『春画先生』の撮影をしていて特に楽しかったシーンをお聞きすると、「すべてが楽しかったので難しい」と答えてくれた北さん。その中でも、あえて選ぶとするならばクライマックスのシーンだという。
現状を打破するために資格を取得した
内野さんと、安達祐実さんと3人で演じるシーンがあります。あのシーンは、実は段取りがとても大変だったんですよ。でも、すごく楽しかったですね。クライマックスは、弓子が覚醒するというか、それまで感じていたフラストレーションから解放されるシーンなんです。演じている私もその解放感を得られましたし、とてもスッキリしましたね。
弓子は、自分と似ている部分も多いので思ったまま演じることができました。なかなか掴みにくい役を演じるときは、まずその役柄に似ている人を探すようにしています。友人や家族などの身近な人や、一度お会いしたことがあるだけの方でも良いんです。その人のモノマネをするような感覚で演じてみると、案外「こういう人なのか」と理解できることもあります。
そうして感覚を掴んだうえで、自分なりにスパイスを足していく。その作業もとても楽しいんですよ。ただ、私はあまり役をつくり過ぎると現場で混乱してしまうんですよね。「この役はこういう風に感じるかもしれない」「こういう行動をするかもしれない」と迷いが生じてしまうので、あえて余白を持たせることで現場で柔軟に対応できるようにしています。
共演者の方の演じ方に合わせることも大事ですね。ですから、初めてお会いする方には積極的に話しかけるようにしています。私は人がすごく好きですし、どんな考え方をお持ちなんだろうと興味を持っているんです。ただ、もともと人見知りでコミュニケーションを取ることは苦手だったんですよ(笑)。
そういった自分の消極性を打破したいと感じていたので、コロナ禍を機にカウンセリングの資格を取得しました。そのときに得た知識が、日常でも活用できているんです。カウンセリングの基本は、相手の話を傾聴して、同調しながら共通点を見つけていくこと。最近では、無意識にできているように思います。まずは共通点を見つけて、会話を楽しむこと。いろんな方に出会えることがこの仕事の楽しみの一つだと思っています。
取材中、何度も「人が好き」だと話してくれた北さん。現場でさまざまな人と出会う中で、多くの学びを得ているのだという。知識を得ることに意欲が湧いてきたと語る北さんに、詳しく話をお聞きした。
凛とした芯のある女性でありたい
撮影現場でスタッフさんや共演者の方とお話しする中で、初めて知る言葉や初めて得る知識も多いです。それが、女優としての自分の糧にもなっています。今までは何かを学ぶことに対して楽しさを感じることはなかったのですが、年齢を重ねる中で、今まで知らなかったことを学ぶことに意欲が湧いてきています。
仕事の現場で先輩方にいろいろなことを教えていただくのがすごく楽しいです。私の軸にあるのは「人が好き」という気持ちですので、とにかくいろんなお話をお聞きしたいです。例えば、今後はラジオのパーソナリティなどにもチャレンジできたら良いなと思っています。ゲストをお迎えして、その方について深掘りしてみたいですね。
そういった経験はすべて演技の糧になると思うんですよね。今後はいろんな面を持つ女性なども演じてみたいです。例えば、会社ではすごく地味な人だけど、会社を出るととても華やかな生活をしている女性とか。一人の役の中で、いろんな面を表現できるようになりたいです。あとは、凛としていて芯のある女性でしょうか。私自身、そういう人でありたいと思っているので、強い女性の役柄には惹かれますね。
お芝居の楽しさは、役柄によって何者にもなれるところですよね。私は女優として今、いろんな冒険をさせてもらっていると感じています。子どもの頃に抱えていた「自分は何者なんだろう」という悩みも解消されたんですよ。