芝生事業にも注力
地元の大学生やユースチーム、高校のインターハイの試合などにピッチを貸し出して稼働率を上げています。前回もご紹介したように、アントラーズの試合が開催されるのは年間およそ20回。それに加えて別の試合で活用される例を含めると、現在は年に80試合弱がカシマサッカースタジアムで実施されていますね。当面は年間100試合を目指して稼働率アップに努めていきます。
――そうなると、ピッチの芝生を常に良好に保たないといけないですよね。芝が荒れ放題になってしまうとボールコントロールにも影響がでますし。
確かにその通りです。そのために現在は芝生(ターフ)事業にも力を入れているんですよ。この数年間、オールシーズンでピッチを活用できるよう、芝の生育についての研究を重ねてきました。それと共に、海外のスタジアム運用を参考に、短期間で芝を張り替える技術を磨き上げてきたんです。芝生を育てる圃場(ほじょう)も整備していますので、サッカー以外の、例えば地域の運動会やバーベキューパーティといった様々なイベントごとに芝を張り替えて利用すれば、いずれは年間を通しての稼動が実現できるでしょうね。
――そこまで多角的にスタジアムを利用できたら、本当にすごいですね。
前回、スタジアム内で運営している、いろいろな施設の話もしましたよね。それらも合わせて考えると、現時点でもアントラーズほどスタジアムを様々に活用できているクラブは、国内にないのではないでしょうか。Jリーグでは、年間通してピッチのコンディションを良好に保ち続けたクラブに、ベストピッチ賞を与えています。アントラーズは、プロ以外の試合と、試合以外に実施されるイベントでの活用も含め、年間を通じてベストな状態にピッチを維持したうえで、この賞をいただくための努力しているところです。
――年間を通じた稼動に耐え得る体制を整備し、ベストピッチ賞に輝くのを目指していると。
研修で様々な業務を経験
慣れてはきましたね。それこそ、クラブハウスの事務所にいる時間が増えても苦痛ではなくなってきました。デスクワークでパソコンの前に座り続けるのも当たり前になってきたので(笑)。
――アントラーズには、スタジアムや試合の運営、営業・広報などに関わる事業部、企業全体の事務に関わる総務部、そしてチームの育成・強化を担当する強化部があると聞きました。中田さんご自身は研修で事業部内の様々な業務を経験している最中だとか。
そうですね。事業部のスポンサー関係の営業、スタジアム運営業務などに携わって、現在は広報の仕事をしています。
――運営する側になってみると、違う発見があるんじゃないですか。
ええ。例えば試合が開催される日です。選手は1時間半前にスタジアムに集合して、アップをして、試合をして、帰るだけ。でも、運営側は事前準備だけでなく、試合当日も5時間前には集まって全体ミーティングをします。これだけたくさんの時間と人員・労力をかけて1つの試合が行われているなんて、現役時代は知りませんでした。試合開催日にコンコースでファンイベントがあるとしても、選手はその場に行くだけ。でも、運営側のスタッフは事前にシミュレーションもして、本番中はトラブルがないように目を光らせている。警備関連でも、安全に試合が行われ、何事もなく終了できるよう、試合ごとに様々な配慮が行われているわけです。
スポンサーと関わる仕事も増加
選手は試合に勝つ努力をするのが第一です。ただ、こうした裏方の苦労を知っておくと、さらに自分の所属するクラブへの愛着は増すのかもしれないと思いました。選手が全力を尽くせるように、クラブのスタッフが常にお膳立てしてくれていることを知れば、一つひとつの試合をより大事に戦えるんじゃないか。あとひと踏ん張りが必要なプレーで足が動くかどうかというときの、後押しになることもあるかもしれない。自分の現役時代を振り返って、そう思うことはあります。
――イベントで試合に出たり、サッカー教室に参加したりしていると思います。それに向けた体力維持はしているんですか?
それがね、してないんです。引退した他の選手に話を聞いていると、みんな「数ヶ月も経てば体を動かしたくなる」と言っていました。でも、僕はそんなに動かしたくならない(笑)。ただ、テレビに出る機会も多いし、サッカー教室で子どもたちを前にして太っていたら恥ずかしいから、最低限のことはしていますけどね。
――体型を維持するのも大変そうです。お酒を飲む機会も増えたでしょうから。
いやー、確かに増えましたよ。スポンサーの皆様と食事をしたり、飲んだりする機会も現役時代に比べて、遥かに多くなりましたからね。
――そういう話が出たところで、次回以降はスポンサーの方々やサポーターとの関係づくりなどをクラブとしてどのように行っているのか、そして中田さんがそれらの業務にどのように関わっているのかなどをうかがっていきます。
vol.3 365日稼動できるピッチづくり
(取材:2016年7月)
著者プロフィール
中田 浩二 Nakata Koji
株式会社鹿島アントラーズFC C.R.O
経 歴
1979年7月生まれ。滋賀県大津市出身。1998年、帝京高校から鹿島アントラーズに加入。数々のタイトル獲得に貢献した。2005年にフランスのマルセイユに移籍。2006年からはスイスのバーゼルで活躍し、2008年に鹿島に復帰する。2014年に現役を引退。日本代表では1999年の FIFAワールドユース選手権で準優勝、黄金世代の1人として注目を浴びる。2000年シドニーオリンピックU23代表、2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップでも代表選手として大会に臨んだ。J1リーグ通算 266試合33得点、国際Aマッチ57試合2得点。現在は鹿島のC.R.Oとして多方面で活躍している。著書に『中田浩二の「個の力」を賢く見抜く観戦術―サッカーが11倍楽しくなる!』(ワニブックスPLUS新書)がある。
鹿島アントラーズオフィシャルサイト
http://www.so-net.ne.jp/antlers/
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