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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

氷上のスピードスターが極めた
勝ちにいくための自分掌握術

 
 

自信を持って、平常心で臨むこと――。どの世界でも言われることだが、勅使川原氏の場合はそのために、まず心を整えていくことを非常に重視していた。レース前はライバルの研究や戦術の確認に時間を費やすのかと思いきや、意外なところだ。しかし、そうやって状態を整えても本番で失敗したり、結果がともなわずに終わってしまったときには?
 
 
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「次!」というキーワード

 
 そのようなときは、すぐに忘れます(笑)。 これもメンタル対処法の一つかもしれません。失敗したことについては特に、「しょうがない、次、次!」 と切り替えるようにして、必ず引きずらないことが重要ですね。「次!」 というのは私の中で大切なキーワードなんです。「次がある、次にがんばればいい」 という考えは、簡単なようだけど、日常でも思いのほか使えると思いますよ。
 ただ、それは闇雲に記憶を消去したりということではないんです。反省すべきところはきちんと反省し、それを生かすようでなければ、成長は見込めませんからね。ですので、私の場合は、子供の頃から 「反省日誌」 をつけて、定期的に読み返すようにしているんです。練習でどんなメニューをこなしたか、何ができて、何ができなかったか。それらを文字にして書いているとわかってくることって、すごく多い。
 もちろんその際にも 「次! 次は絶対に、悪かったところを直す!」 という意識を必ず持っていました。現役時代は、どんなに疲れていても、落ち込んでいても、反省日誌を書いて読み返さないと、一日が終わった気がしませんでしたね(笑)。
 
 
 
 
ショートトラックは 「氷上の競輪」 という別名があるように、スタート直後からゴールの瞬間まで、選手どうし熾烈な駆け引きが行われる。500m種目ではトラックを4周半、1000mでは9周、1500mは13周半、3000mは27周、5000mでは実に45周もトラックを周回する。当然、距離に応じて求められる戦い方は変わってくる。しかし、勅使川原氏いわく、「勝負どころとなるポイントは変わらない」。彼女はそれを 「対自分」 というキーワードで説明してくれた。
 
 

氷上の熾烈な心理戦

 
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冬季オリンピックに三大会連続で出場するなど、日本女子の代表選手として活躍した。
(写真は2005年の全日本選手権)
 どうしてそこまで自分にこだわるかというと、特にショートトラックの場合は 「対自分」 というエッセンスが非常に強いんです。氷の上では確かに隣にライバルたちがいる。ですけど、自分を見つめることができないと、何かしら言い訳をしてしまうでしょう? 「あのときあの選手が、おかしな切り込み方をしてきたから」 とか、とかく原因を自分以外のところに定めようとしてしまう。それをしたくなかったんですね、私は。
 レース前にスタート地点で立ったときから、駆け引きはすでに行われています。まず大事なのは、そこで気持ちをブレないようにすること。意外と思われるかもしれませんが、比較的、スタート地点では選手どうしで話をしているものなんですよ。「今日、ちょっと調子悪くてねー」とか、「いや、風邪ひいててさー」とか、ライトな会話ですけどね(笑)。 でも、その言葉を額面通りに受け取ると危うい。どこかに油断が生まれてしまったりもするんです。だから逆に私は 「今日はすごく調子がいいんだー」 と、必ず言うようにしていました。言霊ではないですが、自分の口から発した言葉に自分が奮い立つこともありますからね。
 実際にレースが始まると、基本的には作戦どおりに滑っていきます。何週目で前に出て、どのタイミングで勝負を仕掛けるという想定を一応はしていますからね。だけど、実際に走っていく中で、想定した作戦とは異なる状況がどんどん生まれてくるんです。仮に同じトラックを、同じ距離、同じメンバーで滑ったとしても、そのときどきのコンディションや調整度が微妙に影響して、絶対に同じ展開にはならないんですよ。だから、常に 「その瞬間」 を大事にすることが勝負の分かれ目になっていました。
 
 
 
「瞬間」 とは、物理的には1秒もない、本当に瞬きをする程度の時間だ。その間に選手たちの中でどのようなことが行われ、どのような決定が下されているのだろうか。勅使川原氏は言う。「迷ったら、勝てません」。そこが勝敗を決めるポイントなのだ。
 
 

1秒未満の勝利のチャンス

 
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 これはもうアスリートの直感としか言えないんですが、ちょっとした刹那のひらめきのようなものがあるんです。たとえば、ある一瞬、他の選手がすべて止まって見える瞬間があったり、インコースが大きく開いたように見える瞬間があったり・・・。それらは観客席から見ていてもわからないもので、時間的にも1秒あるかないかくらいのタイミングですね。滑走中の選手じゃないとわからない感覚だから言葉で説明するのは難しいですけど、「ここで行くしかない」 という瞬間は必ず来ます。野球だったらピッチャーの球が止まって見える瞬間、サッカーならば決定的なパスコースが見えた瞬間とか、他の競技でもありうる 「瞬間」 ですね。私が勝負どころとしていたのは、まさにその瞬間なんですよ。
 
 
 
 

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