企業が取り組むべき「BCP(事業継続計画)」とは
シリーズ第3回 大阪府の中小製造業に見るBCP策定の実情
「今後、BCPを策定する企業が増え、さまざまな災害が発生するのに伴い、ガイドラインを更改する必要性も高まります。個人的には、具体的なBCPの策定例がもっと社会に紹介・認知され、企業間あるいは業界間で情報交換が進み、各企業・業界に則したものへと高度化されていくのが理想ではないかと考えています」 (天野氏)
今回の調査でも、中小企業がBCPを導入する際、親会社や取引先、SC(サプライチェーン) などの存在がきっかけになっているケースが見られた (親会社や系列企業の要請で策定した企業は17.4%、国内取引先の要請で策定した企業は5.8%だった)。
これらの場合、BCPのひな型もあらかじめ提示される場合が多く、独自に試行錯誤を重ねて策定する局面は少なかったという。ただ、大企業の関係会社には、親会社との関係上、BCPを公開することに抵抗があり、インタビュー調査に応じてもらえないケースもあったようだ。一方、内部要因によるBCPの策定では、災害遭遇の経験、業種の違い、取引先に対する供給責任、従業員の生命を守るなどの他に、企業立地の影響が大きかったという。
「海沿いの事業所、埋立地などの地盤が弱い場所に立地する事業所、水位が高い地区の事業所などは相対的に防災やBCPに関する意識が高く、実際にそれを理由にBCPを策定するケースが多く見られました。工業団地にある企業の中には、団地全体で策定に取り組みたいとの声もありました」 (天野氏)
官・民・文・地域が一体となったBCPへの取り組みが大事だ
報告書は、官・民だけでなく、文(大学の研究機関) や地元も一体となった地域ぐるみの取り組みや、企業の相談拠点の整備も必要だと述べている。今後、行政や業界団体の果たす役割はどのようなものになるのだろう。
天野氏によると、大阪府としては、BCPの策定を企業に義務づけたり、ガイドラインの整備や相談拠点の設置を進める計画は現在のところない。府が力を入れているのは、大阪市と共に取り組んでいる帰宅困難者対策だという。この帰宅者対策の中にBCPを組み込む形で、企業に自主的に策定してもらえるよう、意識づけをはかっていくという。
各企業に対する個別支援については、国の施策の枠組みの中で、商工会議所がBCPのセミナーを開催してきた経緯があるので、相談拠点としては有望である。しかし、商工会議所にはBCPの専門家がおらず、外部の損保会社に依頼しているのが現状。会議所における相談拠点の整備は、国の中小企業支援施策の方向性に左右されるのではないかという。
「自治体としては、防災や危機管理の大きな枠組みの中にBCPを位置づけ、地域防災における企業の役割を示しながら、BCPの策定によって地域の防災力を高めるイメージを示すことが主になると思います。
大阪市内の意識の高い区では、地域の防災組織が地元の企業を巻き込んで防災訓練や災害時のハードの整備などに取り組んでいるので、地域住民の意識の高まりや具体的な動きにも期待したいところです。行政としては、単独企業だけでなく、業界団体や異業種交流団体などの企業ネットワークに積極的に情報発信することが求められると思います」 (天野氏)
* * * *
今回の調査報告書では、導入済みの企業をインタビューして、いわば実体験からの声を集めた点が特徴的だ。そのぶん強い説得力があると言えよう。
- 必要最小限の項目の策定でも、やるとやらないでは違いがある
- 緊急時に自社に対する信頼を維持できる
- 策定することで、ISOのPDCAサイクルを生かした取り組みができた
- 取引先の要請に対して真摯な報告対応が積み重ねられた
- BCPは取引先やお客様に対し責任を持って継続的に商品を供給していくという宣言である
各企業のこうした取り組みとその成果は、これから策定をめざす企業にとっては示唆に富んだ情報になるのではないか。ぜひ一読をお奨めしたい。
プロフィール
古俣愼吾 Shingo Komata
ジャーナリスト
経 歴
1945年、中国生まれ。新潟市出身。中央大学法学部卒業。広告代理店勤務の後フリーライターに転身。週刊誌、月刊誌等で事件、エンターテインメントものを取材・執筆。2000年頃からビジネス誌、IT関連雑誌等でビジネス関連、IT関連の記事を執筆。2006年から企業の事業継続計画(BCP)のテーマに取り組んでいる。