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経理不正事件の発生原因と金融機関等の内部統制

 
 
 つい最近、東京の立川市で6億円という巨額な現金強奪事件が発生しました。これで思い起こされるのが、昭和43年に起きた3億円事件です。
 当時、この事件が世に与えた衝撃は激しいものでした。その大胆かつ巧みな手口も、“素晴らしい” と言うと語弊がありますので言葉を変えますが、強烈なものでした。当時3億円というのは、まさにとてつもないお金でした。現在の貨幣価値に直すと約20~30億円にもあたるとも言われています。小説やテレビドラマ、そして映画化もされ、私どもの年代にとってはあまりにも強烈で忘れ得ない事件なのです。
 今回の6億円現金強奪事件の報道に接して、何故警備会社がいなかったのだろうか?という疑問が浮かびましたが、よく聞いていたら警備会社そのものが事件にあったとのこと。呆れてしまいます。この警備会社にはさらに警備会社を付けなければ駄目ですね。
 
 

1、事件発生の原因と問題点

 
 犯人は多額の現金が一括で保管されていた金庫室以外は物色せず、小分けにされた現金を数分間で運び出して逃走しており、営業所の駐車場の照明が事件の30分前に消されていたことも判明し、会社の内部事情に詳しい人物が犯行に関与したとの見方が強いということです。
 
では、どのような問題点があるのでしょうか?
 
(1) 侵入口となった窓は半年以上前から壊れていたにも関わらず修理していない。
(2) 1人で警備をさせて、その警備員はいつでも現金を持ち出せる杜撰な管理態勢。
(3) 仮眠を許容している。
(4) 警備や宿直が常時、室内にいることを理由に警備用のセンサーを切っていた。
(5) 過去に郵便局から集めた現金約1億5,000万円が盗まれる事件と現金約6,900万円
を乗せた現金輸送車が盗まれる事件を起こしている。
 
 この業務を委託した郵便局株式会社は一般競争入札で大切な現金輸送業務をこの警備会社に委託したようです。一般の金融機関であれば随意契約で管理態勢のしっかりした警備保障会社に業務委託しているはずなのに、なまじ民営化に歯止めがかかっているためにルールでそれもできなかったのでしょうか。
 過去に2度も事件を起こしている会社に業務を委託すること自体が考えられませんが、抜き打ち検査などにより厳正な監査を行なうべきでしょう。窓が壊れているにも関わらず半年も修理していなかったり、警備用のセンサーを切っているなど全くリスク対応が甘いし、内部統制もできていない証拠です。このような事件を起こさない仕組みを作らなければならないと言えます。
 
 

2、事件を起こさない仕組み作りと金融機関の内部統制の一例

 
 事件を起こさない仕組み作りとは、リスク対応できる内部統制組織と内部牽制を利かせられる組織作りです。
 金融機関自体もまれにこのような事件を起こしてはいますが、金融機関の内部統制は、一般の事業会社に比べると、比べようもないくらい、牽制が効いています。
 本店監査部による定期監査、抜き打ち検査、店独自で行う店内検査等々があります。本店監査部による抜打検査の日は、当然に事前に知らせませんし、朝の8時半くらいから店の前で待機して内部監査部門が抜打検査に臨みます。顧客からの重要預り物記録簿、渉外預り物件相互チェック表、顧客情報持ち出し管理簿、事務ミス回覧簿等々、あらゆる部分での相互牽制が効いています。地域金融機関の、ある日の営業店監査で顧客情報持ち出し管理簿を見ていたら、記載の90%以上は営業マンのその一日の顧客訪問リストのコピーでした。すなわち営業マンの手帳のようなもの。外出先から戻ると上司の承認後、シュレッダーにて破棄するんですね。
 銀行の営業マンは外出先から様々な書類等を預かってきます。それらはすべて重要預り物記録簿に記帳しなければならないし、営業マン同士が毎日それぞれの机の中やロッカーの中、外出用自転車やオートバイのかごの中を相互にチェックして、報告するシステムになっているんです。これらのシステムがちゃんと機能しているかのチェックが金融機関内部の監査部門で行なわれています。
 それらの内部監査がきちんと行なわれているかをチェックするのも、我々公認会計士監査の業務の一部分です。
 金融機関も大変です。公認会計士監査以外に、金融庁検査、ある地域の金融機関の例だと10人位で1ヶ月間程度かかります。そして投信も販売しているので、日本証券業協会の立入検査、これも3人で1週間くらいかかります。 日銀検査や国税局の調査もあります。これらが同時に3つくらい重なる時があるとさすがに悲鳴をあげていますね。
 我々もよく金融庁検査と重なったりします。人ごとながら監査、検査、考査、調査で大変です。
 
 

3、経理の不正事件と発生防止策

 
 エンロン事件やワールドコム事件そして日本でも西武鉄道事件、カネボウ事件、ライブドア事件など、相次ぐ不正事件の発生により、資本市場の信頼回復が急務となったことから法制化された 「金融商品取引法」(SOX法を含む)では、財務報告の適正性を確保するため、上場企業に対して内部統制の構築を義務付けています。ですから中小企業に比べれば不正等の発生の予知は少ないのかもしれません。
 この制度は、平成21年3月期から始まりましたが、金融庁の発表でも 「重要な欠陥」 と判断された、内部統制報告書に記載された例があります。
 
例えば、
○ 前代表取締役が社内規定による職務分掌や承認手続を無視し、独断で約束手形の振り出しを行なった。
○ 前取締役が、定められた取締役会の承認を得ずに債務保証を行なった。
○ 内部統制の基本的要素である 「統制環境」「情報と伝達」「モニタリング」 に不備がある。
 
 上場企業でもこのような事例がまれにはあるようですが、一方中小企業はどうでしょうか? 中小企業向けの内部統制報告制度の相談窓口も設けられてはいますが、人手の問題もあり、まだまだ内部統制組織まで手が回りきれないのが実態です。
 小規模事業の事例については 「内部統制報告制度に関する事例集 ~中堅・中小上場企業等における効率的な内部統制報告実務に向けて~」 (リンク先のPDFファイル)などを参考にしてください。
 この事例集に出てくる企業とても、そこそこの企業と言えます。中小零細企業で経理的不正が起きないようにするには、全てを一人に任せない。相互牽制を図れる体制にする。常に他人の目に触れさせる。社内規則等の整備並びに実態への変更をも含めた対応を図るとともに、その運用もきちんと行なう。経理部門や現金管理は経営陣の身内や家族の手から離させる。・・・etc
 まあ、中小企業の経理部門と接して30年以上経過しますが、不正事件はやはり時々起きてしまっています。零細企業に効率的な内部統制報告制度云々というつもりもありませんが、事故が起こってからでは遅いんです。不正が起こらないシステム作りを心がけたいものです。
 
 
 
 

 執筆者プロフィール 

渡辺俊之 Toshiyuki Watanabe

公認会計士・税理士

 経 歴 

早稲田大学商学部卒業後、監査法人に勤務。昭和50年に独立開業し、渡辺公認会計士事務所を設立。昭和59年に「優和公認会計士共同事務所」を設立発起し、平成6年、理事長に就任(その後、優和会計人グループとして発展し、現在70人が所属)。平成16年には、優和公認会計士共同事務所の仲間と共に「税理士法人優和」(事業所は全国5ヶ所)を設立し、理事長に就任。会計・税務業界の指導者的存在として知られている。東証1部、2部上場会社の社外監査役や地方公共団体の包括外部監査人なども歴任し、幅広く活躍している。

 オフィシャルホームページ 

http://www.watanabe-cpa.com/

 
 
 
 

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