挑戦を続ける中で見出した
大和撫子が世界で戦う術
国内、海外でプレーを続けるのと平行して、トップレベルの選手は国を代表する選手としての栄誉ある立場に選出される。安藤選手は10代から日本代表に招集され、国の威信を背負って戦ってきた経験の持ち主だ。彼女が壁を乗り越えてきた成長曲線が、なでしこジャパンのそれと重なるのは単なる偶然ではないだろう。
壁を越える積み重ねが人と組織を強くする
W杯ドイツ大会でなでしこが優勝できたのは、アテネ五輪、W杯中国大会、北京五輪と戦い続けてきた積み重ねがあってこそだと思います。私が初めてアメリカと対戦した時は、チーム力に天と地ほどの差を感じましたけど、アテネ五輪では何とか戦えるようになっていたし、北京五輪では競り合って、相手の勝負強さに負けた感じでした。そうやって、なでしこのサッカーがだんだんとトップレベルに近づき、実を結んだのがドイツW杯だったんです。
大会の初戦は戦術的な理解の食い違いなどもあって、チームはまだ完成されていませんでした。予選リーグは1位通過を狙っていたのに、イングランドに負けて2位通過になってしまいましたしね。でも、イングランドに負けたことで、チームに危機感が生まれ、みんなで戦術の確認をしたり、細かいことまで意見を出し合ったりできたんです。そして、決勝トーナメントのドイツ戦では、「戦う姿勢を持って局面ごとに身体を投げ出そう」 と意思統一ができました。球際の勝負をおろそかにしたら、パスをつなぐ自分たちのサッカーができないですから。
そうやって試合を重ねるごとにチームが一つになれたから、強豪ドイツに勝つことができたんだと思います。あの勝利の意味は大きかったですね。チーム全体に自信が芽生え、「私たちは絶対に負けない」 という一体感が出ました。決勝でアメリカと戦った時も、みんなが最後まで勝利を信じて戦い抜けたし、ロンドン五輪でも、積み重ねてきた勝利の経験があったからこそ、銀メダルが取れたんだと思います。一回でもチャンピオンになると、“勝者のメンタル” とでも言える自信がチーム全体に醸成されますし、対戦相手も日本の力を脅威に感じていることがわかるんです。それほど、優勝経験には重みがあるんですね。
ここ数年の実績で、日本の女子サッカーは世界を驚かせることができました。それまでは、フィジカルを前面に出すスタイルのチームが多かったですけど、日本の組織的なサッカーが注目を集めるようになって、女子サッカーの流れが変わりつつあるように感じます。それを私たちが成し遂げられたことは誇りに思います。でも、現在はアメリカやドイツも、日本のサッカーのいいところを取り入れようとしている。強豪チームがフィジカルの強さにプラスして組織的なサッカーをするようになったら、さらに強くなるでしょうね。でもそれは、実績を挙げた日本のサッカーがリスペクトされるようになったことの裏返しとも言えます。だから、日本がそれを上回る強さを持つには、個人のレベルをさらにもう一段アップさせる必要がありますね。
なでしこの活躍で世間の注目が高まったとはいえ、男子の世界と比べると女子サッカーのプレー環境はまだまだ遅れているのは、紛れもない事実だ。多くの経験や実績を蓄積しつつも、さらなるレベルアップを目指す中で、安藤選手はどのような未来を想像しているのだろうか。
高みを目指しつつ、経験を還元
男子選手と話していると、女子サッカーの世界とはプレー環境も動くお金も全然違うから、びっくりすることが多いんです。でもそれは、男子サッカーのほうが歴史があるし、世界中に注目されているのだから、当然ですよね。女子サッカーも、その世界にもっと近づいてほしいです。日本の女子サッカーはW杯の優勝で注目を浴び、ロンドン五輪では普段サッカーを見ない方にも応援してもらえるようになりました。でも、まだまだサッカー以外の部分で人気を集めている面もあると思うんです。だから、純粋に女子サッカーをおもしろいと思ってもらえる方を増やすために、試合やプレーの質を上げないといけません。実際に試合を見てプレーに感動してもらって、ファンの方々が増えていけば、レベルを底上げできると思います。
私は3歳の頃からボールを蹴り始めました。当時から憧れの選手のプレーを見てワクワクしていましたけど、今でもリオネル・メッシ選手らのプレーを見ると、昔と変わらず心が躍ってくるんです。そのくらいサッカーって楽しいスポーツなんですよ。それが今、自分の仕事にできているのは本当に幸せですよね。サッカーは選手としての自分だけでなく、一人の人間として自分を成長させてくれる素晴らしい競技。これからもさらに、私自身レベルアップを目指しますし、自分の経験やトレーニング方法を、後に続く人たちに還元していきたいです。私のプレーを皆さんに見てもらって、「安藤梢を見るために観戦に行きたい。安藤梢みたいな選手になりたい」 そう思われるように頑張ります!
(インタビュー・文 佐藤学 / 写真 Nori)