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宇都宮ライトレール

 
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広島電鉄のライトレール H_Ifuji / PIXTA(ピクスタ)
栃木県宇都宮市の「宇都宮ライトレール」の工事の始まりが早ければ来月に迫った。今からちょうど3年前の2014年12月2日に「まち・ひと・しごと創生法」が施行されて以来、地方都市のコンパクトシティ化が正式に国策となり、連動して地域公共交通の再構築の動きが各地で始まっているが、宇都宮市は次世代型路面電車システムのLRT(Light Rail Transit)を導入し、これまで弱いとされてきた市の中心部の東西方向の交通手段を強化する考えだ。
 
LRTと従来の路面電車は何が違うのか。最も大きな違いは、従来の路面電車と違ってLRTの車体は車内の床が地面の高さ近くまで低くなっており、しかも全体にわたってフラットなことである。軌道を走る車体は路面から少しの段差で設けられた停留所にほとんど隙間なく停車し、乗降客は段差を感じずに乗り降りすることができる。動き出し加速時も重心が低いので乗客はバランスを保ちやすく、走行中の静穏性もあいまって、総じて乗客にやさしい電車になっている。
 
広島県の広島電鉄2号線でLRTに乗った筆者の感想としては、たとえは変かもしれないが、車体大の大蛇が地面をなめらかに滑りながら道路の中央をうねうねと縫って進んでいく感覚だった(カーブの多い線なのだ)。左右の窓の外の自動車がロールとピッチの挙動を繰返して走る様子が、すぐ横で起きていることなのに隔絶した世界のことのように感じられた。
 
宇都宮ライトレールは広島や他各地の例と違い、路面電車が走っていなかった地域で新たに軌道から敷設する日本初のLRTである。市の財政負担も大きいだけに、すでにクルマ社会ができあがっている同市に今からLRTを導入する必然があるのか、将来世代に負担を負わせるだけではないのかとする意見も根強いようだ。宇都宮の例は市民の合意形成の在り方をめぐってもこれから他の自治体の参考になるものと思われる。
 
 

コンパクトシティは理解されるか

 
ここであらためて「コンパクトシティ」を定義すると次のようになる。
 
コンパクトシティ・・・無秩序に郊外へと広がる土地利用の拡充を抑え、人口密度と交通利便性の高い地域へと都市生活関連機能を計画的に再配置する都市リノベーション政策。
(早稲田大学須賀晃一研究会都市交通分科会による)
 
またその背景について、「まち・ひと・しごと創生会議」による「総合戦略」では次のようになっている。
 
○地方都市では拡散した市街地で急激な人口減少が見込まれる一方、大都市では高齢者の急増が見込まれており‥中略‥都市のコンパクト化と、公共交通網の再構築をはじめとする周辺等の交通ネットワーク形成が必要である。
 
○中心市街地の商機能衰退や空き店舗等の増加に歯止めがかからない状況であり、コンパクトシティの実現に際して重要な要素となる「中心市街地の活性化」及び買物弱者への支援が喫緊の課題である。
 
○取組に当たっては、都市全体の観点から、居住機能や都市機能の立地、公共交通の充実等に関し、地域包括ケアシステムや公共施設の再編、中心市街地活性化等と連携を図り、関係施策との整合性や相乗効果等を考慮しつつ、総合的に検討する必要がある。
(アクションプラン(4)-(イ)-① 都市のコンパクト化と周辺等の交通ネットワーク形成)
 
一般にコンパクトシティは、「過疎地域への行政サービスのコストを削減する」ための、行政機能が集まる街区への移住を伴う集住促進策として捉えられがちである。その面もなくはないが、しかしこれを読むと、実際にはもっと総合的な構想であることがわかる。
 
そもそも市民の居住が拡散しているのは、例えば東京圏では明治・大正期の第一次「都市化(急激な人口集積)」に続く高度成長期の第二次都市化の際に、私鉄企業が大規模宅地開発と路線延伸の合わせ技で無秩序な郊外開発を行った(結果現在では運賃収入以外の収入が全割合の5割以上におよぶ私鉄企業もある)ことにも原因の一端がある。その縮小版を各地方都市の総合スーパー(私鉄系含む)と不動産開発主体が組んで展開した結果が現在の姿ではないか。やや時代を下って大規模小売店舗法の改正・廃止がロードサイド店舗の濫発を促したことも居住拡散が収束しなかった要因だろう。
 
そしてこの不動産開発主体には建設会社やデベロッパー系(ダイヤモンドシティなど)もいたが、半分は公団系(住宅公団・宅地開発公団)だった。その意味では、当時の居住拡散と今回のコンパクトシティへの舵取りは、行政がかつて自分がまいた種の後始末をつけようとしている動きとも言えるだろう。
 
ただ違うのは、当時の居住拡散が目下の需要圧力に対応した結果生じたことだったのに対し、今回のコンパクトシティは将来構想に向けた誘導の形にならざるを得ない点である。当然理解されにくい。しかし、これを一種の撤退戦にするか攻めの投資にするかはその地域次第であることもまた当然なのである。
 
 

撤退戦より攻めを

 
まち・ひと・しごと創生会議のアクションプランに戻って、最初の項後半の「大都市の高齢者の急増」に関し、日本創生会議「東京圏高齢化危機回避戦略」資料1によれば、東京圏では75歳以上の後期高齢者が2025 年までの10年間で約175万人増えると予測されている。それに対応しきる医療介護サービスは現状ではない。さらに言えば、創生会議の総合戦略は「地方移住希望者への支援体制」における現状課題として次の項を明記している。
 
○東京都在住者の約4割(うち関東圏以外出身者の約5割)が地方への移住を検討又は今後検討したいと考えており、特に若年層や 50 代男性の移住に対する意識が高いとの結果が出ている。
(アクションプラン(2)-(ア)-① 地方移住希望者への支援体制)
 
これらを踏まえると、コンパクトシティには、先述で「その面もなくはない」とした「過疎地域への行政サービスのコストを削減する」ための域内移住を伴う集住促進とは別に、東京圏から地方への移住促進というベクトルが伏在しているものと思われる。移住促進という言い方に首都のエゴを感じるなら人口の逆流と言い換えてもいい。要は第二次都市化と逆向きの流れが起きるということである。
 
そのときに、旧態然としたクルマ社会のままの地方都市が、「人口密度と交通利便性の高い地域へと都市生活関連機能を計画的に再配置」して都市リノベーションを施された地方都市と、現状の魅力の面(現在価値)においても、将来的なポテンシャルの面(将来価値)においても、勝負になるとは思えない。
 
いずれやることになる戦なら、撤退戦にするよりは攻めに出るほうが良いのでないか。各地の都市計画行政の覚悟が問われている。
 
 
※宇都宮ライトレールに関し筆者は推進派にも反対派にも属さないこと、本稿は宇都宮市を例にとりつつ各地方都市がこれから直面する共通の課題について考察したものであることをことわっておく。
 
(ライター 筒井秀礼)
 
(2017.12.01)
 

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