相手に敬意を払うことが人間関係の始まり
信頼を得るために最も大事なことは、その国の文化・習慣に敬意を払うことだと感じています。取材先で日本人としてのルールをその国に当てはめては無礼にあたってしまうことが多いのが現実です。食事の仕方、服装、礼儀、必ずその地域の慣習に自分が合わせ、そのルールを守ります。
言葉が通じなくても伝えたい思いがあれば、必ず相手に伝わります。ジェスチャーでも何でもいいです。自分の本当に伝えたいことをきちんと伝える努力をすれば、発音や文法が前後したとしても、こちらの意図や感情を理解しようとしてくれます。たくさんの国を回れば回るほど、郷に従う重要性を実感できるようになりました。世界各国、それぞれの地域生活に溶け込んでみると、気が付くことがあります。それは、一つ屋根の下、家族で暮らすことのできる幸せは、万国共通なのだということです。
人の痛みを感じられる人間に
なぜ戦争が繰り返されるのか。そこには民族の違い、宗教の違い、利権の問題など様々な問題が絡み合っています。さらに戦場の最前線では、戦火に暮らさざるを得ない方々が、自らの家族の命を奪われたことへの報復行為に巻き込まれていく現状があります。自分の家族を、子供たちを守りたいと思うのはどの国の人であっても当然の愛情であります。しかし実際に目の前で家族が犠牲になる状況に立たされた時、人は報復に向かってしまう。悲しくもこうしたことが現実にあります。戦場というどこでも武器を手に入れられる環境があると、誰しもが家族を守るために武器を手にしてしまうのです。
情勢が不安定な国々から遠い国で暮らしていると「冷静になって、対話を通じて戦争を起こさないようにしよう」と感じます。様々な衝突に対し話し合いで解決の道を探るのは重要です。しかし戦場という極限の中で暮らさざるを得ない方々にとって、平和解決への道を意識ではわかっていても実践することは困難を極めます。自分の愛する家族を目の前で失っている中で、冷静にいられることは不可能に近い状態と言えます。それ故に血の報復の連鎖が起こる前に、悲しい現状に立たされる家族や子供たちの声を世界に伝えていかなければならないと感じています。
ぼくは、厳しい環境に置かれ、苦しんでいる方々の痛みを感じとりたい。そして子供たちには、人の悲しみや苦しみ、痛みを感じ取れる人間になってほしいです。 世界中から戦争がなくなり、戦場カメラマンが必要のない世界がやってくる日を祈っています。
(インタビュー・文 佐藤学 /写真 Nori/スタイリスト 立山功)
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渡部陽一 (わたなべ よういち)
1972年生まれ。静岡県出身
学生時代から世界の紛争地域にカメラを向け、取材を続けてきた。戦場の悲劇と、そこで暮らす人々の生きた声を世界に届けることを主軸に、数々の戦地を巡っている。
近年は国内の学校で講演活動も行い、子供たちに戦争の悲惨さを伝えることにも力を尽くしている。
オフィシャルサイト
(この情報は2014年2月1日現在のものです)