サーキットを駆ける牙狼が
強き群れをつくる活人術
「勝ち」 に貪欲に突き進んでいく本山氏でも、ときには袋小路に迷い込むことがあるだろう。いわゆるスランプの状態だ。結果の悪さに紐づく原因がわからないとなると、当然ながら焦りが生まれ、より泥沼にはまり込んでしまう。そのようなとき、本山氏はどう解決し、抜け出すのだろうか。
草の根を分けてでも
ポテンシャルが落ちてしまうときは確かにあります。ただ、ぼくの場合は気持ちまで落ちることは決してないんです。勝ちにこだわる姿勢は常に変わりません。何らかの要因で本調子ではないと感じたときは、とにかく考えて考えて考え抜きますね。自分で考えずに他人に意見を求めるようなことはありません。
ただ、ドライバーが速く走れないのは、ドライバーだけの問題ではないことのほうが多いんですよ。特にレースのレベルが高くなれば、ほんのささいなクルマの調子が結果に大きく影響してくるんです。エンジンなのかタイヤなのか、もっと細かいところなのか。その中でどこが悪いのかを自分なりに考えて、スタッフと共有し、あとはコンピュータで解析したりしながら原因を探っていくという繰り返しですね。そういう意味では、ビジネスマンの 「PDCA」 と同じように、仮説・検証・実行を繰り返しているということになるのでしょう。
だから、ドライバーとしてクルマから感じることを言葉にして伝えて、エンジニアがその中でヒントを得て、解決していくというパターンが多いかな。自分が持っている感覚を含めてのチームですから、ドライバーの側の原因だと理解した場合は必ずすぐに修正しますし、セッティングなどチーム全体の原因だと判断した場合は、ベストな解決方法を探れるよう、ドライバーとしての役割を全うしますね。
もっとも、調子が落ちている原因を探りきれないということは考えられません。草の根を分けても、今、チームが直面している問題を引き起こした原因を探し出さなくてはいけないんですよ。「見つけられない」 ということ自体が許されませんから。
4月に岡山国際サーキットで行われた 「スーパーGT」 の2012年シリーズ開幕戦では、一時はトップの座を奪ったものの、フィニッシュは4位。あと一歩というところで表彰台を逃した。順位を落としてしまった理由はタイヤ選択だった。
開幕戦で見た問題点
4番グリッドからスタートしたんですが、スタートダッシュがうまくいって、1コーナーでアウトから先行車にプレッシャーをかけていけたんです。オープニングラップを3番手で通過して、4周目くらいから狙いつつ、7周目の第2コーナーで先行車をパスして2位。それから30周目あたりまでは前の様子をうかがいながら、33周目、ヘアピンコーナーで勝負をかけてトップに立てました。
そのまま37周目にピットインして、セカンドドライバーのミハエル・クルムに交代したのですが、路面温度とタイヤの性能がかみ合わなくて、ピットアウト直後に2つ順位を落としてしまったんですね。路面温度が思ったより低くてタイヤが温まりにくい中で、ハードコンパウンドのタイヤを履かせてしまったことが原因でした。
終盤に入って、さらに2つ順位を落とし、5位を走っていた時間帯がありましたが、クルムが懸命に追い上げて、ファイナルラップで1台パスして、4位でゴールしました。
序盤から中盤までは、とてもいいレース運びができていたように思いますし、クルムの走りも決して悪いわけではなかった。順位が落ちたのは、全体的にタイヤの性能を充分に使い切れなかったからなんですね。ですので、今直面している課題のひとつは、こうしたタイヤチェンジをどう見極めていくか。5月初めに富士スピードウェイで行われる第二戦に向けて、さっそくこの問題点をディスカッションしているところです。
常に理想のレベルにいること。何よりもレースで優勝すること。それがレーシングドライバー・本山哲にとってのすべてだ。勝って当たり前、それ以外は意味がない。――そんな世界にあって、本山氏が常に背負う責任があった。
エースの責任はどこにある?
個人競技ではありませんから、チームで勝った結果は皆での結果だと思いたいんですよね。実際にエンジニアなどのスタッフが結果を出そうとして苦心している姿を、ぼくも目の当たりにしているわけですから、そういう苦労に対する報いを、自分がサーキットで出せるというのは大きな喜びです。だから、ぼくはドライバーとして、最終的に彼らの気持ちを肩に乗せて走っている。その責任を全うしなくてはいけません。
もちろんレースに勝つことで、応援してくださっているスポンサーやファンに対しても、メリットや感動をもたらすことができる。それをやり遂げる達成感は、ドライバーとしていつまでも味わい続けたいです・・・ と、言いたいところですが、ぼくも何年か後にはシートを降りていると思います。それまでの間に、どれだけの挑戦ができるか。自分の中でどこまでの高みに行けるのか。楽しみで仕方がないですね。
(インタビュー・文 新田哲嗣 / 写真 Nori)