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8月20日『日刊工業新聞』17面

 
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たっきー / PIXTA
先月20日、日刊工業新聞17面に「就業不能保険 対象広く」と題した記事が載った。袖見出しは「東京海上日動 軽度のケガ・コロナも」。横見出しは「若年層の利用拡大狙う」である。また、その隣には「中小の売掛債権回収 クレディセゾン ウェブ対応、翌日入金」という記事が並んだ。大きくて三段、せいぜい四段扱い程度の記事だったと記憶するが、ある意味、感染症蔓延状況下の世相を象徴する眺めだった。
 
「中小の売掛債権回収」のほうは、要はクレディセゾンが情報通信業者のエキサイトと組んでファクタリングサービスの提供を始めた、という記事である。従来からあった「セゾンインボイス」のサービスにファクタリング機能を追加して始めたようで、別のプレスリリース*1によれば、新規取引先の与信審査、請求、入金消込、未払いへの督促回収業務まで一括で代行するという。
 
ファクタリング(売掛債権の期日前買い取り)は手形割引の衰退と入れ替わりで出てきた比較的新しいサービスで、取扱高としては2011年に一度頭を打ったとされているが、昨2020年の民法改正で債権譲渡禁止特約付き債権に関しても譲渡が認められたこともあって、普及度合いはここに来てむしろ高まっているようだ。
 
その間の事情を脇から推し量る資料としては、中小企業庁発表の「倒産の状況(令和3年7月分)」*2の、「原因別倒産状況」が参考になるだろう。10個ある倒産原因のうち、売掛に直接関係する「売掛金回収難」だけでは数が少なすぎてサンプルにならないものの、他の「連鎖倒産」「既往のしわ寄せ」「信用性の低下」といった間接的に売掛リスクに効いてくる原因も合わせれば、2015年が売掛に起因する倒産の一つのピークだったと見える。以降ゆるやかにピークアウトしているのは、それまでさほど売掛リスクを意識しなかった企業や経営者たちが2015年を境として確実な回収(現金化)を意識し始めたことも背景にありはしないか。近年のファクタリングサービスの普及は確実性を「早期化」で担保したいニーズの増加を示すのではないかということである。
 
 

ファクタリング利用者が意識すべきこと

 
ファクタリング業者のクチコミサイト「ファクタリングの口コミ」を見ると、本稿を執筆した8月下旬現在で掲載業者数は202件。筆者の属性(個人事業主・フリーランス)から最も縁がありそうなyup社の「yup(ヤップ)」とGMOの「フリーナンス即日払い」を例にとると、債権額は1万円から買い取り可能で、上限は前者が10万円、後者が1000万円までとなっている。
 
逆に「法人限定」などで最も縁が遠そうなサービスの場合、下限は100万円で、上限は1億円まで買い取り可能なところもある。なお手数料に関しては、前2社が3~10%(yupは一律10%)なのに対し、後者は(利用者⇔ファクタリング業者)の2者間ファクタリングでも1%の低利率を謳う業者もある。
 
どちらも利用者にとって重要なのは、償還請求権が付いているかどうかだ。償還請求権とは、売掛債権が回収できなかったときにファクタリング業者がファクタリング利用者に未回収分を請求できる権利のこと。要は、仮に倒産や支払い遅延などの理由で取引先(売掛先)から支払いがなかった場合、利用者としては債務額(元の売掛債権額)をファクタリング業者に払いようがないが、ファクタリング会社は利用者に弁済を請求できるということである。
 
債務なのだから弁済を請求できるのは当たり前ではないか、と思いそうだがちょっと違う。債権の原理に即して考えるなら、買い取るのであれば未回収リスクも一緒に買い取る(譲渡を受ける)のが筋だ。しかし、もしそのファクタリングが償還請求権付きだった場合、未回収に終わるリスクも、2者間ファクタリングの場合には回収にかかる労力や様々な負担も、丸々利用者側に残されてしまう。サラ金ですら未回収リスクと取り立ては業者が担うのに、金融業としてはたしてそれはどうか、という問題があるのである*3
 
