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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW


 
プロフィール 1978年、岐阜県出身。元選手だった父のコーチのもと、子供の頃からショートトラックスピードスケートに没頭。中学2年生で全日本選手権の総合優勝を果たすと、高校1年からは同大会5連覇を達成し、若手注目株に名乗りを上げた。1996年の世界ショートトラックジュニア選手権において日本人としては唯一総合優勝を果たし、世界的にも注目されるように。冬季オリンピックは長野、ソルトレイク、トリノの3大会に出場。長野では500mで6位、1000mで5位、3000mリレーで4位、ソルトレイクでは1000mで17位、3000mリレーで4位、トリノでは1500mで17位という成績を残し、メダル獲得こそならなかったものの、日本のショートトラック競技の興隆に大きく貢献。引退後は、明るいキャラクターを生かしてスポーツコメンテーターとして活躍するかたわら、ウォーキングの推奨を中心として 「健康」 をテーマに様々な活動を続けている。
 
 
 
ビジネスにもスポーツにも、勝利と敗北の境目となる瞬間がある。いわゆる “勝負どころ” というやつだ。いくら事前準備を整えても、抜け目のない計画を立てても、勝負どころを押さえられなければ勝利は遠のいていく。チャンスをモノにできるようになるためにどんな努力をし、どんなセンスを発揮すべきか――。
今回はそのヒントを、女子スピードスケートショートトラック元日本代表、勅使川原郁恵氏にうかがう。ショートトラックは1周111.12 メートルのトラックを4~6名の選手が同時に滑って着順を競うシンプルな競技だ。しかしシンプルであるがゆえに、メンタルコンディションの整え方や、駆け引きの心理戦など、競技としての奥が深く、緻密な戦い方が求められる。目標をイメージし、トレーニングを工夫し、強豪ぞろいのライバルを押しのけて世界的に活躍してきた勅使川原氏ならではの “勝負どころ” の読み方とは?
 
 
 

レース前のメンタルトレーニング

 
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 ショートトラックは氷の上で競いあう競技ですが、当然ながら、リンクに上がる前からすでに戦いは始まっているんですね。それはまず、自分との戦いです。
 私の場合は、まず競技に入る前にメンタルトレーニングを欠かしませんでした。日頃からやっているのは 「自律訓練法」 というものです。たとえば、心の中で 「右腕があたたかいな、ポカポカしてきたな」 と思い込むようにする。すると本当に右腕の血流が促進されて、温かくなってくるんです。あとは、呼吸をするときに 「嫌なものを全部吐ききってしまおう」 というイメージで息を吐き出します。すると本当に、体からも心からも嫌な感じのものが抜けて、軽くなります。要は、自分の頭でイメージしている状態と実際の身体の状態を一致させていくことから始めていきます。
 大会などの前日には、必ずいいイメージを持つように、イメージングの強化も欠かせません。失敗したり負けたりするようなイメージは一切持たずに、「レース展開はこのようになり、最後は自分が手を挙げてゴールする」 という結果を、強く想い描くんです。そしてそのままぐっすりと眠って、試合当日の朝を迎えます。
 当日は試合を待つ間にも別のメンタルトレーニングをします。まず会場に到着すると、客席の一番高いところに上がって、自分がこれから走るリンクを俯瞰で見ます。そうやって観客の目線で自分を客観視して、繰り返し想い描いてきた勝利のイメージをさらに重ねていく。すると、自律訓練法で頭の中のイメージと実際の体がつながっている状態になっていますから、自然に体が勝つための状態になっていきますし、精神的にも落ち着いた状態でレースに臨むことができるんです。
 「これが自分の勝ちパターンなんだ」 と思い込む方法もありました。身に着けるものも勝った大会のときに着ていたものにしたり、スケート靴の履き方も、やっぱり同じ履き方で履いたり。とにかくいいイメージを繰り返せるようにしていました。要は、自分に自信を持ってレースに臨むことが重要なんです。
 
 
 
 

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