コロナ禍の影響でクライミングに対する考えが変わった藤井さん。プロ転向後、初めて出場した第16回ボルダリングジャパンカップでは、見事優勝を果たした。ただ、試合前にはそれまでになかったプレッシャーを感じたという。
覚悟を決めて取り組んでいく
会社勤めをしていた頃は安定した収入があったので、守られている感覚があったんです。それがなくなり、クライミングで結果を出して生活していかないといけない環境は、すごくプレッシャーを感じましたし、不安でした。プロ転向後に初めて出たボルダリングジャパンカップは、本当に怖かったですよ。でも、本番ではしっかり体が動いてくれて、優勝という結果を残すことができました。プロとして覚悟を決めてやっていけるという大きな自信になりましたね。
プレッシャーに打ち勝つには、たくさん練習するのはもちろん、精神的に良い環境を整えることが重要です。それが、年齢を重ねるとだんだん難しくなってくるんですよ。若い頃は、あまり良い結果を残せなくても「次に向かって頑張ろう」と自然と思えました。ただ、年を取ると残りのチャンスを意識してしまうので、「今、必ず結果を残さなければいけない」というプレッシャーものしかかります。若い世代の追い上げも焦りの一つになりますしね。
僕が普段から意識しているのは、「自分で決めてやりたい道に入ったので、覚悟を決めて取り組まなければいけない」ということです。結果が良くても悪くても、すべて受け止める準備をして本番に臨むようにしています。特にプロに転向してからは、「クライミングを仕事にしています」と胸を張って言えるよう、覚悟を持って取り組むという軸がぶれないようにしていますね。
プロとしてクライミング一本で取り組むようになる前とでは、競技の楽しみ方にも変化があったように思います。結果がより重要になるのはもちろん、自分が強くなっているという実感がなければ楽しさはなかなか得られません。年齢を重ねると、成長の進み幅はどんどん小さくなっていきます。その小さくなった進み幅を、どれだけ受け入れられるかが大切なのかなと思っていますね。
とはいえ、成長がそのまま良い結果につながるわけではありません。勝負の世界ですから、絶対はないんですよ。やってみなければどうなるかわからない世界で、登り切ってブレイクスルーできたときが、何よりの楽しみです。その楽しみは、昔から変わらないことですね。登り切って初めて、自分の成長を実感できることもあります。
自身の強みについてお聞きすると、「ネガティブであることが一つの強み」だと話してくれた藤井さん。あまり良いイメージのないネガティブという言葉だが、良いネガティブと悪いネガティブがあるのだという。
大切なのは改善のために努力すること
僕は常に妥協しないようにしています。それができるのは、自分がネガティブだからだと思っているんです。僕はネガティブという言葉を、「練習で手を抜かない」という意味に捉えていまして。ネガティブだからこそ、自分の足りない部分を見つけられるんですよ。ポジティブだと、「今日も練習よくできた! おしまい!」となってしまいそうで(笑)。
ネガティブの中にも、良いネガティブと悪いネガティブがあると思っています。悪いネガティブは、答えの出ないことで悩んで、「どうせ自分にはできない」とループに陥ってしまうこと。自分ができないことに対して、人のせいにしてしまったり、環境のせいにしてしまったりすることも悪いネガティブですね。
自分自身のことに対してネガティブになるのは、悪くないと思っています。大事なのは、見つけた足りない部分を改善するために努力することです。そうすれば、自分の成長につながりますよね。
僕はもともと、自分の特技を伸ばすよりも、できないことを潰していくタイプです。できないことは、ネガティブだからこそ見つけやすいと思っています。足りない部分を見つけて、できるまで練習して、また見つけての繰り返しです。僕は才能を持ったクライマーではないんですよ。努力でここまで進んできました。
クライミング選手の中には、大きな才能を持っていてとても目指せない存在もいます。でも、僕にならなれると思いますよ。僕自身、まだまだ足らないところは多いですが、いつかこのノウハウを若い世代に伝えていけたら良いですね。