戦地の息づかいを伝える
戦場カメラマンの仕事とは
戦場カメラマンとして数々の地域紛争を取材してきた渡部陽一氏。自身を死と隣り合わせの戦場へと向かわせる原動力、そしてその心の底にある信念とは、どのようなものなのか。テレビで目にするのと全く同じ、あの独特の語り口で言葉を発する渡部氏の話の中には、人間の本質を捉えるかのような、鋭い指摘が数多く聞かれた。
学生時代の衝撃的体験
大学生の時、一般教養の授業でアフリカのピグミー族の話を聞く機会があり、「ジャングルで狩猟生活をおくる、彼らの生活を自分の目で見てみたい」という気持ちが沸き起こりました。それでピグミー族に会うため、アフリカ大陸中央部のザイール(現コンゴ民主共和国)へ向かいました。しかし当時、アフリカ中部のルワンダで起こっていたツチ族とフツ族の内戦が、ザイールまで拡大していました。こうした戦況を全く知らずに一人、ジャングルの中へ飛び込んでいったのです。
無謀で好奇心だけ、予備知識もなくザイールのジャングルを訪れたぼくは、衝撃的な事件に巻き込まれます。トラックでの移動中に少年ゲリラ兵の襲撃を受けたのです。銃弾が飛び交う中、恐怖で身体が動かず、逃げることもできませんでした。そして、向かってくる彼らに銃を突きつけられ、激しく殴打されました。少年兵たちにアメリカドルのお金を差し出すことで命を奪われずに済みましたが、それは幸運だっただけだと感じています。
九死に一生を得て帰国したぼくは、ジャングルでの理不尽な光景に恐れおののき、激しい憤りを感じていました。さらに、アフリカで起こっている現実を家族や友人にうまく伝えることができませんでした。子供たちが泣いていたあの戦火において、自分にできることは何だったのかを考えました。大好きなカメラを使えば、戦場で泣いている子供たち、そこで暮らさざる得ない方々の声を届けることができるのではないか、写真を使えば少しでも情勢が変わるのではないかと思いました。この事件をきっかけとして、世界で起こっている悲しい現実、そこに生きる子供たちの声を伝えるために、戦場カメラマンになることを決断しました。