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コラム 京大教授が“切る”現代経済 vol.9 夢の自動運転で人間の責任はどう変わるのか 京大教授が“切る”現代経済 京都大学大学院経済学研究科教授/経済学博士 依田高典

コラム
 
読者の皆さん、こんにちは。京都大学大学院経済学研究科教授の依田高典です。この連載では私の専門とする行動経済学—ココロの経済学—の知見をもとに、現代経済の中のちょっぴり気になる話題を取り上げて、その背後に潜む経済メカニズムを、読者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。第9回目は、人工知能の発展を背景に、急速に開発が進む自動運転車について考えてみましょう。
 
 

普及に向けて走り出した自動運転車

 
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右直事故を防ぐボルボ社の「インターセクションサポート」イメージ
これらの機能の集積で自動運転が実現した後も残る問題については
人が自ら考え続けるべきだ(画像提供:ボルボ・カー・ジャパン)
最近、ニュースで自動運転の記事を見ることが多くなっていますね。近年の自動車は先端技術の塊で、「コネクテッド・カー」と呼ばれ、自動車同士や道路、衛星などとつながり、様々な情報を交換しています。こうして、ドライバーはアクセル・ハンドル・ブレーキなどの運転操作をしなくても、十分な車間距離を保ち、適切なスピードを守り、目的地まで安全に到着できるのです。
 
欧米では、2010年代から、公道上で自動運転に向けた実証実験を始めています。アメリカのIT企業の雄であるグーグルは、自動運転技術の開発に精力的に取り組んでいることで有名です。トヨタも指をくわえて待っているわけにはいかず、自動運転のための新会社をシリコンバレーに設立しました。
 
トヨタや日産の「自動運転車」 いつから乗れる?

https://style.nikkei.com/article/DGXKZO07921520T01C16A0EAC001?channel=DF180320167063
 
自動運転技術は幾つかの段階を踏んで発展していくと考えられます。アメリカ運輸省の分類によると、レベル0からレベル4まで、5段階あります。
 
レベル0 自動運転機能のない一般の車
レベル1 自動ブレーキなど先進運転機能を持つ
レベル2 複数の先進運転機能を連動させて、ドライバーが一定の制御を車に委ねることができる
レベル3 人間が全く関与せずに自動運転ができるが、いざという時は人間の制御が必要
レベル4 人間は目的地を設定するだけで完全に自動運転可能
 
人間の代わりに、自動車がブレーキをかけて、対物や対人との衝突を防ぐようなレベル1の「運転支援技術」はプリウスのような人気車にも標準装備化されており、自動運転車は確実に普及しています。とはいえども、部分自動運転から完全自動運転へのアップグレードは一気に進むものではありません。仮に技術が完成しても、法制度の準備が整わなくては、自動運転車は公道を走ることができません。
 
 

責任の主体は人間か自動車か

 
人工知能技術の発展に伴い、自動運転は現在開発中のレベル1〜3の部分自動運転車から、レベル4の完全自動運転車へと進んでいくものと思われます。実際に、スウェーデンのボルボ・カーは、自社の車による死者と重傷者を2020年までにゼロにするという目標を掲げているそうです。
 
自動運転で浮上する「人間の責任」という難題──ボルボの新モデルで改めて浮き彫りに
https://wired.jp/2017/07/30/volvo-xc-60-self-driving/
 
しかし、実際の社会における最新技術の導入は、それほど簡単に進むわけではありません。一番の理由は、自動車の買い替えサイクルを考えると、自動運転技術が完成しても、古い技術の自動車が公道を走る相当の長期間、新旧技術が混在するからです。当然、人間が運転する自動車は予測不可能な振る舞いをするので、自動運転車が全ての可能性を織り込んでおくことは不可能です。運転者がハンドルから手を離して、車内でゆったりとくつろげるのは遠い先だと思われます。
 
部分自動運転のうちは、事故の責任は人間に、完全自動運転以降は、事故の責任は自動車にという原則があります。自動車保険会社も、新しい時代を前取りした保険商品を考えています。損害保険ジャパン日本興亜は、自動運転車に対応する自動車保険の特約を新設しました。システム故障などによって発生した事故で、運転者に損害賠償責任がない場合にも保険金を支払い、迅速な被害者救済を促すそうです。
 
 

自動化が描く未来はバラ色か

 
自動運転と責任の所在に関する議論は、とても重要です。人間は「限定合理的な存在」ですから、その保有する情報は不十分であり、備わる情報処理能力も不完全です。そうした人間が、自分の能力の届かざるところを補完する目的で、科学技術を発達させ、自動車や原子力を開発しました。しかし、皮肉なことですが、人間は科学技術を完全に使いこなすことができておらず、不注意や怠慢という「ヒューマンエラー」に起因する自動車事故や原子力関連事故に苦しめられています。
 
科学技術を使いこなせない人間が、ますます便利な科学技術を追求する。その行き着く先がどのようなものか、私には想像できません。常々、怖さを感じているところです。おそらく、個々の研究に従事する科学者自身も、未来を完全に見通しているわけではなく、目の前のパズルに取り組んでいるものと考えられます。
 
人工知能が人間の知能を追い越してしまう技術的特異点を「シンギュラリティ」と呼び、一説にはその時期が2045年前後だという根拠のない噂が流布しています。コンピューターやロボットを例にとっても、人間の知性は部分的に既に機械に追い抜かれていますし、シンギュラリティの厳密な定義とその検証方法が明らかになっていないので、現状では議論のための議論という印象です。
 
私が心配するのは、シンギュラリティよりも、人間が人工知能に頼るあまり、人間が本来持っている知性、特に答のない倫理的課題に対する思考力が衰えてしまうことです。人間が自分の能力の到らない点を補完するために、自動化技術に頼るようになっていき、ますます、注意散漫になり、遂には科学技術を制御する力を失ってしまう「モラルハザード(倫理の欠如)」には、くれぐれも注意が必要ではないでしょうか。
 
京大教授が“切る”現代経済
vol.9 夢の自動運転で人間の責任はどう変わるのか

 著者プロフィール  

依田 高典 Takanori Ida

京都大学大学院経済学研究科教授/経済学博士

 経 歴  

1965年、新潟県生まれ。1989年、京都大学経済学部卒業。1995年、同大学院経済学研究科を修了。経済学博士。イリノイ大学、ケンブリッジ大学、カリフォルニア大学客員研究員を歴任し、京都大学大学院経済学研究科教授。専門の応用経済学の他、情報通信経済学、行動健康経済学も研究。現在はフィールド実験経済学とビッグデータ経済学の融合に取り組む。著書に『ネットワーク・エコノミクス』(日本評論社)、『ブロードバンド・エコノミクス』(日本経済新聞出版社。日本応用経済学会学会賞、大川財団出版賞、ドコモモバイルサイエンス奨励賞受賞)、『次世代インターネットの経済学』(岩波書店)、『行動経済学 ―感情に揺れる経済心理』(中央公論新社)、『「ココロ」の経済学 ―行動経済学から読み解く人間のふしぎ』(筑摩書房)などがある。

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(2017.11.01)
 

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