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銀行で保険に加入すると手数料が高い!?

 
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将来のために少しでも資産を殖やしたい。でも、銀行に預金しておくだけでは、微々たる利息しかつかない。日本ではそんな時代が続いている。
 
そこで注目され始めたのが、貯蓄性を備えた保険商品だ。かつて日本では、銀行で保険商品を購入することはできなかった。しかし、1996年から2001年度にかけて行われた「金融ビッグバン」により、銀行・証券会社・保険会社の垣根は低くなる。そして、銀行窓口で扱うことができる保険の種類は2001年4月から2007年12月にかけて段階的に増やされることになった。
 
生命保険販売の場が、銀行窓販、「ほけんの窓口」などに代表される来店型保険ショップ、ネット通販型保険などに多様化していくことに伴い、金融庁は顧客を保護するための規制強化の必要性に気付いた。実際、一昨年の2014年1月16日には、急激に顧客数を伸ばしていた来店型保険ショップへの規制強化が発表されている。
 
そして現在、金融庁は銀行窓口で販売される保険商品の手数料、(窓販手数料)が過度に高い場合があり、さらに顧客がその事実を知らないまま契約している可能性がある点を問題視している。
 
マイナス金利の導入などもあり、貸出金利が低下している現在、銀行は融資業務だけで利益を上げることが難しく、保険販売を積極的に行い、販売手数料を獲得する方向に力を入れている。しかし、手数料に関して情報開示がなされないままでは、銀行は高い販売手数料を取ることができる商品の販売を優先し、顧客の希望は二の次とされる恐れもある。例えば、銀行で買うことのできる投資信託の手数料は約2%であるが、外貨建て一時払い保険では約7%におよぶこともある。
 
事態を重くみた金融庁は、2016年10月、銀行の窓口で販売されている一部保険商品の販売手数料に関し開示を義務付けるとしていた。しかし地銀や第二地銀の一部から反発の声が上がったことを受け、開示を延期すると発表している。そのいっぽうで、三井住友銀行、みずほ銀行など大手銀行は10月に開示することとなった。
 
 

「貯蓄から投資へ」の流れを止めないために

 
銀行窓販保険について、販売手数料開示を推し進めた金融庁長官の森信親氏は、かつてNISA(少額投資非課税制度)を日本に導入する際、その牽引者として活躍した人物である。金融庁が発表した「平成27事務年度 金融レポート」(公表は平成28年9月15日)には、「フィデューシャリー・デューティー」という言葉が取り上げられていることが、金融機関は顧客本位の運営を強化していくべきという森長官の姿勢を示している。
 
現在は消費者一人ひとりが「投資、資産運用」を積極的に考えなければ資産が増えることはない。貯蓄性の高い保険を活用することは、資産を増やすための有効な方法なのだ。
 
その意味で、今回の窓販手数料を開示させる動きは、消費者に不透明感をもたせないために重要だ。銀行側の思惑で希望していない商品を買わされたといった事後のトラブルを防ぐことが、貯蓄から投資への流れを活性化することにもなる。
 
銀行の窓口で保険商品も、さらには投資信託等もまとめて購入できること自体は決して悪いことではない。消費者にとって便利なことであり、銀行にも手数料収入が得られるというメリットがあるのだから。
 
 

地方銀行が開示に反発する理由とは?

 
地方銀行や第二地銀は、保険の販売手数料が大きな収入源となっている現状を踏まえ、手数料が顧客に開示されると価格競争が進み、手数料の水準が下がる可能性を恐れている。そうなると資本力に勝る大手の都市銀行とは勝負にならない。
 
「銀行の本業」に頼れない今、保険販売での収益が上げられなくなれば、銀行の経営状態そのものへの打撃も大きくなるのだ。また、地銀と連携している保険ショップなどにも、手数料開示の圧力がおよぶ可能性もある。
 
そういった様々な思惑が絡む中、今年8月には大手都銀が「開示する」方向へ舵を切った。地銀や第二地銀が「開示しない」という姿勢をつらぬくことは、顧客の不信感をあおる可能性すら出てきたのだ。
 
 

むしろ開示で信頼をつかめ

 
そもそも保険とは、加入者や家族に万が一の事態があったときの備えをすることが、第一の目的だ。晩婚化や高齢出産が増えている現代は、健康不安を抱えながら育児をしなければならない人が増えている。保険がどうしても必要な人は、購入する場が銀行であるか、保険会社であるかということよりも、「加入できる保険はどこにあるのか?」を探しているのだ。
 
その際、「同じ保険に加入できるなら、できる限り保険料を抑えたい」のが顧客として当然の心理だろう。「銀行で保険に加入すると高い」というイメージが続いてしまうのは、消費者を遠ざける結果になる。
 
貯蓄性の高い商品で資産を殖やしたい、相続対策として生命保険を活用したいなどの意識が高い人ならなおさら、「有利な条件で保険に加入できる場を選びたい」と考えるだろう。いっぽうで「預金、資産運用などの相談を、あちこちの窓口を回って行わなければならない」のは、消費者にとって大きな負担であり、銀行窓口で全ての相談が行えることは、逆に大いなるメリットだ。
 
また、業界内競争の観点からは、地銀や第二地銀は大手都銀に比べて顧客一人ひとりへのきめ細やかなサービスができることがセールスポイントとなり得る。保険販売に関しても、たとえ手数料が大手都銀ほど安くできないとしても、コンサルティング内容を充実させるなどして顧客満足度を高める手は考えられるはずだ。
 
年末年始を迎え、家族や親戚一同が集まって、今後の資産の使い方や増やし方について話し合う時期が来る。家族経営の中小事業者にとっても保険をどうするかは大きなテーマだ。 そのとき、「銀行で保険に加入すると手数料が高いらしい」というイメージが家族、親戚間で共有されてしまうと、顧客との信頼関係が特に重要な地銀、第二地銀にとっては、経営戦略的にも大変な痛手である。
 
「販売手数料開示」という今の流れにできるだけ乗り遅れず、信頼感や安心感を顧客に与えることが銀行経営にとって最重要になる時期なのだ。
 
 
 
(ライター 河野陽炎)
 
(2016.12.2)

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