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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW


 
プロフィール 1961年静岡県生まれ。吉原商業高等学校3年時より400mを専門にしはじめ、全国クラスの実力を備えるように。東海大学に入学し、将来を嘱望される短距離走者に成長。大学3年時にインドのニューデリーで行われたアジア選手権で金メダルを獲得し、ユニバーシアードでも400m45秒の記録を打ち立て、オリンピック代表に選出された。以降、陸上400m走競技でロサンゼルス・ソウル・バルセロナと3度のオリンピックに出場。バルセロナオリンピックでは、60年ぶりに陸上短距離で日本人が決勝進出を果たすという偉業を成し遂げ、一躍国民的英雄となった。現在は東海大学体育学部教授、東海大学陸上競技部短距離ブロックコーチ、日本陸上競技連盟強化委員長として多忙な日々を送る。自らの経験と研究から独自の走法と理論とトレーニング方法を確立し、愛弟子である塚原直貴らと共に世界最速を追求している。
 
 
 
 「人材」 という言葉を辞書で引いてみると、「才能があり、役に立つ人。有能な人物」 と出てくる。とはいえ、いかに才能がある人物がいても、育てていくことができなければ、「材」 はあくまで素材のままだ。人材は育つものか、育てるものか――。この議論は、古今東西あらゆる局面で戦わされてきて、未だに確たる考え方がない。あくまで個人の考え、哲学しだいなのである。しかし、育成される側にすれば、指導者の力量が自分の運命を左右するわけで、捨て置けない問題だ。そこを踏まえて、あなたが上司ならば自分に問いかけてみてほしい。彼らを最も輝かせる育成・指導ができているかどうかを。そしてそのうえで、この人物の声に耳を傾けてほしい。高野進――日本陸上界の中興の祖のひとりであり、末續慎吾らエース級の逸材を育て上げてきた名伯楽である。自らの経験をもとに培ってきた人材育成術についてうかがった。
 
 
 

指導しているより、自分がやりたいだけ

 
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 実はね、あまり指導者になりたいと思ってないし、自分が指導者だとも思っていないんです。つまり、現役選手のままなんです、自分の心が。肉体はいつまでも現役でいることはできませんけど、心はずっと現役。自分自身がグラウンドに入り込んでいく感覚といいますか、それがあるからこそ指導ができていると思います。
 相手との距離があると、どうしてもマニュアルどおりだったり、筋書きどおりの指導になってしまう。そうなると、いくら彼らが高いポテンシャルを持っていても、伸ばしてあげられないんです。必ずしも、毎日グラウンドに行って、どっぷり練習に付き合うことができるわけではないからこそ、どうやって彼らと感情を共有するかが大事です。最近では選手とSNSで交流もしますよ(笑)。 そういったところでできるだけコミュニケーションをはかりながら、アドバイスするようにしています。
 たとえば体調や、練習での感動度などを5段階評価にして、送ってもらうんですよ。「大感動した・感動した・普通・あまり感動しなかった・全く感動しなかった」 というふうに。それが私のところに毎日30通ずつくらい届くので、そのひとつひとつにコメントを書いてやりとりしています。そういったところで彼らと感情や情報を共有して、グラウンドに出た時は選手と一緒になって、陸上に浸かっていきます。これは信頼関係が成り立っていないとできない関わり方だと思いますね。
 大学の授業で教鞭をとるときは、もちろん学生の知識や考えを深めてもらうための講義をしています。ただ、ひとたびグラウンドに出ると、どうしても、ね(笑)。 「現役の血が騒ぐ」 というのですらなく、現役のつもりなのだから、仕方がない(笑)。
 
 
 
 

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