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2015年は「値上げの年」として記憶に刻まれるかもしれない。日本郵便は直近の8月1日にゆうパックの料金を値上げした。調味料大手のカゴメもソース63品目を同じく8月1日出荷分から値上げ。キッコーマンも10月からの値上げをすでに発表済みである。ゆうパックは23年ぶり、カゴメとキッコーマンは25年ぶりの値上げだ。製菓大手のロッテは41年にわたって据え置いてきた「ガーナミルクチョコレート」の価格を今年7月に引き上げた。外食では大手牛丼チェーンのすき家が4月に牛丼を値上げ。コーヒーチェーンのスターバックスや、ケンタッキーフライドチキンも今年に入って早々に値上げを敢行した。
その他に、パスタやパンなどの小麦製品、納豆などの大豆製品、トイレットペーパーなどの日用品についても、2015年は値上げを発表するメーカーが相次いでおり、賃上げが浸透しているとは言いがたい日本の家計を直撃している。
値上げをもたらしているのは円安による原材料費の高騰や人件費の上昇、電気料金の値上げなど経済活動の基本とも言えるコストの水位上昇だ。溺れないためには、企業努力では吸収しきれないコスト増を価格転嫁せざるを得ない。他社の顔色をうかがいつつ、タイミングを合わせるのはいかにも日本的だが、その結果として2015年が値上げラッシュの年になったものと思われる。
加えて、アベノミクスにより一部企業でボーナスが増えるなどして、「値上げできる環境が整った」との判断につながる材料となっている。状況を見据えての企業判断だが、値上げ発表の記者会見にはなぜか、悪行を告白する懺悔の雰囲気が漂う。
日本経済は終戦後長く右肩上がりで成長を続けてきた。それに伴って物価も上昇したが、バブル経済の崩壊とともにそのペースにはブレーキが掛かり1998年からは本格的なデフレに突入、2012年まで価格が凍結する冬の時代が続いた。アベノミクスが打ち出された2012年以降は再びインフレに転じるが、長く続いたデフレにより萎縮した企業には「値上げすれば売れなくなる」というトラウマが染みついている。
デフレの時代と重なる「失われた20年」には賃金が据え置かれ失業率が高まる中、値上げは消費者にとって「心ない仕打ち」ととらえられた。良心的な企業は消費者負担の軽減に努めるのが当然であり、「値上げ=企業努力の不足」であるとする社会常識が形成されたのだ。
対消費者だけでなくBtoBでもこの常識は流用され、流通大手や完成品メーカーなど「川上」の企業が商品や部材を納入する「川下」の企業に値下げを強要することが半ば当たり前となった。もともと「川上」企業に大手が多いこともあり、中小が多数を占める「川下」の企業は値下げの要求を断りにくい。そこに値下げしないことを悪とする「常識」がのしかかってくれば、断ることは困難だ。結果として中小企業の業績悪化に拍車が掛かり、経済停滞の一因になったようにも見える。
値上げはものの価格を引き上げるという単純な行為だが、実は「いい値上げ」「普通の値上げ」「悪い値上げ」の3つに分類することができる。
「いい値上げ」は商品やサービスの価格を引き上げるのと同時に、それ以上の価値を商品に付加するもの。「普通の値上げ」は原材料費や人件費の高騰など、企業努力では吸収しきれない外的要因によるコスト増をそのまま価格にのせるもの。「悪い値上げ」は単に利益率を上げることを目的に価格を引き上げ商品やサービスの価値は落とすものである。
言い換えるとコストパフォーマンスを上げるのが「いい値上げ」、横ばいなのが「普通の値上げ」、低下させるのが「悪い値上げ」と言える。
日本社会では急速な高齢化が進んでいるが、高齢者は若者に比べて、ものの価値をしっかり計ってから購入する傾向が強い。今後はそういったクレバーな消費者が増えるため「悪い値上げ」をする企業は淘汰されていくだろう。買い手を納得させる値上げにはフィロソフィーが必要なのだ。