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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
 
出版する絵本、『ペンギンゆうゆ よるのすいえいたいかい』では、主人公のペンギン、ゆうゆが水泳大会で1位になったテンテンに憧れて、自らも水泳の練習を開始。自身の努力と、たくさんの仲間の力を得て、競技者としてだけでなくペンギンとしても成長していく姿が描かれている。
 

どんな時でも変わらない「味方」の存在が私を強くしてくれた

 
私は現役時代、指導者や仲間、友人、そして家族など、多くの方々に励まされてきました。たとえ競技の結果が良くても悪くても、いつも変わらず迎えてくれて、温かい言葉をかけてくれる人がたくさんいました。私はそういう方々の言葉の力に支えられてきました。個人的には思うような結果が出せないことが多い競技人生だったと思います。例えばシドニーオリンピックではメダルに届かず4位に終わり、心ない言葉に傷つくこともありました。その傷を癒してくれたのは、やはり周りの方々の言葉だったんです。
 
だからこそ、子どもたちには周りに頼っていいんだよ、あなたには応援団がいるんだよ、と伝えたいんです。そして子どもを取り巻く大人には、子どもたちのありのままを受け入れてあげてほしい。勝った人、成功した人だけがすごいわけじゃない。もちろん結果も大事なときもありますが、結果だけで判断されてしまうと、それこそ現役時代の私のように他人の言葉に傷つけられ、苦しみ、トラウマを抱えることもあります。そういう時にこそ、一生懸命に努力してきた姿、必死に戦い抜いた姿を認めてあげることが大事だと感じています。「あなたには味方がいるんだよ」ということを絶対に忘れないでほしい・・・そんな思いが伝わったらと思っています。
 
とは言っても、読んでくれた子どもたちに自由に感じてもらえたらいいですね(笑)。子どもは、私が想像する以上の何かを感じていることもあるので、もしかしたら私が作品に込めたこと以上のことを読み取ってくれるかもしれない。この絵本がどのように読んでもらえるかを想像すると楽しくて仕方がないです。実は続編の構想も勝手にしていて(笑)、第二弾も制作することが、今の夢になっています。
 
 
引退後の萩原さんは水泳から得た経験を活用して広く社会に貢献する活動にも尽力している。「水ケーション」もその一つだ。
 

水は当たり前にあるものではない

 
水ケーションというのは森や水泳を通じて“水“とCommunication(通じ合う)しながらEducation(教育)する、という二つの言葉を組み合わせた造語で、「水に感謝」というコンセプトのもと、五感を駆使した体験型の授業を展開しています。日本で生きていると水は当たり前にあるものですよね。でもそれは、「ありがたいこと」と感じてもらえたらという思いがベースにあります。
 
水ケーションは小学生の高学年から中学生ぐらいが対象で、まずは森の専門家である小野なぎさ先生に豊かな水をつくりだす森について紹介してもらいます。その次に、私が水の時間を担当します。「なぜ水ケーションなのか?」「水はどんな時に必要なのか?」「世界にはどんなプールがあるのか?」などを伝え、考える時間を取ってから、プールで水と触れ合い、思い切り遊びます。水の中で遊ぶことの楽しさ、怖さも同時に伝えています。時に学校を飛び出して、森や川、湖で活動することもあり、実際に自然の中に入ると、また違ったアプローチができています。
 
活動をしてみて意外なことがわかりました。それは緑豊かな地域の子どもたちが、周りにある自然の素晴らしさに気付いていないケースが多いということです。都会よりも自然が豊かで周囲にきれいな水がたくさんあるので、それが当たり前に感じてしまうのかもしれないですね。だから、自分が素晴らしい環境で生活しているんだと感じてほしいと、地元の行政、教育関係者から依頼をいただくこともあります。そんなわけで、この活動が郷土愛を育むことにも貢献できているんだなと気付かされたのは、嬉しい発見でした。
 
私自身も現役時代は、正直、水のありがたみということを感じたことはなかったです。ある時、登山を経験して、頂上付近の山小屋を運営する方々からヘリコプターを使ってふもとから水を運んだり、雨水を貯めたり、水を確保するのにものすごい労力を費やしているお話を聞いた時に衝撃を受けたんです。大量の水を使って泳ぐ競技ができるのは、とても贅沢なことなんだなと感じました。「水泳は豊かさの象徴」「飲み水がなければ一番初めになくなるスポーツ」なんだということを強く実感したんです。下山後、いずれ水の大切さを伝える活動がしたいと思うようになりました。