B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

 

自信はどうすれば持てるようになるか?

 
 今回で、このコラムは最終回となる。私としては、心理学を難しいものと考えずに、比較的当たり前のことを言っていて、仕事にも使いやすいものだということを知ってほしかったのだが、それがうまくできたかどうかは自信はない。
 ただ、たとえば、この原稿を書くにしても、「受けるはず」 とか、「わかってもらえるはず」 という自信がないと、なかなか書き上げて、入稿することはできない。なんやかんやいって仕事が遅い人間というのは、技術や能力の問題もあるだろうが、自信のない人間が意外に多い。「これでOK」 と提出先に言ってもらえる自信が持てないと、納期が迫っていても、仕事を終え、納入することが難しくなる。
 ということで、どうすれば、自信が持てるかということを、心理学者である私にもよく聞かれる。
 
 最終回のテーマとしては、「仕事における自信論」 というのもいいかと思ったゆえんだ。
 
 

自信の中味――楽観と諦観と試すこと

 
 私は、仕事や勉強(特に受験勉強)における自信というのは、最終的には 「自分を信じる」 というある種の楽観と、「世の中には完全などというものはない」 というある種の諦観を持つことで得られると思っている。
 人間の脳の重量や神経細胞の数にほとんど差がないのだから、仕事であれ、勉強であれ、いいやり方を見つけて(ここは意外に大切な要素で、やり方を知らなければ、多少頭のいい人でも勝てない、できないという謙虚さも持っておいてほしい。「自己流」 に過度な自信を持つべきでない)、きちんと努力すれば、成果は出せると信じることだ。
 そのいっぽうで、完璧などということはあり得ないのだから、そこそこ、自分で合格点だと思えた時点で、暫定的にでも、仕事を終えたことにする、提出することだ。
 自分から見て合格点に達していても、相手から見て合格ラインに達していなければ、残念ながら、直しを要求される。ただ、納期より前であれば、直しは可能だろうし、試験と違って、直してでも合格点に達すれば、仕事をやり終えたことにできる。
 
 私が今、非常に実用的だと思っている森田療法という心の治療法では、変な自信の持ち方が、心の病のもとになると考えられている。たとえば、「手洗い強迫」 といって、何十回も手を洗う人というのは、自信がなさそうに見えるが、自分の力で黴菌がゼロにできるという変な自信を持っている。人間の力では黴菌をゼロになんかできないのだと開き直ることができれば、この強迫から脱却できるのだ。
 
 自分を信じて、できる人のやり方をまねて努力する。成果が出なければ、別の人のやり方をまねて、また努力する。自分を信じていればこそ、他人を盲信するのでなく、いろいろとやり方を試すことができる。そして、暫定的な答えを出したら、他人の判断を仰ぐ。こういうことの繰り返しで、仕事も速くなるし、能力も徐々に高まり、「自分を信じる」 自信から、「他人からあてにされる」 自信に変わってくるのだ。
 
 

自信を確かなものにする次のステップ

 
 ただ、仕事には、「これだけはしてはいけない」 という地雷のようなものがある。いくら、順調に進み、自信を持てるようになってきても、一つの失敗、一つのミスが命取りになることは珍しい話ではない。新入社員ならそれが許されても、ある程度のベテランになるとそうはいかない。
 自信を確かなものにする次のステップは、その手の地雷についての情報収集と、それに当てはまらないかのチェックである。人間には失敗はつきものだし、それは想定しておくに越したことはない。第7回で論じたように、失敗のパターンをたくさん知ること、失敗から学ぶことで、そのリスクは大きく減じるが、特にこれだけはしてはいけないという地雷に当たるものだけは、確実に知っておくほうがいい。
 
 また、納期前に暫定的な完成品を提出しろと述べたが、修正で済まずに、全面的なやり直しを申しつけられることもある。要するに失敗だったということだ。
 この手の最悪の事態を想定しておくことも、リカバーに要する時間を大幅に短縮してくれる。「これが受け入れられなかった場合は、この方向性で対応していけばいい」 という 「想定」 ができていれば、失敗がわかった時点ですぐに仕事にとりかかれる。いろいろな可能性が考えられるから、逆に自信が持てるのである。
 
 
 成功体験は人間に自信を与えてくれるが、自信と、建設的な細心(取り越し苦労や意味のない心配ではない、いろいろな可能性の想定)は、表裏の関係にあることを知っておいて損はない。
 私が最終回に、これまでの人生でつかんだ最も重要な仕事術、とくに多作の仕事術を伝えられるとすれば、このエッセンスに尽きると言っていい。読者にもぜひ参考にしてもらって、それぞれの仕事に役立ててほしいと願う。 
 
 
 
 
 心理学で仕事に強くなる ~和田秀樹のビジネス脳コトハジメ~
vol.9 (最終回)自信と慎重さを併せ持つ

 執筆者プロフィール  

和田秀樹 Hideki Wada

臨床心理学者

 経 歴  

1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、アメリカ、カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科を経て、国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)。2007年、劇映画初監督作品『受験のシンデレラ』でモナコ国際映画祭最優秀作品賞受賞。2012年、第二回作品『「わたし」の人生』公開。主な著書に『マザコン男は買いである』(祥伝社新書)、『「あれこれ考えて動けない」をやめる9つの習慣』(大和書房)、『人生の軌道修正』(新潮新書)、『定年後の勉強法』(ちくま新書)、『痛快!心理学 入門編、実践編』(集英社文庫)、『心と向き合う 臨床心理学』(朝日新聞社)、『最強の子育て思考法』(創英社/三省堂書店)、『大人のための勉強法』(PHP新書)、『自己愛の構造』(講談社選書メチエ)、『悩み方の作法』『脳科学より心理学』(ディスカバー21携書)など多数。

 オフィシャルホームページ 

http://www.hidekiwada.com

 
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事