フードロスの削減と雇用の創出
パンを焼かない“夜のパン屋さん”
夜のパン屋さん
◆帰宅ラッシュの街角に現れる
話題の“夜のパン屋さん”とは?
夜の街角で営業する夜のパン屋さん
日常生活でも意識することが増えたSDGs。その中でも、特に身近であり、大きな問題として取り上げられているのがフードロスです。フードロスとは、本来まだ食べられるのに、捨てられてしまう食品のこと。世界を見ると、紛争や貧困といったさまざまな要因で食べ物が不足して飢餓が深刻化している一方で、農林水産省の発表によると、2021年の日本のフードロスは523万tにもおよび、世界の食料支援量を上回るのだとか。フードロスの多くは小売業の売れ残りなどの廃棄や、家庭での食べ残しということもあり、企業・個人問わず意識の変化が求められています。
こうした食料問題を考える日として、国連が制定した国際デーが毎年10月16日の「世界食料デー」です。コロナ禍にあった2020年の世界食料デーに、パンを焼かない不思議なパン屋が都内にオープンしました。しかも、営業するのは夜の街角。帰宅に急ぐ人たちが足をとめ、賑わいを見せるフードトラックに描かれた店の名は「夜のパン屋さん」です。
夜のパン屋さんでは、街のパン屋で営業時間内に売り切れなかった、ロスになるかもしれなかったパンを店から買い取り販売しています。フードロス問題の気軽な窓口として注目を集めているこの取り組み。実は、フードロス削減だけでなく雇用の創出という側面もあるのだとか。人と食をつなぎ、優しさの輪を広げている夜のパン屋さんについて、詳しくご紹介していきましょう。
◆人と人との支え合いで紡がれる
パンのセレクトショップ
店舗でのパンの破棄を減らすとともに雇用を生んでいる
職人がつくった大事なパンが、最後まで消費者に届く
夜のパン屋さんは、ホームレスの人々の生活サポートを軸に貧困問題解決を目指す認定NPO法人・ビッグイシュー基金の新規取り組みです。ホームレス状態の人や急な経済危機で生活困窮に陥った人たちが気軽に携われる、“食”をテーマにした新しい仕事づくりをしたいという思いから生まれたこのプロジェクト。店舗で売れ残ってしまったパンをピックアップするスタッフや販売スタッフなどの新たな雇用を生み、すぐに仕事が必要な人たちの助けになっていると言います。
夜のパン屋さんでのパンの売値は、協力店としてパンを提供する店舗に決めてもらい、その半値ほどで卸してもらうというシステム。この流れにより、協力する店舗にとってもロス削減や小さな収入につながるほか、職人が丁寧につくったパンが最後まで捨てられることなく消費者の手に届くという、誰にとっても嬉しい循環ができあがっているのも特長です。
現在、夜のパン屋さんに賛同し協力しているパン屋の輪は、都内だけにとどまらず、埼玉や京都、遠くは北海道にも広がり、20軒以上にもなっているのだとか。今後もこの輪が全国各地に広がり続ければ、破棄されるパンが減り、雇用も増え、より良い流れにつながることでしょう。
◆フードロスを削減するだけでなく
パンを通じて多くの人を笑顔に
神楽坂かもめブックス前での営業の様子
夜のパン屋さんは、現在、夜のパン屋さんの取り組みに賛同してくれている都内3ヶ所で定期的に出店中。月・木・金曜日は神楽坂かもめブックス前で19時から21時まで、水・木曜日は新田町ビルのスターバックス脇で17時30分から20時まで、月曜日はアーバンネット大手町ビルで17時から20時までオープンしています。
パンのラインナップはその日の仕入れ次第でさまざま。だからこそ、今日はどこの店のどんなパンと出合えるのか、毎回楽しみにしている人も少なくありません。夜のパン屋さんを通じてお気に入りのパンを見つけることで、直接店舗に足を運ぶ新たなきっかけにもなっているのではないでしょうか。
夜のパン屋さんのパンを購入することで、ただおいしいパンに心とお腹が満たされるだけでなく、フードロス削減に貢献できるうえ、協力店や販売に関わるスタッフのやりがいや利益にもつながります。世界の食料問題と聞くと壮大で遠い場所の話のように感じるかもしれませんが、まずは一人ひとりの小さな取り組みや心がけがあってこそ。自分にできることから始めてみませんか? その一歩として、ぜひ夜のパン屋さんのパンを手に取ってみてはいかがでしょうか。
どこのお店のパンが店頭に並ぶかは、その日のお楽しみ
各地のおいしいパンやマフィンと出合うきっかけにも
夜のパン屋さん
https://yorupan.jp/