前回で、モンスターペアレントやクレーマーには社会的な背景が大きく影響すると提言いたしました。必ずというわけではないのですが、やはり経済的要因で苦情が増えることは否めません。「貧しさ」から、「豊かさ」から、どちらも発生する理由になります。
では、まずどのような理由があるのか事例でご紹介させていただきます。
格差社会が人の気持ちに与えるもの
百貨店に勤務している知人が、遭遇したクレーマーの話をしてくれました。ある夏の暑い日、ハンカチ売り場で購入された品をプレゼント包装にしていて少し手際が悪かったところ、「君はこんなに冷暖房が完備された場所で、定価のハンカチを売り、年収を数百万円もらっていることだろうけど、こんなに包装が下手でどういう教育をされたのか。どこの大学の出身か?」 と問われ、「わ、わ、早稲田大学です」 と答えてしまったところ、運悪くクレーマーも同じ大学の出身で、「僕はいつも営業で暑いところにいるのに、新卒で就職に失敗したから年収が低い・・・。君はそんな程度の仕事で、対価として給料をもらっているのか? 包装すら満足にできないで!」 とかなりご立腹だったとのこと。
まずは包装の作業が上手でなかったことが一番の原因ではありますが、格差社会を夏の暑い中にヒシヒシと感じながら過ごしていたお客様の鬱屈が、たまたま接客した店員の仕事ぶりをきっかけに爆発してしまったのです。出身大学や、職務環境の条件が違うことを挙げるのはまったくナンセンスで、悪質なクレーマーなのですが、収入面の格差を差別意識やコンプレックスと感じてしまうことで表面化するクレーム例です。
逆に、経済的な豊かさが災いとなる場合があります。それは弊社での事件でした。「とても年収が高い方で、難しいところがあるけれど・・・」 と行政からご紹介いただいたお客様から、初めての仕事の後に苦情をいただきました。「あなたの会社のスタッフはお風呂の水を使って洗濯するホースの使い方を知らなかったけど、どういう時代からいらした方ですか?」 とおっしゃるので、「大変申し訳ございません。家電には様々なものがあり、即対応というのが完璧でないこともございますので、ぜひご指導をいただけましたら必ずご満足いただけるようにさせていただきます」 とお話しをすると、「指導って、私は1時間5万円で仕事をしているんですよ。あなたのスタッフに1時間話すなら教育代をいただかなくてはいけません。マニュアルを書くのでも時間がかかりますから」 と矢継ぎ早にお話しされました。
1時間5万円もいただくお仕事をされている方ですから、もう少し家事のお仕事にもご理解いただけると嬉しかったです。極論するなら、ご家庭の数だけ家事のやり方があるのですから、家の仕事の細々とした事柄について他人が最初から万般マスターしているというのは難しいです。そのお客様は、ご自身が金銭的には裕福でいらっしゃることを刃としてふりかざしているのですが、それでは弊社の家事スタッフがそのご家庭の家事を理解してお手伝いさせていただくことは難しいのではないかと心配になりました。もちろん、弊社スタッフも人間です。また、スタッフが安心してお手伝いをさせていただける環境を守るのは会社の使命ですから、「私共では力不足で務まりませんのでご辞退させていただきます」 と申し上げて失礼しました。
「金持ち喧嘩せず」ではない
これらの事例は本質が一緒で、経済格差が背景になっています。コンプレックスを感じていることやプライドが高すぎるということが、穏やかに過ごせるはずの事柄も難解にしてしまっています。昔から 「金持ち喧嘩せず」 という言葉がありますが、最近では金持ちの喧嘩は裁判を起こすことも辞さないので性質が悪いという評価もあります。そういった一部の富裕層は 「心を穏やかにするのも荒立てるのもお金次第」 という精神になっているのでしょう。「ベンツに乗っているけれども給食代を払わない」 あるいは 「教師をバカにして学校の規則を子供に守らせない」 などといったモンスターペアレントは、この精神が生む存在です。
一番大切なものは何か?
人間、生きるうえで大切なものは何であるのかを突き詰めて考えてみれば、まず自分が生きていること、そして愛する人がいること、その人たちのために生きる気持ちだと思います。震災で大切なものを瞬間で失くされてしまった方、積み上げてきた自分の生活が避難勧告により全く機能しなくなってしまった方、たくさんいらっしゃいます。その方々は経済格差から生まれる不満を感じる余裕などなく、毎日を生きるために必要最低限な物資を確保して元の生活に近づくことに、注力していらっしゃるでしょう。
先日、私が運転する車に、斜め前を走る車が投げ捨てた空き缶が当たり、キズがついてしまいました。いまどき道路に空き缶を捨てるマナーの悪い方がいるのも驚きましたが、走りながらだったためにかなりのキズになっていました。信号待ちで隣同士停まったので注意をしようとしたのですが・・・ 留まりました。「今、日本では復興に向けて何もないところから頑張ろうとしていらっしゃる方がいるのに、車に乗り、仕事をさせてもらい、今までの家に不自由なく住んでいる私がそんなことで文句を言うなんておかしい」 と思ったのです。不思議と気持ちが治まりました。一番大切なのはモノでもお金でもなく 「生きていること」 だと感じたのです。
これからの日本経済は受けた打撃をバネにして発展していくことでしょう。その時に、自分の身勝手な理由でクレームをつけ、教師を脅かし、子供の教育にブレーキをかけるようなモンスターが出現しないことを心から祈ります。経営者として、母として、今、大切なことが何か、自分たちの生活に必要なものや余分なものは何かを、今一度考えて、教える、そして実行する時期が来ていると感じています。学歴や収入に関係なく、「愛する人のために生きる気持ち・
人と共に生きていく気持ち」 があれば、クレームをつける気持ちなど消えていくのではないでしょうか。
本当の苦情は企業の成長のために必要です。でも、いわれなき苦情をもらわないように企業側も努力していくことにより、その姿勢を示し続けていくことにより、会社とお客様がひとつになり、経済を活性化させられると信じています。
次回は 「社員(スタッフ)に心を伝える方法」 をご紹介したいと思います。多くの会社が様々な方法で取り入れられている社員教育を比較・検討します。
Womenomics(ウーマノミクス)の経営論 ~子育て事業からの提言~
第4回 社会的背景がモンスターにする!? ~一番大切なものは何か~
執筆者プロフィール
森島真弓 Mayumi Morishima
株式会社One & Only代表取締役
経 歴
大学在学中に派遣会社を起業し、順調に推移させた後、大学を卒業して広告代理店に就職。結婚、出産を経て退社し、フリーのコンサルタントとして活動した期間をはさんで渡米。アメリカで見つけた子供服に魅せられ、2003年に子供服輸入販売業として(株)MRK. INTERNTIONAL(現・One & Only)を起業。2008年からはベビーシッターサービスを新たに開始。経営者としての経験の豊富さに2児の子育てを通じて得た視点と発想を加え、ウーマノミクスの時代に即した事業を展開している。
オフィシャルホームページ
http://www.little-star.biz/