感染防止のため、さまざまな制約がある中でチームづくりをしなければいけなかった東京オリンピック。入江選手はどういったことを心がけていたのだろうか。
チーム全員に目を配り適切な声かけを
一番に心がけていたのは、選手たち全員にしっかりと目を配ることです。チーム全員の調子が良い日というのはありません。調子が悪い選手にどのように声をかけるのかが大切だと思っています。レースで良い結果が出なかった選手は、どのように励ますのか。適切な声かけが必要なんです。
日本代表には、若い選手も多くいます。彼らが、結果出せないことで諦めてしまったり、挫折してしまったりしないように、次に向かって頑張れるようにしてあげたいんです。それは、僕自身が先輩の方々に気を配ってもらってきた部分でもあります。落ち込んでいるときなどに先輩方が励ましてくれたからこそ、今の自分がいます。時代を経て、今は僕が後輩のみんなに声をかける順番が来たんだなと思っています。
世界の舞台で戦うのは、日本の大会とは全然違います。食べ物も気候も変わりますし、会場の雰囲気も別物です。プレッシャーも多くかかります。だからこそ、緊張している若い選手たちを支えていかなければいけません。僕の場合は、もうプレッシャーは感じていないです。
僕は世界のトップ選手が集まって、全員が100%の力を出し切る勝負の場が好きなんです。その場に、日本代表として立てることがすごく嬉しいですし、誇りに思っています。また、対戦相手の彼らは順位を競うライバルでありつつ、良い友人でもあります。世界大会は年に1回くらいしかないので、そういった場で再会できる楽しみもあります。
プレッシャーを乗り越えるのは大変だと思います。経験を積めばなくなるものでもありません。緊張したり、身体がかたくなったりしてしまうのは当たり前だと思います。その状態で、いかに練習の成果を発揮できるかが大切です。僕はいつも、「今持っている100%の力を出すだけ」という気持ちで臨んでいます。
現在はフラットな状態で、プレッシャーを感じずに試合に臨めていると語る入江選手。2012年のロンドンオリンピックでメダルを獲得したときも、同じようにフラットな気持ちで泳げていたのだろうか。
応援の声が自身の強みになる
当時はまだ22歳だったこともあり、今ほど落ち着いて大会に臨めていたわけではありませんでした。ただ、2008年の北京オリンピックにも出場していたので、オリンピックがどういった大会なのか身をもってわかっていたんです。だから、100%の力を発揮することはできたと思っています。
北京オリンピックでは、メダルを目指していたものの結果は5位で、すごく悔しい思いをしていました。ロンドンオリンピックでは「次こそは必ず」という気持ちで臨みました。100mで銅メダルを獲得できたときは、肩の荷がおりました。
多くの方々に期待されている中で、メダルを獲得するという結果を出せて心からホっとしました。スポーツの世界はとても難しく、初めてのオリンピックですぐに結果を出せる選手もいれば、実力はあるのにずっとメダルを獲得できない選手もいます。僕自身、そういったループにはまってしまう可能性もありました。だからこそ、すごく安心しました。
メダルを獲得できた要因の一つは、チームの雰囲気の良さだったと思います。ロンドンオリンピックのときのチームは、全員がメダルを目指して切磋琢磨していたんです。自分だけがメダルを目指している状態と、チーム全員が目指している状態では、雰囲気が全然違いますからね。
結果として、ロンドンオリンピックでは金メダルこそなかったものの、メダルの数やメダリストはほかの大会よりも多かったです。競泳は個人競技ですし、ロープで区切られていて誰にも邪魔されずに泳げます。でも、チームの雰囲気や応援してくれている方々の存在は、パフォーマンスに大きく影響します。一つひとつの応援が、僕の力になっていると感じます。