客さんを部員とした部活動という位置づけで、まさに上記の①②③のそれぞれの要素をうまく組み合わせた手法です。
レモン部は、同ショップからレモンの苗木を買った人が参加できます。レモンの苗木を自宅で育てて写真に撮り、お互い報告しあうというのが主な活動です。これによって全国の知らない人同士が「レモンを育てる」という体験を通じて集い交流することができます。上記の「②集う」の要素ですね。多くの部員がレモンを育てるのは初体験なので「③体験する」の要素も含まれています。また部員がレモンを育てるうえで何か困ったことがあれば、顧問の高井さんがアドバイスしたり相談に乗ったりしていろいろと教えます。つまり「①学ぶ」という要素も入っているのです。
このように店を学校にする3つの要素がうまく組み合わされているので、リアルに集う店舗がなくても、店とお客さんが深い関係で結ばれるようになります。お客さんそれぞれの物語を、「レモン部」という活動を通じて共有しているとも言えます。
当初は、売り上げに繋げることを考えずに、社員のモチベーションアップにと始めたレモン部の活動でしたが、結果的に売り上げも大きく伸びました。部活に参加している人だけでなく、楽しそうだなと見ているだけの幽霊部員が、自店の商品を買ってくれることが要因だと考えられています。
書店は「店を学校にする」のに適した業態
いろいろな店がある中で、書店は学校にするのに最も適した業態のひとつです。本という特性上、いろいろなジャンルと関わり合いを持ちやすいからです。実際、ここ数年、定期的にいろいろなイベントを実施し、学校の要素を取り入れている書店が増えてきました。
大阪にある小さな書店、
隆祥館書店も、本の著者を呼び、地域の人たちとの交流をはかるトークイべント「作家と読者の集い」を不定期に開催しています。
岩手・盛岡にある
さわや書店は、地元の企業・大学・団体などとコラボし、東京から講師を呼ぶセミナーを数多く企画しています。
神戸・板宿にある
井戸書店では、店主の森忠延さん自らが子供相手に論語を教える「板宿子供論語塾」を店内で月1のペースで開催していて、子供はもとより親や学校からも好評です。
大阪・柏原にある
宮脇書店大阪柏原店は、長年にわたり絵本の「おはなし会」を開催していました。昔、聞く側だった小さな子どもが、大きくなって読む側にまわったりする素敵なサイクルが生まれています。次世代の読者をつくるという意味でも、大切な試みです。
東京・池袋にある
天狼院書店は、「英語部」「映画部」「フォト部」「落語部」「漫画部」など様々な部活動があり、多くのお客さんが参加している書店として数多くのメディアで取り上げられています。
福岡・天神にある
TSUTAYA BOOKSTORE TENJINでは、店内に「福岡市スタートアップカフェ」があります。これは福岡市と共同でつくられた、起業を志す人を支援する場です。誰でも無料でコンシェルジュに起業の相談をすることができます。
中でも私がとても興味深く感じた事例は、2014年に新潟・内野駅前にある書店
ツルハシブックスの店主西田卓司さんが地元大学生と共に実施した「うちのまち なじみの店 ものがたり」という取り組みです。これはツルハシブックスがある内野商店街のいろいろな店舗の店主に講師になってもらい、その店ならではのうんちくや生活に役立つ情報を教えてもらうというプロジェクトです。いわば、商店街全体を「学校」にしようとする試みです。
講座の内容は、美容院であれば「頭皮にやさしいシャンプー講座」、海産物加工食品販売店では「ダシの取り方講座」、自転車屋では「30年乗れる整備の秘訣講座」、米屋では「おいしいお米の食べ比べ講座」などいろいろでした。
一般的に商店街の個人店は、なじみのお客さん以外はかなり入りにくいものです。大学生にとってはなおさらでしょう。しかし店主の話を聞いてその店の「物語」を知ると、店に入る敷居は低くなりますし、「商品を買ってみたい」という気持ちが起こります。
このような書店での取り組みは、他の業種の店でも応用可能です。皆さんのお店も、何か学校にできる要素はないか考えてみましょう。粘り強く実施していけば、きっと店に“熱”が産まれます。
川上徹也の「売り場に熱を!」
vol.4 お店を学校にする