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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

好奇心と天邪鬼が核にある
「一期は夢」というヒント

 
 
鳥越氏は昨2011年6月、自身のがん体験をつづった著書 『がん患者』 を刊行した。「患者・鳥越」 「取材者・鳥越」 の二人の鳥越氏が登場する本だ。といっても、近代文学ばりにドッペルゲンガー現象を描くわけではない。記録される=描かれるのは、手首に巻いたプラスチックの患者識別カードにもそう表記された 「1940.03.13/鳥越俊太郎」 という一人のがん疾患だ。しかし、場面ごとの所感でくりかえされる言い回し――「~~なんだろうなぁ。~~だもんなぁ」――の悠長な語感は、疾患があくまでも深刻なだけに、一種独特のユーモアを感じさせる。
 
 

「ゴールデン40’s」を位置づける

 
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 特にユーモアを意識したわけじゃないけど・・・ そうだなあ。できるだけ客観的に、あるがままを記録しようと意識したからね。ただ、なかなかそれはね、ここまで長く生きてこないと(笑)。
 ぼくも若い頃はしょうもないことに悩みもしました。友人の言葉が胸にひっかかって、1週間もずーっと、クヨクヨウジウジしていたようなことがありました。いや、あるんだよ、若いうちは。 何でもないことに一喜一憂する自分がまちがいなくいた。でも、今ふりかえると、確かにあれはプロセスとして必要だったかもしらんけど、できたらその時間を、もっと前向きに使えたら良かったなあと思いますね・・・。
 主な読者は、40代ぐらいですか? それくらいになれば社内でも経験を積んで、一定の地位にいるでしょう。周囲からも、自分の意識からも、もうヒヨッコではないですよね。そうなったときに、少し視野を広げて、人生を俯瞰的に見てみるというのは大事だと思う。残り時間はどれくらいか、残りで何をするか、どこまでなら手が届くか。俯瞰して見ていれば、「これを集中してやろう!」 と思えることが自然に出てくるから。
 ぼくはこれを 「ゴールデン40’s」 と呼んでいました。40代はね、まず肉体的に健康である。あるていど経験と実績も積み、知識だって備わってくる。それと大事なのは、経済的にも多少の余裕が出てくるよね。だから、肉体と知識と財、うまい具合にこのバランスが取れてくるのが40代なんですよ。20代は肉体だけ。30代になれば少しは他も備わってくるけど、まだ全然足らない。40代になれば、知識もスキルも蓄積されて、いい仕事ができるようになり、見聞を広めるためのお金もでき、もしかしたら、女性との付き合い方だって変わってくる(笑)。 そのことの位置づけを、自分の中でキチンとやって、大事にしてほしいです。
 
 
 
「でも、もしかしたらぼくの言ってることは」――と、鳥越氏はここで留保をつける。「どちらかというと “おく手” の人に合てはまることかもしれない」 と。氏自身、何につけても “おく手” で、記者の仕事を好きになったのは30歳も過ぎてからだったというのだ。彼の世代で30過ぎというのは、いかにも遅い。
 
 

晩生の効能

 
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 10代の頃からおませな、いわゆる早稲タイプの人がいますね。ぼくは全然そうじゃなかった。人間って、早稲と晩生 (おくて) とに分かれると思うんです。若いうちから職場でも目立ってさ、あいつすげえなって思ってた奴が、だんだん消えていって、今は何してるかわかんないって人生もあれば、ぼくみたいに20代とか30代前半ぐらいまでは、自分でも何してるかわかんない、周りから見ても大した玉じゃないと思われてたのが、60代から70代になっても一線でやらしてもらえてるっていう人生もある。
 火山だって休眠状態の休火山と、活発に噴火してる活火山とがあるでしょう。だから、全員同じように考えてはダメ。
 自分のセルフイメージと仕事やプライベートの実際が、うまく重なってくる頃合、って言えばいいかな、それは人によって違って当たり前なんです。ぼくは、一つには、ぼくみたいに若いときは何してるかわかんなかったような人に、「腐らないで自分のことを見つめていれば噴火することもありうるよ」 ということを言いたくて、この本を書いたんです。病気は単にきっかけで、自分の生きてきた道を書いたつもり。だから、ぼくはがんにぶつかったけど、それによってこれまで生きてきた道を曲げられたという感じは、全然ない。
 
 
 
曲げられたとは感じない。自分の人生で起きることは丸ごと楽しむ。――まさに 「一期は夢よ ただ狂へ」 ではないか。
 
 
 そうね。それは本当にそのとおり。ぼくは好奇心が人の何十倍もあるので、何でも知りたいし、何にでも接したいし、楽しみたいんです。知らない人に会って 「この人はどんな人だろう」 って思いながら話をするのは楽しいし、それが女性ならもっと楽しいしさ(笑)。
 男性のこと? それは自分でわかってるからなあ。どれだけ情けない動物かっていうこともね。でも女性は・・・わからないから。家族も、若い頃のガールフレンドも、とことん行ったところで本当の根底にあるものは・・・やっぱり男にはわからない。永遠に好奇心の対象ですよ。
 性のほうにつなげても、男というのはほとんどが要らないんです。種の保存の観点からいえば、地球の人口が70億人として、その半数の30何億人かの女性に子供を生んでもらうのに、男は一人いればいいんだから。1ミリリットルの精液中に精子は日本人で70000~8000万、欧米人は1億ある。うまく 「分配」 すれば地球上の次世代生産は一人の男で全部まかなえます。
 だから、男っていう存在はバーチャルですよ。生きていることの実感が、女性に比べて、どこか “仮” の感じなんだね。命と実際に向き合って、自分の体から命を生んで育てられる女性の “生きる実感” っていうのは、どんなだろう。興味があるよね。だからせっせと女性の友人を作って、一緒に飯食いに行ったり、いろいろと話をしたりするわけで(笑)。
 
 
 
 
 

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