第2回 そのとき、企業はどう対応したか、これからどう対応したらいいか。
これらの企業の中で、どの程度が新型インフルエンザ対策を行っていたのだろうか。調査によると、2009年春の時点では1万890社のうち55.4%の企業が実施していた。それが、7月以降では73.0%と、流行後では7割以上の企業が何らかの対策を行っていた。現在実施している具体的な対策を尋ねたところ、事業継続に関する対策としては、次のような取り組みを行っていた。
- マスクや手袋など衛生用品・食料の備蓄 (4999社、構成比45.9%。複数回答あり。以下同)
- 社員・職員に対する新型インフルエンザの教育・啓蒙 (4275社、39.3%)
- 新型インフルエンザ関連の情報収集・連絡体制の整備 (4137社、38.0%)
- 職場における感染予防・感染拡大防止策の策定 (4083社、37.5%)
一方、従業員に向けた対策としては
- 手洗い用の消毒液等の設置(5630社、51.7%)
- せきエチケットの励行(3689社、33.9%)
- 本人または家族が罹患したときの出社制限(3296社、30.3%)
- マスクの着用(3223社、29.6%)
となっており、いずれの取り組みも春の時点より実施企業が大幅に増加していたという。
また、自社の従業員が新型インフルエンザにかかった場合、業績に影響があるか尋ねたところ、「ある」と答えた企業は6134社(56.3%)と、6割近くの企業が影響が出てくると考えていた。
具体的な影響としては
- お客様への訪問を控えざるをえない (文房具・事務用品卸)
- 1人1車制をとっているので、社員が休むと稼働が落ちる (運送)
- 少人数の会社のため、1人でも欠けると影響が出る (土木建築)
- 専門的技能を他者が補うのは困難 (金型・部品製造)
など、事業規模の制約や高い専門性により、限られた人員でやりくりしている企業の切実な状況がうかがわれた。人との接触機会の多い職種や、ぎりぎりの人員で事業を行っている企業では、売り上げや納期、稼働率、顧客の反応など、さまざまな分野に影響が広がることを懸念している様子がうかがわれる。
いまなお「強毒性」が発生する可能性
ここまでの半年間の推移を見ると、弱毒性、低病原性だったことから、パンデミックとはいえ「こんな感じで推移するんだな」と時系列的、客観的に眺めることができた。しかし、今回の新型インフルエンザ騒ぎが起こるまでに国や専門家が想定していたパンデミックはこんなものではなかった。実際、多くの学者や専門家が予測していた「強毒性のパンデミック」が今後発生しないとは限らない。
そんな不安を裏書きするように、2009年11月17日、経団連から政府に対し、「鳥由来の新型インフルエンザ対策の再開・強化を求める」という提言が出された。
鳥由来の新型インフルエンザ発生の可能性は依然として高く、その脅威については、医療関係者を中心に強い危惧が示されている。にもかかわらず、対策に一部中断や遅れが生じている状況に対し、経済界が危機管理の観点から政府の施策の充実・強化を求めたのだ。内容は、政府は次の5つの事項を早期に講ずるべきとするものだが、あわせて企業のBCP(事業継続計画)の前提となる政府の想定や指針を明確に示すよう求めている。
- ワクチンの早期接種のための環境整備
- パンデミック時の法令の弾力的運用
- 政府による適時・適切な情報の発信
- 社会インフラの維持に関する政府想定の明確化
- 海外にいる在留邦人への配慮
企業にとっては、いまも拡大が続く新型インフルエンザへの対策が最大の課題だろう。しかし、弱毒性だから大丈夫と安心するのでなく、今回の流行で得られた知見や教訓を踏まえ、BCPの観点から、あらためて強毒型の新型インフルエンザへの対策シナリオを想定しておく必要があるのではないか。