第1回 ラテラルシンキングって何?
皆さんはじめまして。木村尚義(きむらなおよし)です。私はロジカルシンキング(論理的思考)と対になるラテラルシンキング(水平思考)の研究を続けてきて、これまでに関連書を日本一多く執筆しています。ちなみに身長は2mマイナス10%。えっ、関係ない? いえいえ、自己紹介に謎を入れて記憶にとどめてもらうのもラテラルシンキングでは大事なこと。どうぞ、「でかい人かも・・・」ぐらいに思っておいてくださいませ。
これからの日本は海外だけでなく人工知能とも競争しなくてはなりません。浮世絵からウォークマン。かつて日本は、ユニークな発想で世界を魅了していました。過去にできていたのなら、これからもできるはず。日本文化と相性のよい思考術“ラテラルシンキング”なら、あなたのビジネスがさらに楽しく変わります。
さて、ラテラルシンキングを説明する、その前に頭の柔軟体操をしませんか。
問題その1【子象の救出】
子象の胴にロープを回してトラックで引っぱり出そうとしましたが、井戸に入ろうとすると暴れて人が潰されてしまいそうです。ショベルカーで掘り起こそうとしましたが、砂地なので井戸そのものが崩れてしまいます。
あなたなら、どうやって子象を救出しますか? 答えは後ほど。
昔から日本人はラテラルシンキングが好き
ラテラルシンキングとは、昔から日本人が好きな「とんち」と同じ思考です。一休さんは超有名なので、少々マイナーな吉四六(きっちょむ)さんのエピソードを紹介します。大分県の民話で、酒屋を営む廣田吉右衛門がモデルとされています。
吉四六さんは、意地悪な役人から、「自分たちの国から一番遠いのはどこの国だ」と聞かれ、とっさに尾張(現在の愛知県)と、でまかせを答えます。役人は、吉四六さんのウソに気がついて陸奥(現在の青森県)に決まっていると反論します。何事かと町人も集まってきたので、どちらが正しいか賭けることになりました。
吉四六さんは、ちょうど通りかかった旅の僧侶に聞けばわかるといって連れてきます。昔から僧侶と言えば博識で頭がよいとされていましたから、役人もそれなら勝ち負けがはっきりするだろうと納得します。
吉四六さんは、尾張と陸奥はどちらが遠いか? と聞くと、こっそりお布施を渡します。
僧侶は思わず「おありがとうございます(尾張が遠ございます )」。
賭けは、吉四六さんの勝ちとなりました。
民話ですから・・・おおらかです(笑)。とんちは解決策にならない? そうですか。あなたのご見識ごもっともでございます。でも、ラテラルシンキングはユーモア歓迎ですから、こうした答えもアリです。納得いきませんか? では、尾張つながりで、戦国武将の話をしましょう。
尾張の武将と言えば織田信長です。いくさ上手で敵には容赦ないというイメージが強い信長ですが、意外にも女物の着物をひらひらさせたりもしていました。信長の自由奔放な振る舞いが理解できず、周りの武将からは「尾張の大うつけ(まぬけ)」と呼ばれます。
その信長は前提にとらわれず戦いの常識を次々と変え勝ち続けます。政治も例外ではありません。岐阜に拠点を構えたとき、城下での商売を無税にしました。これが楽市楽座です。他では戦費を捻出するため税金をかけることが常識でした。ではなぜ、税金をかけなかったのでしょう?
当時の岐阜はまだ田舎だったので、道路整備ができていません。でも、楽市楽座によって全国から商売人が集まります。人が集まると、踏み固まって自然に道ができるのです。道ができれば商売人を相手に飯屋や宿屋ができるでしょうし、宿屋にも労働力が必要になりますから自然な流れで街が出現します。税金から道路工事を捻出するよりも、安上がりだったというわけです。信長にしてみても、楽市楽座が成功すれば全国に名をとどろかせることができて、一石二鳥です。
楽市楽座は、昔話だから現在のビジネスとは違う? ああ、なるほど。あなたの疑問ごもっともでございます。では、現代の楽市楽座と同じ手法で国内トップになった事例を紹介しましょう。
インターネットの草分け的存在であるYahoo!はショッピングモール事業で、楽天市場に後れを取っていました。2013年に孫正義は「eコマース革命宣言」を発表し、Yahoo!ショッピングモールは出店料を無料とします。結果、1年後には出店数で国内トップのショッピングモールとなりました。
全て無料なら、Yahoo!はどうやって儲けるのかって? たくさんの出店者が集まれば、その他大勢に埋もれてしまいます。その他大勢から抜け出すには、出店者はYahoo!に広告を出すでしょう? 広告収入で儲かればいいわけです。
損して得取れという逆転の発想もラテラルシンキングなのです。
【子象の救出】答え
「子象の背中に少しずつ砂をかけ続ける」
周囲には、いくらでも砂があります。子象の背中に砂をかけるといやがって身体を揺すります。すると砂が足下に落ちます。足が埋まってしまいますから、子象はいやがって足踏みして砂から足を出します。そうしたら、また背中に砂をかけます。これを繰り返していけば、涸れ井戸が埋まっていずれ子象は外に出てこられます。
像を引っ張り出すのではなくて、逆に井戸を埋めてしまう考え方がラテラルシンキングです。
次回は、ラテラルシンキングが広まった経緯。そして、ラテラルシンキングでピンチを切り抜けた会社を紹介します。
木村尚義の「実践! ラテラルシンキング塾」
第1回 ラテラルシンキングって何?
執筆者プロフィール
木村尚義(Kimura Naoyoshi)
創客営業研究所代表・企業研修コンサルタント
経 歴
日本一ラテラルシンキング(水平思考)関連書を執筆している著者。1962年生まれ。流通経済大学卒業後、ソフトハウスを経てOA機器販社に入社。不採算店舗の再建を任され、逆転の発想を駆使して売り上げを5倍に改善する。その後、IT教育会社に転職、研修講師としてのスキルを磨く。自身が30年以上研究している、既成概念にとらわれずにアイデアを発想する思考法を企業に提供し好評を得ている。また、銀行、商社、通信会社、保険会社、自治体などに「発想法研修」を提供している。遊ぶだけで頭がよくなる強制発想ゲーム「フラッシュ@ブレイン」の考案者。著書に、『ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門』(あさ出版)、『ひらめく人の思考術 物語で身につくラテラル・シンキング』(早川書房)など多数。
オフィシャルホームページ
http://www.soeiken.net/(2016.5.25)
KEYWORD
-
次の記事
木村尚義の「実践! ラテラルシンキング塾」 第2回 専門家だからこそ抜けられない深い溝 木村尚義の「実践! ラテラルシンキング塾」