ワクワクする道を選び
真摯に仕事を続けていく
俳優 新納慎也
2月10日より世田谷区三軒茶屋前にあるシアタートラムにて上演される、舞台『う蝕(しょく)』。島を襲った「う蝕」によって島のあちこちが陥没してしまった中で、歯科治療のカルテを使って犠牲者の身元の照合を行う歯科医師を演じるのが、俳優の新納慎也さんだ。「一生舞台作品に出続ける」と語る新納さんに、『う蝕』にかける思いや、仕事への取り組み方などをうかがった。
演劇を通じて気持ちに寄り添う
舞台『う蝕』は、天変地異が島を襲い、犠牲者の身元の照合をするために集められた歯科医師と役人の6人が織りなす舞台です。図らずも、能登半島地震が起きたタイミングでの公演となり、台本の内容をすべて変更したほうが良いんじゃないかという話もあったようです。ただ、今『う蝕』を上演することでできることもあるのではないかと思っています。シェイクスピアの言葉に「演劇は現代を映す鏡である」という言葉があります。僕はその言葉を信じていますし、多くの人が震災で心を痛めている中で、この作品を通して気持ちに寄り添うことができるんじゃないかと思っているんです。
舞台は役者とお客様が同じ空間にいるので、息遣いや熱量、空気をすべて共有できます。そういった空間だからこそ、作品を通じて震災に対する思いを染み込ませることができるのではないでしょうか。ボランティアや物資支援とは違った形で、震災に対する思いに寄り添えたらと思っています。
僕が演じる役柄は、6人いる登場人物の中で唯一被災地に住んでいる人間です。だからこそ、心を痛めている方々に寄り添う気持ちを強く持って演じなければいけないと考えています。嘘のないように、自分の思いを役を通じて伝えたいですね。
台本ができる前に、出演者である僕ら6人と作家の横山拓也さん、演出家の瀬戸山美咲さんで一度ワークショップを行ったんですよ。その時間がとても楽しくて。実際に稽古が始まると、それ以上のワクワクを感じています。全員が心からお芝居が好きなことがわかるんですよ。台本を全員でブラッシュアップしながら、一つの作品をつくり上げているんだという感覚がありますね。
演じる役柄のバックグラウンドなどについても話し合っています。例えば、僕の演じる歯科医師は被災地に住んでいる人間として大きな使命感を持って仕事に取り組みますが、震災の起こる前の彼はもっと軽やかな部分もあったと思うんですよね。そういった台本の外のことも考えて、役と向き合っていくんです。