B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

魅力的な農業にするための攻めた改革

 
glay-s1top.jpg
自民党の農林部会長を務める小泉進次郎氏がJA関係者と意見交換会を開き、衰退の危機にある農業を魅力あるものにするための攻めた改革を行うべく、熱い議論を交わしている。9月に自民党本部で開かれた同党農林水産業骨太方針策定プロジェクトチーム(PT)では、出荷の際に農家が負担する手数料のあり方をめぐり、農協改革に後ろ向きともとられるJA全農幹部の発言を小泉氏がその場でただす一幕もあった。11月に与党が取りまとめる農業改革の具体案では、全農の構造改革にどこまで踏み込むのかが注目されている。
 
JAが指摘されている大きな問題に資材価格と流通構造がある。JAで販売する肥料などの資材は、全農の仕入れ価格に各段階で手数料や流通経費が上乗せされるため、ホームセンターなどで買うよりも値段が高い。また、地域農協により資材の販売価格に差があるとして、小泉氏は資材価格の全国調査を農林水産省に求めている。
 
流通構造に関しても、生産者が農産品をJA経由で出荷する場合、地域ごとの平均売値をもとに、流通コストと手数料を差し引いた額が生産者の手取りとなる。だが、そもそも流通コスト削減の意識が高いとは言えないうえに手数料の二重取り懸念(全農の青果センターに出荷時8.5%、全農県本部に1%)も指摘されており、これでは生産者の所得を向上させるどころか、阻んでいるとも言えないか。この現状を受け、JAを通さず独自の販路で農産物を出荷する生産者も増えている。
 
いっぽう、農業系企業はもちろんのこと、各業界から様々な企業が農業への新規参入を試み、新技術を駆使した商品を開発中だ。
 
 

スマート農業の実現に向けての企業の取り組み

 
今年10月12~14日に開催された第6回農業ワールド(国際次世代農業EXPO、国際農業資材EXPO、国際6次産業化EXPO)には約730社が出展し、来場した農業関係者と活発に商談を交していた。まだまだコストや設備面の課題が多い印象はあるが、IT農業や植物工場、太陽光発電といった新技術や新商品にこれから伸びていく産業の息吹を感じた。
 
株式会社セカンドファクトリーは、昨年徳島県の企画でつながりができた農家と共に何かできないかと考え、生産者向けの6次産業化施設「THE NARUTO BASE」をこの11月にオープンする。同社はこれまでICTサービスをメインに、レストラン運営や外食産業向けシステムを提供してきた経緯があり、そのバックグラウンドを生かし販路を確保した。生産者が6次産業化を実現するには課題があまりに多い。後継者などがいて新しいことを取り入れる力のある例は少数で、農家には高齢者が多く、商品開発や販路の確保は難しいのが現状だ。何をつくり、どこに売るのかが明確でなければ設備投資も無駄になる。そこで同社は「THE NARUTO BASE」を共創プラットフォームとして、商材企画や加工、流通、販路拡大など、生産者が苦手な部分をカバーしていく。
 
太陽光発電とLED、ミスト栽培を組み合わせた株式会社サンパワーの、サンパワー次世代植物工場(特許申請中)は、太陽光発電の売電が設備の設置費用を稼ぎ出すことで、ほぼリスクのない工場経営ができるそうだ。太陽光で発電した電力の売電では電力会社に買い取り義務があり、経済産業省が決める売電価格は産業用電力には20年間適用される。設備設置費用の下落に合わせて売電価格は毎年引き下げられるものの、産業用電力の場合、設置年度を基準とした固定価格買い取り制なので引き下げの影響は受けず、オーナーの利益が出るように設定されている。ただ、地域によっては出力制御対象(電力過剰供給の場合買い取りしなくても良い制度)の場合があるので、経済産業省発表の一覧表を確認してほしい。
 
植物工場のメリットは、ITで管理するため農業の知識がない人でも作業ができる点だ。同社の植物工場では、栽培する水をミストにすることで水耕栽培よりも水の使用量を90%カット。設備の重量も軽くなり女性や高齢者でも簡単に栽培棚を動かせるため、清掃などの管理もしやすい。また、LEDで育てる野菜は種や苗が同じでも光の照射率と色、ミストが含む培養液の工夫により、野菜が含む機能性成分を高めることができる。大学や研究施設でも同種の研究が進められており、筆者も調べながら、LEDでそんなことができるとはすごい時代がやってきたなと驚いた。植物工場は農業の発展において大きな可能性を秘めているようだ。
 
同社の提供する植物工場では多種の葉物野菜を栽培でき、国指定の検査機関で成分検査を行ったうえで成分表示をする。販売先についても生産者任せにせず、学校給食や病院、レストランや高級スーパーなどへの販路拡大を手伝う。これらを太陽光発電と組み合わせることで購買者である生産者のリスクは極限まで減っていく。設備や工場を売った後も生産者と関わり、他人事にしない姿勢に、非常に好感を持った。
 
 

農業を成長産業にするには

 
これから産業としての“農”を支援する企業や団体には、たとえば上記2社のように、生産者と共に新商品や販売のことまで考え、協働する姿勢が必須なのではないか。高齢化が進み、生産者が単独でICTや新技術を使いこなすのは難しいが、彼らの豊富な経験や作物知識は産業としての“農”にとって宝である。生産者と彼らを助ける新規参入企業とが温故知新の姿勢でお互い良いところを引き出しあっていけば、農業の新しい未来が開けるだろう。
 
また、農業を成長産業へと導くためには、企業や若い世代を取り込めるような政策がやはり必要だ。それには全農の構造改革は急務である。流通構造や資材販売の価格なども見直し、生産者の目線に立った改革を行わなければ、農業に関わる企業や農家の農協離れは加速するだろう。JAには組織優先の姿勢をやめ、農産業全体の利益を考える俯瞰的な視点を求めたい。11月の農業改革具体案では、企業や若い世代が農業を魅力ある産業に感じ、参入するメリットが見込めるようになる政策を打ち出してくれるよう期待する。

 
 
(ライター 木村千鶴)
 
(2016.11.2)
 
 
 
 

KEYWORD

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事