 

ファクタリングサービスの近未来

 
ここで「金融」と明記するのは、商業が究極的には異なる地域間(物価体系間)の価格格差から利潤を得ているように、究極的には現在と未来の時間間格差を利殖に変えているだけである点で、ファクタリングは広義の金融業だからである。その時間間格差を「リスク」として抱えてあげれば保険業に近付くし、「早期化」に使わせてあげれば狭義の金融業になるだけだ。
 
そして金融業である以上、出資法・利息制限法・貸金業法が定める年利上限20%を実質的に超える手数料をふっかけてくるファクタリング業者がもしいれば、さっさとお暇して消費者金融の世話になるほうが賢明だろう。いわゆる偽装ファクタリング*4が一掃され業界の健全化が進むためには、このあたりの認識が利用者の側で共有されてくることが必要だと思う。
 
それによってファクタリングの社会的な位置づけがこなれてくるし、またそうなるなかで、クレディセゾンのように決済代行業化していくやり方と、大手ほど社内リソースがなければ財務コンサルティング等と抱き合わせるやり方が標準になっていくだろう。いずれにせよ単純な金融業のままではいられないに違いない。
 
 

就業不能保険の必要性の現実味

 
記事のもう一つ、「就業不能保険 対象広く」のほうについてはどうか。こちらは袖見出しの「軽度のケガ・コロナも」と合わせて、「25歳の人が65歳までに働けなくなる確率は7人に1人と言われる」との本文の記述が示唆的だ。
 
8月中旬にメンタリストDaiGo氏が生活保護利用者やホームレスの人たちへのヘイト発言で炎上した際、SNS上では「これからLong Covid Haulerの生活保護申請が増えるから、政府が今からインフルエンサーを使って牽制してきた」という見立てが囁かれた。それはさすがに陰謀論としても、若年層の就業不能保険の必要性は現実味を帯びつつあるのではないか*5
 
ハーバービジネスオンラインの連載『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』が先月単行本化された牧田寛氏によれば、日本のコロナ被害をworse caseで予測した場合、第5波で2000万人が感染するとされていた。ざっと人口の6分の1である*6。9月初旬時点でworse caseは免れたようだが、ワクチンが充分供給されず接種がなかなか受けられないなかで、冬にかけて第6波が懸念されること、発症すればタチの悪い後遺症が長期にわたり続くとされていることを思うと、記事の「7人に1人」は嫌でも「人口の6分の1」と重なる。
 
小島庸平著『サラ金の歴史』*7を読むと、さまざまな理由で低所得や不安定所得に甘んじざるを得ない高リスク層に対し、国の手が届かないぶんを、その時代ごとの民間の消費者金融がいかにたくましく包摂してきたかがわかる。ファクタリングしかり、就業不能保険の対象拡大しかり。金融・保険業が時代状況に応じて変化する様を8月20日付け『日刊工業新聞』の17面に見た。
 
 
 
*1 エキサイト、クレディセゾンと提携し後払い決済・請求代行サービスに参入(PR TIMES 2021/8/18)
*2 「倒産の状況(令和3年7月分)」(中小企業庁・令和3年8月19日)
*3 給与ファクタリングを行う業者に対し「貸金業を営む者に当たる」とした令和2年3月24日の東京地裁判決(日本ファクタリング業協会サイトより)を参照
*4 偽装ファクタリング業者への取締り強化を要請 東京弁護士会が会見(弁護士ドットコムタイムズ 2021/3/12)
*5 本稿は企業案件ではないことを断っておく。
*6 twitter@BB45_Colorado 午後7:46 · 2021年8月7日
*7 『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』(小島庸平著・2021年・中公新書)
 
(ライター 筒井秀礼)
(2021.9.8)
 
 

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