音楽が心を豊かにしてくれる
ミュージカルとスポーツは、実は似ていると思うんです。例えばサッカーで、ドリブルで駆け上がって、パスが通って、最後にシュートという流れがあるでしょう。ミュージカルの歌には、そういった盛り上がりがあると思っているんですよ。歌の最後はシュートを打つときのように、「絶対に決めてやる」という気持ちを持っています。
また、僕はどの仕事でも「リスペクトしてエンジョイする」をモットーにしています。だから、俳優の仕事でもサッカーの仕事でも、同じ心持ちで臨めるんですよ。例えばミュージカルの場合、毎日ひたすら稽古に取り組み、悔しい思いをたくさんします。「今日もできなかった」と落ち込むことも多いですよ。でも、本番を迎えて一旦幕が上がったらとにかく楽しむんです。
基本的にアドリブは入れないと決めています。もちろん、アドリブのような演出はありますよ。でも、自分からアドリブを入れることはありません。稽古でつくり上げたものを、丁寧に表現するべきだと思っています。でも、毎日同じ演技になるわけではありません。舞台の空気は日々変わりますからね。共演者やスタッフと阿吽の呼吸で洗練されていくこともありますし、お客様に育てていただいて、より良いものがつくられることもあります。それが舞台の醍醐味ですよね。
そしてミュージカルの楽しみは、なんといっても音楽です。音楽には、言葉だけでは伝えられないパワーがあります。その力が、心を豊かにしてくれると思うんですよ。音楽によって伝わる高揚感を、お客様と一緒に得られることが大きな魅力ですね。ミュージカルはまだまだ一般的な娯楽とは言えません。限られたマーケットだと思っています。でも、より多くの方に魅力が伝わり、若い人のデートの定番になるような気軽な趣味になっていくよう、努力を重ねていきたいですね!
僕がまだ駆け出しの頃、坂東玉三郎さんが演出する舞台に出演したことがあります。そのときに、「演劇は愛だよ」と言われたんです。作品に対する愛、キャストに対する愛、衣裳に対する愛、なんでもいいんです。「愛」って難しい言葉ですが、リスペクトと言い換えてもいいのかもしれません。とにかくリスペクトがないと良い作品は生まれない。多くの現場を経験すると、ときには「相性が悪いな」と感じることもあるでしょう。でも、リスペクトの気持ちを持って取り組むうちに、だんだんと前向きなエネルギーが充満してくるんです。
そうすると、自然と稽古が楽しくなってきます。リスペクトの気持ちが充満している現場は、良い作品が生まれやすいんですよ。それは演劇に限った話ではなく、企業でも同じではないでしょうか。全員が意見を言いやすい空気のほうが、より良いアイデアは生まれてくるものです。仕事において大切なのは、エンジョイとリスペクトですよ。本番で楽しむために、稽古で努力をするんですよね。