企業が取り組むべき「BCP(事業継続計画)」とは
シリーズ第2回 なぜ進まない? 中小企業へのBCP導入
では、こうしたガイドラインを参考にして、自社で使えるBCPを自前で策定できるのだろうか。森氏は、自治体のガイドラインは大企業向けのものを中小向けにアレンジして作られており、書かれていることをきちんと行えば自前のBCP策定も可能だという。しかし、最低限のことしか盛り込まれていないので、それでBCP対策は万全と安心してしまってはまずいという。所詮、借りてきた服。着こなして 「使えるBCP」 にするためには改善、充実、訓練が必要となると指摘している。
ガイドラインの中で、企業に影響を与えるリスクはどのようなものが想定されているのだろう。例えば、BCAOのガイドラインの中では、次のようなリスクを上げている。
- 災害リスク・・・・ 地震、台風、洪水、新型インフルエンザ
- 事故リスク・・・・ 火災、爆発、停電
- 法務リスク・・・・ 不正競争、知的財産違反、証券取引法違反
- 社会リスク・・・・ テロ、企業脅迫、情報漏洩
- 財務リスク・・・・ 粉飾決算、虚偽記載
- 製品開発リスク・・・・ 欠陥の発生・隠蔽、欠陥製品の不適切な回収
- 内部不正リスク・・・・ 営業秘密の不正利用、横領、背任
企業を取り巻くリスクには、さまざまな種類があることがわかる。リコール問題で窮地に陥っているトヨタの場合は、製品開発リスクに当たるだろうか。これが、脆弱な体質の中小企業だったら、とっくに事業停止、倒産の憂き目に遭っているかもしれない。
四国でBCPを策定している自治体はたった2件
多くのガイドラインがもっとも影響が大きいリスクとして上げているのが地震である。新型インフルエンザは時間がたてば原状復帰できるし、ビルが倒壊することはない。いっぽうで地震は、起きた瞬間に会社がつぶれてしまう可能性もある。最近、市レベルの小さな自治体が、地震をメインに据えたBCP策定マニュアルを盛んに出している。自治体は、国民が知らない地震の極秘情報を持っているのではないかと勘ぐりたくなるほどである。
ところが、企業にBCP導入をすすめる自治体そのものにBCP(自治体の場合は業務継続計画) が導入されていないというお粗末な実態が明らかになった。
2月10日の読売新聞によると、四国で業務継続計画を策定しているのは、徳島県と愛媛県上島町しかないことが四国地方整備局のまとめでわかったのだという。
四国近辺で起こる東南海・南海地震は、30年以内に発生する確率が60%と高く、いつ起きてもおかしくない状況だという。東南海・南海地震が発生した場合、四国内では最大12万4000戸が全壊し、死者は6340人に達すると予想されている。そこで、同整備局が四国の4県と95市町村を調べたところ、BCP策定ずみはわずかに2か所。検討中も香川、愛媛両県と高知県土佐市、徳島県阿波市など9市町村にとどまったというのだ。
四国では、建設業を中心に約50の企業がBCPを策定ずみだという。近い将来の東南海・南海地震に備えなければならないのに、肝心の自治体がBCPを導入しておらず、危機意識の薄さが浮き彫りになったのだ。アンケートを実施した結果、回答のあった90市町村のうち、89市町村がBCPを 「大変重要」「重要と認識」 と回答した。それでも導入が進まない理由として、「サンプルなどの参考書がない」「検討するための人員が不足している」 を上げ、6市町村は 「検討する予定はない」 と答えていたというのだ。
災害が起こったときに、地域住民が真っ先に頼るのは行政である。自治体は、いざというとき地元住民の命を預かる最前線になるという自覚をしっかり持ってほしい。行政がこのようなていたらくでは、企業にBCPが浸透しないのも当然といえるかもしれない。
日本では経営トップの危機管理意識が低い
最近、BCPへの関心が高まってきた背景として、前回、次のような要因をあげた。
- 企業を襲う事業中断のリスクの増大
- ビジネスのIT依存が高まり、ITシステム障害による影響が増大
- サプライチェーンで、ビジネスの取引用件としてBCP策定がもとめられる
- BCP策定を社会的責任(CSR)ととらえる企業が増えている
- 法制化の流れ・・・・ 政府によるガイドラインの策定
- 国際標準化の流れ・・・・ 日本でも 「BS25999」 の認定企業が登場
- 新型インフルエンザ・パンデミックへの脅威が高まる
これほど企業の背中を後押しする要素がそろっているのに、なぜ企業へのBCP導入は進まないのだろう。専門家が上げている理由を大きくまとめると次のようになる。
- 経営トップの危機管理意識が低い
- 経営者は、BCPの言葉は知っていても、中身を理解していない
- BCPへの投資を戦略的なコストとして捉えていない
- 担当部署の責任者が必要性を感じても、トップとの間に温度差がある
- 取り組む必要性は感じているが、いまの不況下では予算化がむずかしい