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京の花街周辺にある店に足を運んだ際、店内で白地に朱色の文字が入った団扇(うちわ) を見かけたことがあるのではないでしょうか。
これは 「京丸うちわ」 と呼ばれるもの。毎年7月頃になると、芸妓さん・舞妓さんが自分の名前と紋を入れて得意先に配ります。夏の風物詩ともいえる京丸うちわを製造販売しているのが、岡崎の平安神宮近くに店を構える 「小丸屋住井」 です。
寛永元年(1624年)に創業した頃は 「深草団扇」 を手がけていたという老舗の団扇店。深草団扇とは、伏見・深草の名産品で、なつめ型と呼ばれる縦長の楕円形をしており、伏見の瑞光寺を開山した日蓮宗の元政上人(げんせいしょうにん) が考案したため 「元政型」 とも呼ばれています。全国的にも名を馳せた深草団扇は、数多くの団扇がつくられていましたが、明治末期頃に衰退してしまいました。現在の 「小丸屋」 はというと、復元した深草団扇を製造する一方で 「新深草団扇」 を手がけています。
新深草団扇とは、江戸時代の風景や祭事などを描いた 「名所図会」 に鮮やかな色彩を施してアレンジしたもの。この開発に至ったのは、深草団扇や元政上人について研究していた龍谷大学の名誉教授・故宗政教授の提案から。157景を揃えるうちのほとんどが京都で、祇園祭の風景や紅葉の名所など当時の風俗を彷彿させます。
2-6月頃は団扇製造作業の繁忙期。「小丸屋」 の2階では骨に紙を貼る作業が行われます。
気温や湿度、場所によって糊の濃さや種類を変えるという、職人の確かな技と感覚が美しい団扇をつくるポイントです。私たちが日常遣いする団扇はプラスチック製の柄が多いかもしれませんが、丈夫なのに軽く、扇ぐと涼しい竹がやはりおすすめ。「小丸屋」 の竹は、四国の徳島県産真竹の3年ものを使用しています。
まず、骨の段階で1本1本検品。骨を選別し、調整していくことで本当に良質な団扇を仕上げています。「手間や時間がかかっても、形をきれいに整えていくのが職人のプライド」 なのだそうです。
現在は団扇だけでなく、扇子やお面といった舞踊関連の道具も取り扱っています。また団扇も、友禅染や版画、切り絵や著名人とのコラボレーションなど幅広く展開。客層は舞踊や花街などの関係者だけでなく、ネットや雑誌を見て遠方から足を運ぶ一般の方も多いそうです。
「お客様に喜んでもらいたいという気持ちで接客やものづくりをしています。心のつながりを大切にしたいんです」という代表の住井啓子さん。「団扇は本来、自分ではなく大切な人に風を送るための道具」 であるのと同じように、お客様を想っての行動が相手の満足を生み出しているのでしょう。そんな真心が 「小丸屋」 の根底に息づいているのです。