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映画は喧嘩や。ビジネスもそうやないんかい ―― 映画監督・井筒和幸が私的映画論にからめて、毎回一つのキーワードを投げかける。第18回はキューブリックの隠れた傑作 『バリー リンドン』(1976年・アメリカ) から、運命を 切り抜ける
 
 
 世の中、アベノミクス焼き?って、いつになれば食べられるのかな? 株を売り買いしていない者は誰も食っていない。肉もブタもイカもエビも入っているらしいが、ジャブジャブ出回ってるらしいお金も見たことがない。今、個人消費が上向いてるとか。でも、今のうちに買っとかないと先々がわからないからそうしてるだけ。そのうち、焼き上がるから食おうと思ったら、そこに消費増税がゴッテリ上塗りされる。ボクらはいつミックス焼きが食えるのかな? 
 どうでもいいが、お好み焼きのミックス焼きも、結局、何の味かハッキリしなくて大して美味くない。まあ、関西人として、イカブタ玉なら許せるけどね(笑)。
 
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『バリー・リンドン 』 1976年・アメリカ
ブルーレイ発売中 ¥2,500(税込)
 今回、紹介する映画は、恐らく、誰もスクリーンでなんか見ていないはずだ。知る由もなかったはず。キューブリックの 『2001年宇宙の旅』 はなんとなくは知っていても、この3時間の長編はうんざりするほど粛々と話が進むだけで、毎日が忙しい人はこの先も、知らない限り、見ることもないだろう。だからこそ、お奨めする。ちょっとその辺には転がっていない数奇な人生。立身出世の野暮な大河ドラマじゃない。この先、もう二度と作られることのない映画。
 
 いきなり、アイルランドの18世紀に連れ戻される。電気など発明されていなかった、蝋燭と菜種油で暮らしていた頃。だから、蝋燭光でも写るキャメラのレンズが使われて、その光と闇で描かれた前代未聞の映画だ。(灯心の光だけの江戸の町がそんなレンズで撮られた例はない。日本の時代劇の光は嘘だらけ。テレビも映画も嘘だらけの光を何十年間も放ってきた。本当の江戸時代を誰も知らない、見たこともない。)
 その超リアルな画面で、負けん気が強く欲の深い一人の青年に付き合わされることになる。バリーという農家の青年だ。父さんは飼い馬の売り買いのいざこざで、決闘して殺されて、母さんの女手一つで育った。男どうしで諍いがあると、どっちかが名誉と自尊心を譲らないとすぐ決闘になった。なんでもすぐ決闘で決めた。相手に申し込まれると受けるしかない。日本も江戸時代は、武士だけが果し合い (決闘) をした。話し合いをしなかった時代だ。どうして、そんな意地の張り合いをしたの? どうして、どっちかが謝らなかったの?  どうして命まで懸けたの? (いまだに名誉とプライドに拘る生き方を一番に言う人間がいるが、ボクはそんな窮屈な18世紀に生まれなくて良かったとつくづく思うが。)若いバリーは従姉と恋をする。でも、従姉はイギリス駐屯軍の大尉とも恋をする。二股には理由がある。大尉は金持ちの家。従姉の一家は玉の輿結婚だけを望む。大尉に嫉妬したバリーは、大尉に決闘を申し込む。バリーの弾が大尉に命中。立会人がいたから決着はついたが、バリーは警察から逃げなければならない。それが掟だ。バリーは村を出るしかない。だが、バリーの銃には麻玉の弾が入っていたので、大尉は気絶しただけ。結婚を望む家族が、バリーを村から追い出すために共謀した罠だった。(こんなことが、決闘のたびにあったんだろうね。)
 
 バリーは、母から僅かな餞別の金を貰って、ダブリンに向うが、野道で “追いはぎ” に遭って文なしになる。そこで、仕方なく村にいたイギリス駐留軍の補充兵に志願し、海を越えて大陸に渡って、戦争に出る。人の運命はどこでどうなるかわからないという典型見本。お金がないと人間は何でもする。この時代は軍隊に入った。(今の日本で、もしも憲法が変わって “国防軍” ができたら、軍に就職する若者はどれほどいるかな? 軍人には死ぬ覚悟が要るし、人を殺す蛮勇も要るし、命の誓約書は入隊時に政府から必ず書かされるはずだ。改案9条はそういう条項だけど、皆、理解しているかな。)
 
 戦争シーンがまたリアルだ。太鼓を鳴らす鼓笛隊付きで、敵のフランス軍隊と横一列で向き合って歩いて前進し、最前列の兵隊からバタバタと倒れていく。両軍とも、こんな非常識な戦い方をした。弾に当たらず死ななかったバリーは、敬っていた上官が戦死したので悲しみに暮れながら、軍を脱走する。イギリスの将校の軍服と馬まで奪って、同盟国のプロイセン (ドイツ) に渡って、アイルランドへ引っ返そうとするが、プロイセン軍に職務質問され、ニセの身分証もバレてしまう。プロイセン軍に残るか、刑務所に入るか迫られて、また一兵卒に戻らされる。そしてまた戦場に出て、スパイ任務についてまた軍を脱出し、ヨーロッパ各地の社交界でイカサマ師となって渡り歩く。そして、いつの間にか、貴族リンドン卿の若い妻と出会い、リンドン卿が病死すると、彼女と結婚し、バリー・リンドンと名乗って、城主の後継にまで成り上がる。(ここまで2時間以上だが厭きない。) 農民バリーもよくぞ運を切り抜けてこれたものだと感心する。人の勝利と災難をこれだけ見ておいて最後まで付き合わなかったら罰が当たりそうだ。バリーは財産を浪費し、貴族界で爵位まで得ようと見栄を張る。子供が落馬して死ぬわ、それが元で酒に溺れるわ、妻も自殺を図るわ、おまけに、先主のリンドン卿の息子から、また決闘を申し込まれる。
 
 *
 
 バリーの未来はわからない。人生を切り抜けようとするたびに予期しないことがやってくる。それが運命、天命。ジタバタすると何かに見舞われる。ジタバタしなくても襲われる。いつも、何かに立ち向かわされる。バリーに付き合ってやってほしい。株価の乱高下などどうでもいいから、あくせくしないで優雅な心持ちで、この流転の人生を、神が眺めるように見ればいい。『ミッション・インポッシブル』 なんかより、よっぽど勉強になるから。
 
 
 

 執筆者プロフィール  

井筒和幸 (Kazuyuki Izutsu)

映画監督

 経 歴  

1952年、奈良県生まれ。県立奈良高校在学中から映画制作を始め、1975年、高校時代の仲間とピンク映画『行く行くマイトガイ・性春の悶々』を製作、監督デビュー。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降『みゆき』(83年)『晴れ、ときどき殺人』(84年)『二代目はクリスチャン』(85年) 『犬死にせしもの』(86年)『宇宙の法則』(90年)『突然炎のごとく』(94年)『岸和田少年愚連隊』(96年/ブルーリボン最優秀作品賞を受賞) 『のど自慢』(98年) 『ビッグ・ショー!ハワイに唄えば』(99年) 『ゲロッパ!』(03年) 『パッチギ!』(04年)では、05年度ブルーリボン最優秀作品賞他、多数の映画賞を総なめ獲得。『パッチギ!LOVE&PEACE』(07年) 『TO THE FUTURE』(08年) 『ヒーローショー』(10年)など、様々な社会派エンターテインメント作品を作り続けている。最新作『黄金を抱いて翔べ』のDVDが絶賛レンタル中。

 
 
 
 
 

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