今後挑戦したい役柄はあるかお聞きすると、笑いながら「ない」と答えてくれた新納さん。目標を掲げないのは、目の前の仕事に必死に取り組まなければいけない環境だったからだという。
目の前の仕事に真摯に取り組む
若い頃は、「どういう俳優になりたいか」という質問を受ける機会が多かったですね。でも、答えられたことがないんですよ。先の目標を立てられる環境ではなかったんです。何か失敗したら俳優の道が閉ざされるのではないかという恐怖がある中で、とにかくいただいた目の前の仕事に必死に取り組むしかありませんでした。
例えば、若いうちにテレビドラマや映画で一躍有名になっていたら、「こんな仕事がやりたい」「こんな役を演じたい」と考える余裕があったかもしれません。でも、僕はそんなおこがましいことを言える状況ではなかったので(笑)。いただいた仕事を、一つひとつ真摯に取り組むことを続けてきました。今でもそのやり方しかわからないので、先々の目標を掲げたことはないんですよ。
ただ、その中で決めているのは、舞台を絶対にやめないこと。年に1~2本は必ず入れてくださいと事務所の方にも伝えています。舞台は鍛錬なんですよ。1、2ヶ月ほどの稽古期間を通じて、引き出しの中に経験を詰め込んでいく鍛錬です。その詰め込んだ経験を、映像作品に出演した際にパッと出す。だから、僕の場合は映像作品だけに出演を続けていたら引き出しの中身がなくなってしまう気がしていますし、その鍛錬をやめてしまったら、自分の演技がどんどん下手になってしまうんじゃないかと思っています。
舞台の魅力は、多くの方が語る通りライブ感です。そして、空気や息遣いなどのすべてを共有できること。舞台『う蝕』では、その良さをより実感していただけると思います。被災地の話と聞いて身構えてしまう方もいるかもしれませんが、『う蝕』は怖い話でも、仰々しい話でもありません。僕は、横山さんの書く台本の魅力の一つはドライブ感だと思っています。おもしろいシーンで笑っていたはずなのに、気付けば心にすっと染み込むものを感じている。『う蝕』でも、ぜひそういった体験をしてもらえたらと思います。
(インタビュー・文 中野夢菜/写真 Nori/スタイリスト 津野真吾(impiger))
衣装協力
suzuki takayuki/スズキ タカユキ
お問い合わせ先:suzuki takayuki
電話番号:03-6821-6701
ジャケット 6万4900円
シャツ 3万7400円
(取材:2024年1月)