嫁に泣かれて本部に行って
だらけた空気に驚愕
でも私は嫁に、「俺だって忙しいんだから、そんなことは自分でなんとかしろよ」って言っちゃったの。そんなのに付き合ってる時間ないよ、って。そしたら嫁は「アナタはそこまでは忙しくない、会社の様子を見る時間はある!」って言うわけ。言われれば確かに、2014年の中国進出から多忙に任せて直行直帰が習慣になる前は、早朝移動じゃない限りは必ず朝本部に寄ってから出張に行っていたから、嫁の言い分も一理ある。さすが我が嫁だ。私を言い込めた(笑)。
そんなわけで多忙に逃げず、出張前にキチンと朝本部に寄ってみんなと一緒に掃除して朝礼をやってから出かけるように決めた。そして翌日、6月6日。規定の出社時間の朝8時55分に本部に着いて、店の脇の玄関から階段をあがって事務所に入り「おはよー」と言うと、何も反応がない。私に対してだけじゃない、フロアの誰も、朝の挨拶をまともにしない。空気が重い。どよ~んとしている、総勢20名弱の本部。しかも、朝の掃除を始める気配もない。以前は毎朝ちゃんと掃除をしていたよなぁ。で、今は息子の勇士が中国支社から帰国して本部にいるから、「朝は掃除しないのか?」と聞いたら、「掃除? 週に1回やるよ」と言うじゃないか!
私はブチ切れた。「いつのまにそうなったんだ! みんな毎朝掃除しろーっ!」――問答無用で掃除にとりかからせた。掃除の次は9時15分から全体朝礼だ。朝礼ではクレドを全員で唱和する決まりだが、勇士に聞くとこれも毎日はやっていないと言う。「店舗には毎日やるように指示を出しときながら、本部はやらないってどういうことだ!」私は再度ブチ切れた。
でも社員に言わせると、掃除を毎日しなくなったのもクレドを毎日唱和しなくなったのも、私がそれでいいって言ったからそうしたと言うんだよ。私にしたら「何言ってるの?」だ。何の話してんだこいつら、って感じだった。でも、そのうちに段々わかってきた。要するに、私の言葉の真意をとらえず断片だけをとらえ、曲解していたんだよね。
水と組織は低いほうに流れ
いつのまにかタガを外す
また別の日は、早めに全員そろったからそのタイミングで始めようとした時があって、「始めるなー! 15分からだー!」と止めさせた。その時は「全員早くそろったのに、この3分間何してろっていうんですか! 効率が悪い」と反論が出たから、昔から言ってきたことを再度説いて聞かせた。
「いいか、新幹線が駅に早めに着いたからって、定刻より早く次の駅に出発するか? しないだろう。組織をまとめるというのはそういうことなんだよ。俺はいつも言ってるよな。時間はみんな平等。偉い奴もそうでない奴も時間に対しては守るか守らないかだけ。なのに、誰かの都合で早めたり遅めたりして時間ルールを個々に合わせていたら、物事に対する節度がなくなってくる。いろんなタガが外れてくる。だから時間厳守は大切なんだよ。」
タガが外れていたのは“社長室”もそうだ。サトーカメラには社長室はない。なのにいつのまにか、応接室が社長専用の部屋みたいになっていた。棚や机には社長の私物が鎮座していた。私は段ボール箱にぶち込んで全部処分した。その日は、たまたま社長は不在だった。(笑)
そして次の日。社長が私のところに来て耳元でささやいた。
「あのさ、机の上にあったこういうの、あれも捨てちゃった?」
「はい、無ければ捨ててしまいました。その時はゴメンなさい!」
社長は「そうかぁ~」と言ってニコッと笑ってくれた。もし「なんで捨てた!」と逆ギレするようならば、それこそ引退してもらうしかないと思っていたから、私もホッとした。
私は別に、これらのことで人を責める気はまったくない。良くないとわかっていても、なかなか自分じゃ変えられない、やめられないのが人間だからだ。本部の空気がだらけていたのも応接室が私物化されていたのも私の直行直帰も根本は一緒だ。組織は水と同じ。惰性に任せたら低いほうに流れる。そこはやっぱり強制的でも率先垂範「自ら変われ」で変えないと駄目だ。今回それを思い知ったから、留守をあずけているつもりの兄弟にもあらためて自らが行動で示すことで、お互いが察し気付いてくれたことが何よりも嬉しかったし最高の収穫だった。
甘えるな! ごまかすな!
自分が一番になれ!
そして今、私はそれらこれらをひっくるめて、最終的には私自身が親兄弟に甘えていたことに気付かされた。
“家族だから”“同族経営だから”いちいち説明しなくてもわかってくれるだろう、と思うこと自体が甘えなんだよね。そう気付いたら自分が本当に情けなくなった。「俺は54歳にもなってまだ親兄弟に甘えていたのか。14歳の時にいろいろあって自殺行為に走ってからの40年間、俺は何も変わっていなかった、何も成長していなかったのか・・・」――そんなふうに感じて、久しぶりに自分の人生に悶々としていた。
そんな時、世間は夏休みということもあって26日の「とうほく勝人塾」には参加者の息子さん14歳が参加してくれて、おかげで14歳の少年と対峙することができ、やっと感情的な部分の気持ちの整理がついた。最後は彼への感謝もこめてその話で〆よう。
彼は利口な子だ。でも思春期らしくいろいろ迷うなかでトップレベルの成績がじゃっかん落ちてきて、お母さんは心配するし、お父さんは「勉強だけじゃない」と言うし、どうしたらいいかわからなくなっていた。私の嫁の出社拒否と一緒だ。
私は14歳の彼に聞いた。
「お前は、馬鹿か?利口か?」
「僕は利口です。」
「おおそうか、じゃあ次。お前は、試合で負けたら悔しいか? そうでもないか?」
「悔しいです。」
「そうか、じゃあ次。よくあるじゃん、負けた相手に対して「自分の代りに優勝してくれ」って。あれ、お前もそう思うか? ちなみに俺は思えねえんだよ。次の相手にコテンパンにやられちまえ、って思うんだよ。お前どうだ?」
「僕も同じです! 次の試合に負けちゃえって思います!」
「よしわかった。お前は生粋の負けず嫌いだから見込みがある。勉強を諦めるな。学校で一番になれ。」
彼はびっくりして私を見ている。断言されたことがなかったんだろう。
「今の時代はみんな、ちょっと負けたら「僕の代りに一番になってくれ」ってすぐ言うんだよ。あんなのはゴマカシだ。自分をごまかすな。まずお前は、お前が一番になれ。得意科目は何だ。何なら一番になれる。」
「数学と理科なら。」
「よっしゃ決まりだ。数学か理科でいいから学年トップになれ。迷うのはそれからだ!」
私が思うに、利口な奴は一時の成績に関係なく利口なの。強い奴はどこまでも強いの。ただ、努力しなかったせいで努力した馬鹿に負けたら、そのときこそ本当に馬鹿になっちゃうんだよ。できる奴は下と見比べるな、上を目指せ。できる奴ができない奴を助けてあげるのが社会だ。会社組織はそれを促す組織であるべきなんだ。
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第13回「ニコニコチャンネル ニッポン勝人塾」(9/2 15:00 – 16:00)の告知
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vol.34 常に上を目指していないと駄目な理由
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
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