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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
長年彫刻家としても活動を続けている片桐さん。インタビューの中では、その独特な作品について、実物を見せながら語ってくれた。
 
 

身近な物に“盛る”

 
お笑いの活動でいくつか仕事をもらえるようになった時期に、雑誌でアート作品の連載をしないかと声をかけてもらいました。1ページ、好きに使っていいと言うんです。そこで、粘土で立体の作品をつくろうと思いました。それも、携帯などの身近な物に粘土を“盛る”スタイルで。普段暮らしている街には多くの彫刻作品があります。なのに、誰もそれを目に留めませんよね。でもそれが、身近なアイテムと融合した作品だったら、「何これ?」と興味を示してもらえるんじゃないか。驚きと笑いを提供できるんじゃないかと思いました。
 
僕はこれまでに、携帯やスマートフォンを買い換えるたびに新しいケースをつくっています。全部で20個くらいかなぁ・・・。粘土作品をつくるようになった頃は、まだSNSが普及していない時代だったので、作品を皆さんに見てもらう機会がなかった。だから、携帯ケースをつくって持ち歩こうと思ったんです。現場で一緒になった方などが、その大きさに「不便じゃないの?」と反応してくれますから(笑)。自分でつくったと言ったら、驚いてもらえますしね。
 
僕は、「何でそんなものをつくったの?」と言われるのがおもしろくてしょうがない。小学生の息子の友だちにも言われます(笑)。その反応は、嬉しいことに海外に行ったときも同じです。スマートフォンって、世界共通のアイテムですからね。僕の持っている大きな虫がスマホカバーだとわかったときは、「アメイジング!」と言われましたよ。みんなが知っているアイテムに“盛る”ことによって、アートは国を越えるんだと実感できて嬉しかったですね。
 
 
作品について語る片桐さんからは、創作が好きだという気持ちが伝わってくる。どういった部分に魅力を感じているのだろうか。
 
 

自分だけの世界で独自の進化を遂げた

 
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粘土作品をつくることの魅力は、とにかく自由なところ。僕はもともと美術大学出身ではあるのですが、専攻は版画科だったんです。だから、粘土などの立体作品はすべて独学で学びました。今思えば、それが良かったのかもしれませんね。既存のノウハウや手順に縛られなかったからこそ、自由に作品をつくることができました。
 
あとは、自分だけの世界に入れるのも大きな魅力です。俳優やお笑いの仕事では、「こういうシーンをつくる」という目的のもと、共演者の方々やスタッフとの共同作業になりますよね。みんなで意見を交換したり、監督や演出家の方の判断で芝居内容を変えたりもします。でも、粘土作品をつくるときだけは、自分しかいない世界に入れるんです。ありがたいことに、担当編集の方々は、僕の作品を褒めることも怒ることもしませんから(笑)。すべて自由につくらせてくれたおかげで、僕の作品は独自の進化を遂げられたのだと思います。
 
作品をつくるペースは、大体月に1個です。僕は締め切りがないと作品を完成させられないので、これも雑誌の連載があったことに感謝しなければいけませんね。そうして19年もの間につくり続けてきた多くの作品を、現在行っている「ギリ展」という個展ですべて展示しています。全国各地を回っているので、ご当地作品などもつくっているんですよ。
 
作品は全部でおよそ170点。並べてみると、自分でもその数に驚きました。僕は自分の好きなものを自由につくってきたので、自分の作品を便宜上「不条理粘土アート」と呼んではいるものの、何か特定の表現手法に属しているわけではありません。でも、あれだけ多くの作品が並ぶと、まるで「不条理粘土アート」というジャンルがあるのだと錯覚してしまいますよ(笑)。実際にコンテストを開いた際には、皆さん同じ系統の作品をつくってきてくれました。これは、19年間続けてきたからこその結果ですね。