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ビジネス 川上徹也の「買いたい」のヒミツ vol.2 「物語」の発見法 川上徹也の「買いたい」のヒミツ コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表

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写真提供:近畿大学
ちょっと想像してみてください。
あなたは、魚がおいしい居酒屋に行って刺身を注文します。
「天然」と「養殖」、どちらの魚のほうに価値を感じますか?
多くの人は「天然」のほうだと思います。一般的に養殖魚は、天然魚に比べて味が落ちるというのが定説でした。
 
しかし、その定説を「物語の力」によってくつがえした店が今、大繁盛しています。その店がどんな「物語」を発信しているかは後半で。
 
 

なぜこのラーメン屋で食べたくなるのか?

 
 こんにちは。コピーライターの川上徹也です。前回のコラムは、新潟の地方アイドルNegiccoを例にして、マーケティングにおける「物語」とはどういうものかについて説明しました。今回は「物語」をどう発見していけばいいかについてお話ししましょう。
 
 ところで皆さんは、ラーメンお好きですか?
 もう一度、想像してみてください。あなたは仕事で初めての街に行ったとします。お昼にラーメンを食べたいと思った。土地勘がないからうまい店を知らない。食べログなどで調べる時間もない。ちょうど近くに2軒のラーメン屋さんがあった。どちらも店の前に看板を出している。
 あなたなら、どちらの店に入ろうと思いましたか?
 
A 「厳選された素材でこだわりの製法」というキャッチコピー。ラーメンの写真。
B 「これだ!と納得できる一杯をつくりあげるために、全国1000軒以上のラーメンを食べ比べ研究に研究を重ねた渾身の一杯です」というキャッチコピー。ラーメンを持って自信満々な表情の店主の写真。
 
 いかがでしょう? 多くの方がBの店を選ばれたのではないでしょうか?
 それはBの店のほうに「物語」を感じたからです。
 
 

「物語」のいろいろな要素

 
 では、実際にどのように「物語」を発見していけばいいか、その要素をラーメン屋さんを例にして見ていきましょう。
 
・ラーメンそのものの要素
「麺」‥太さ、こし、素材、かんすい
「スープ」‥種類 素材 煮込む時間 タレ 
「具材」‥チャーシュー 卵 ネギなど産地 製造法 部位
「メニュー名」「地名」「調理法」「トッピング」など
 
・ラーメン以外の要素
「店」‥店名 立地 店構え 内装 食器 箸
「店主」‥ラーメンにかける情熱、哲学、出逢い、おいたち、趣味
 
 ラーメンひとつとっても、物語になる要素はこんなにもあるのです。 
 そして勘のいい方は気づかれたでしょう。物を売る時の「物語」は、「商品の物語」と「商品以外の物語」に分かれるということを。
 
 「商品の物語」とは、文字通り商品と直接関係がある要素から導き出される「物語」のことをいいます。例えば、「原料」「素材」「製法」「歴史」「技術」「デザイン」及び、それに関わる人(製造者・販売者・お客さん)にまつわる要素です。
 「商品以外の物語」とは、商品とは直接関係がない要素を発信していく「物語」のことをいいます。例えば「志」「理念」「創業者のおいたち」「接客」「陳列」「社会貢献」「エンターテインメント」などの要素です。
 「商品の物語」は、今ある商品からその原石を見つけ出して、磨いて輝かせるというイメージです。「商品以外の物語」は、種をまいて育てていくというイメージです。両方の要素がバランスよくリンクされ発信されていくことが理想です。
 
 ラーメンの例でいうと、上記のいろいろな要素を組み合わせたり、磨いたりして「物語」として発信していくのです。たとえば以下のような「物語」として。
 
・素材、製法についての思い入れを熱く熱く語っていく物語
・なぜラーメン屋を開業しようと思ったかを告白する物語
・これだけは譲れない頑固さをアピールする物語
・どれだけの最新技術が使われているかの物語
 
 他にもまだまだいろいろな角度からの「物語」があるでしょう。これらの「物語」を店頭やネットを使って発信していくのです。それがお客さんの共感を得られる物語になっていれば、間違いなく繁盛店になるでしょう。もちろん、一定水準以上においしいことは必要最低条件ですが。
 
 

「物語」の力で養殖魚の価値を高める店

 
 冒頭の「物語の力で養殖モノの価値を高めたお店」に話を戻しましょう。その店とは、大阪梅田と東京銀座に店をかまえる養殖魚料理専門店「近大卒の魚と紀州の恵み 近畿大学水産研究所」です。扱っているのは養殖魚ばかりですが、2013年の開業以来、予約が取れないくらいの大繁盛を続けています。
 
 この店の売りは「近大マグロ」。和歌山にある近畿大学水産研究所が開発に成功した完全養殖のクロマグロ(本マグロ)のことです。1970年から研究をはじめましたが、困難の連続で、2002年に完全養殖に成功するまで32年もの月日がかかりました。
 
 味がおいしいということはもちろんですが、繁盛しているのは、「近大マグロ」というインパクトのあるネーミングと、この32年かかったという物語があるからです。店内のメニューも、ストーリーや人が感じられるように工夫されています。
 
 もう一店、物語で魚を売っている東京丸の内にある居酒屋をご紹介しましょう。
 築地市場では、漁獲量が少ないので買い手がつかず捨てられてしまう魚がたくさんあるといいます。丸の内にあるその居酒屋とは、そんなおいしく食べられるのに陽の目を見ない“もったいない”魚たちを築地から毎日直送するのがコンセプトの「築地もったいないプロジェクト 魚治」です。
 
 本来捨てられる魚というのは実は価値がなかった魚なのですが、「もったいない魚を救う」という物語があることでお客さんはその魚に「価値」を感じるようになりました。「近畿大学水産研究所」も「魚治」も、魚そのものだけではなく、その背景にある「物語」がお客さんに支持されている理由なのです。
 
 
 次回は、どのように「物語」の幹の部分をつくり、発信していけばいいのかについてお伝えします。
 
 
 
 
川上徹也の「買いたい」のヒミツ
vol.2 「物語」の発見法 

 著者プロフィール  

川上 徹也 Tetsuya Kawakami

コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表

 経 歴  

大阪大学卒業後、大手広告代理店に入社。営業局、クリエイティブ局を経て独立。コピーライター&CMプランナーとして50社近くの企業の広告制作に携わる。東京コピーライターズクラブ(TCC)新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴は15回以上。ストーリーの持つ力をマーケティングに取り入れた「ストーリー・ブランディング」という言葉を生み出した第一人者としても知られ、現在は広告制作にとどまらず、そのノウハウを個別のアドバイスや講演・執筆などを通じて提供している。著書は『物を売るバカ』(角川新書)、『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)、『価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ』(クロスメディア・パブリッシング)など多数。 最新刊『1行バカ売れ』が好評発売中。

 オフィシャルホームページ 

http://kawatetu.info/

 
(2015.6.17)
 
 
 

 

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