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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
ジョークを飛ばしながらインタビューに答えてくれる錦織さん。舞台稽古においても、同じようにキャストやスタッフの方々と気さくに関わるようにしていると言う。
 
 

友だちになるために稽古に通っている

 
僕が稽古に通う際に心がけているのは、キャストの子たちと友だちになるということ。彼らにとって、僕は演出家ではなく、あくまで友だちであってほしいんですよ。友だちの1人が、役割として演出を務めている感覚でしょうか。そういうカジュアルな雰囲気をつくれたら良いなと思っています。彼らからしてみると、ずいぶん年の離れた友だちですけどね(笑)。
 
彼らのような世代と一緒に仕事をしていると、僕自身も若いエネルギーをもらえている気がします。「人生で一番楽しいのは今だ」と感じさせてもらえるんですよ。舞台演劇は、若い世代も年配の世代もごちゃまぜになってつくり上げるものです。だからいくつになってもエネルギーのある人が多いですよ! 僕よりずっと先輩の役者さんでも、舞台上ではまったく年齢を感じさせない動きをしていますから。
 
舞台役者と演出、どちらも経験してみて感じたのは、集中の仕方の違いです。役者として舞台に立つときは、自分ができるベストの芝居をするために集中しています。自分の役に向き合い、セリフをしっかりと言うこと。それが役者の仕事です。逆に演出の場合は、100%自分の役に向き合っているときよりも、どうしても意識が散漫になるんです。すべての出演者の様子を確認していますからね。役者自身が役について考えて、輪郭づくりをしてもらう僕の演出手法においては、その散漫さも必要なものだと思っています。
 
もう一つ違いがあるとするなら、演出を手がけているときのほうが、より多くのお客さんに来てもらいたいという気持ちになることですね(笑)。役者にとっての仕事は、動員数に関わらずベストな演技を提供することです。それが役者の責任ですからね。もちろん役者にだって、多くの方に観てもらいたいという気持ちはあります。でも、演出に関わるようになってからのほうが、「この演劇を観てもらいたい」という気持ちが増えましたね。
 
 
コロナ禍の今、私たちは演劇をどのように楽しむべきなのだろうか。錦織さんに聞くと、「楽しみ方は普遍的なもので、変わる必要はない」と語ってくれた。
 
 

観劇にはエネルギーが必要

 
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配信サービスが増えるなど、表現活動の発信の仕方は今後もどんどん変化していくでしょう。でも、観てくださる方の楽しみ方は何も変わらないんじゃないかな。舞台を観るのは、映画やドラマを観るよりもエネルギーが必要だと思うんです。たとえ舞台上に建物などのセットがあったとしても、お客さんの頭の中でそれを補完してもらう必要があります。「ここは古びた一軒家なんだな」「ここは森の中なんだな」というように。だからお客さんも集中して真剣に観劇してくれているんですよね。
 
僕は、舞台演劇はお客さんとの真剣勝負だと思っていまして。お客さんにとってできる限りわかりやすい演出したい。でもわかりやすくしすぎると、お客さんにも失礼になります。そのさじ加減を考えるのも、演出の楽しみです。
 
舞台は本当にお客さんありきだと感じますね。役者の芝居を上手にしてくれるのもお客さんです。打ちっぱなしばかりに行ってコースに出ないとゴルフが上達しないのと同じように、稽古ばかりしていても芝居は上手になりません。お客さんの前に立って呼吸を感じ、間の取り方を学ぶ必要があるんです。演出家にはできないことを、お客さんがやってくれているんですよ。