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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
 
日々の入念な準備と研究が、5年連続盗塁王という結果につながったと話す赤星さん。その過程には楽しさもあった反面、研究に没頭するあまり、困ったこともあったという。
 
 

試合で後悔をしないために

 
研究の一環としてピッチャーを観察していると、だんだんと表情や動作でピッチャー個人の癖がわかるようになるんですよ。特に窮地に立たされた時、ピッチャー本人は一生懸命焦りが表に出ないようにするんですけど、無意識のうちに投げるリズムが同じになってしまっているので、こっちは「よっしゃ、いつものリズムになってきた! 足上げた瞬間に走るぞ!」と思うわけです。そうやっていろんな選手の癖や性格を研究するのが楽しくて楽しくて。でも徹底してやらないと気が済まないタイプだから、それに没頭するあまり、当時は不眠症になってしまっていました(笑)。
 
というのも毎日試合があるので、その日の試合が終わったら反省もそこそこに、すぐ翌日の試合の準備をする日々を繰り返していたんです。家に帰ったらピッチャーの研究をして、バットを振ってイメージトレーニングをして・・・なんてやっていて、気付くともう朝(笑)。ナイターの翌日がデーゲームの時なんて、ほぼ寝ないで試合に出ていました。
 
そこまでして僕が徹底して準備をしていたのは、後で後悔するのだけは、絶対に嫌だったから。十分な準備をして試合に臨めば、仮に上手く打てなかったり盗塁できなかったりしても、「すげーな、相手は俺より上だな。次こそは打てるようにしよう!」と素直に思える。そうしてまた次へと自分を奮い立たせることで成長していけました。
 
 
赤星さんは、一試合一試合で勝つための取り組みを欠かさず続けてきたことで、プロの選手として進化を遂げてきた。その取り組みからは、良いプレーヤーの条件が見えてくる。ではいっぽうで、チームを率いるうえで、良い監督、良いリーダーの条件とは何なのか。阪神タイガースに在籍した9年間で3人の監督を間近で見てきた赤星さんに、監督陣の共通項を聞いてみた。
 
 

チームにおける良い監督とは

 
僕がお世話になった野村克也監督、星野仙一監督、岡田彰布監督、このお三方に共通していたのは、とにかく選手全員をよく見ていたということです。1軍2軍合わせて70人も選手がいるにも関わらず、一人ひとりのプレースタイルから性格、コンディションまで、ほとんど把握していました。もちろん、程度に差はありましたが、2軍の選手が監督から「お前、最近調子が良いらしいな」なんて声をかけられたら、それはもう嬉しいわけです。
 
その点、岡田監督はよく2軍の選手を見に行っていました。しばらく選手の様子を見たと思ったら、急に「よし、今日はこいつを1軍に上げよう。スタメンだ!」なんて言い出す。それでいざ試合にその選手が出ると、本当に打ってしまう。すごいですよね。岡田監督には、はじめからその絵が見えていたんです。
 
星野監督は、選手の性格を把握したうえで、指導の仕方を柔軟に変えていました。褒めたほうが伸びるタイプはとことん褒め、怒ったほうが響くタイプは怒る。ちなみに僕は後者で、よく怒られていました(笑)。でも実際、怒られたほうが燃えるタイプで、それを星野監督は見抜いていた。監督就任1年目で選手をよく観察していたからこそ、2003年に阪神にとって18年ぶりのリーグ優勝を果たせたのだと思います。
 
野村監督は、選手に関するありとあらゆるデータが頭の中に入っていて、試合が誰によってどう展開するのかを、常に先まで読んでいた、すごい方。人を観察して、データを蓄積しながら戦略を考えることの重要さは、野村監督から教えていただいた気がします。
 
そんなふうに3人とも、それぞれやり方は違いましたが、選手たちを動かすための情報を常に頭に入れていました。それができていたのも、コーチと十分な連携を図っていたからこそだと思います。もしも僕が指導をするとしたら、選手をよく知ったうえで、70人なら70通りの教え方をするでしょうね。野球に限らず、今は一人ひとりに則した指導方法や環境づくりが求められる時代になってきているのだと思います。