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「一番の楽しみは仕事」って言えるかい?

 
 「岡野さんは、飲む、打つ、買うのほうがずいぶん達者なんだろうな」―― おれに初めて会った人は、たいがいそう思うらしいね。人様がどう思うかってのは自分じゃどうにもできないけど・・・ そういや以前、テレビの番組で 「岡野さん、一番の楽しみは何ですか」 と聞かれたことがあった。おれが 「仕事です」 と答えたら、相手は 「仕事? そんなはずはないでしょう」 と怪訝そうにおれを見やがるんだよ。そんな目で見られても困るよ。正真正銘、おれは仕事が好きなんだから。
 おれは酒もタバコもやらない。年とってきたから体のためにタバコをやめたなんてケチなやつもいるけど、おれはハナからやっていないよ。もちろん、ギャンブルも、あっちのほうの遊びも・・・・。だって、仕事のほうが楽しいからさ。だいたい、大の男がだよ、仕事が楽しくなくてどうするんだよ。
 
 おれなんか、2~3日機械をいじらないで休めって言われたら、かえって疲れちゃってどうしようもないよ。ああでもないこうでもないと、のべつ手を動かしているほうがずっといい。何か考えついたら、夜中だって起きて、機械をいじってるもんな。おれから仕事をとったら何も残んねえ。仕事をやらなきゃ、おれには何の価値もない。これ、謙遜でも何でもないよ。
 
 そう言うと、「どうしたら仕事がおもしろくなるんですか。なにかいい方法はないですか」 と必ず聞かれる。皆さん、おれより学問も知識もあるだろうに、なぁ(笑)。 もしかしたら、そういう皆さんが仕事がおもしろくないのは、なまじ学問や知識があるせいで 「ここで頑張らなくてもどこか他所で食える」 って気持ちが出て、目の前の仕事に夢中になれないんじゃないのかな。学校を卒業して会社に入るときに、「これがおれにとって絶対に必要な仕事だ。これでおれは生きていくんだ」 と思ったかどうか、もう一度考えてみるべきだね。
 おれは 「もう、これしかねぇ」 ってところで頑張ってる。これを手放しちまったら絶体絶命だと思って仕事をしている。その覚悟が、仕事をおもしろく、楽しくしてくれるんだ。
 
 

やっかみはレベルアップした自分への勲章だと思え

 
 仕事がおもしろくなる方法の他に、こんな悩み相談も受ける。「同僚に比べるとできるほうだと思っています。そのせいか、周りからの風当たりが強くて、嫌みを言われたり、足を引っ張るいやがらせもされます。どうしたら人間関係がうまくいくようになりますか」――まあ、だいたいこんな内容だ。
 
 世の常として、出る杭は打たれるよ。人より抜きん出ようとすればいろいろな人から妬まれる。でも、だからと言って腐っちゃダメだ。そいつと同じ土俵に乗っちまってもダメだ。おれはいつも 「義理人情を大切にしろ」 と言ってるだろ。これだって、何も自分の意思を押し曲げてでも相手に合わせて関係を保てっていう意味じゃない。同じ会社で仕事をしてるんだから、よりよい仕事をするために同僚と競争することは、そりゃ、あるよ。それで勝ち負けの結果が出て、いままで一緒にやってきた人間とそりが合わなくことだってあるだろう。でも、そのときそのとき誠意をもって対応すれば、人間関係、そんなにこじれることはないものだよ。
 
 おれもなぁ、妬みややっかみはイヤというほど経験してきたよ(笑)。 個人レベルでなく、会社や企業のレベルでも、やっかみってのはあるんだ。世間でいう “抵抗勢力” ってやつかな。いいものは最初は出にくい。そういうものなのさ。
 だから、やっかみは、他の人よりも一つ飛び抜けたことへの勲章だと思うことだ。そんなやつらの思惑なんか気にしないで、次の、上のレベルへの挑戦を始めとこう。人があれこれ言って停まってる間にレベルアップしちまうって寸法だ(笑)。 それで人が追いついてこれないぐらいの差を開けちまえば、「あいつの足を引っ張ろうとしてもダメだ」 となるよ。
 ただ、今まで目をかけてくれた人との関係にはきちんと筋を通せよ。おれが言う 「恩と義理は絶対に欠くな」 ってのはそういうことだ。そうすれば、今までよりももっといい出会いが、自然にやってくる。もっといい仕事ができるようにもなる。
 
 

認めさせるためには自分をブランド化することさ

 
 あと、こんな相談もよく受ける。
「自分の仕事はもちろん、部下やアルバイトがやるべき仕事もこなしています。自分でやってしまったほうが早いからです。だからすごく働いているはずなのに、仕事に見合った給料をもらっていない。こんなことでは、仕事へのモチベーションが下がってしまいそうです。どうしたらいいでしょうか」
 
 今はこういう悩みは多いんだろうな。バブルがはじけて20年以上も、日本人の給料は実質的に上がってないからね。会社にしてみれば、収益が上がってないのに社員の給料を上げるなんてことはありえない話だ。でも、いい仕事をいっぱいやらせてもらって儲かってる会社なら、賃上げは、してあげようと思うはすだよ。あとは自分をどう会社に認めさせるか、だな。
 一番いいのは、自分をブランド化しちまうことだ。そのためには、がむしゃらに働いてるだけじゃダメ。「あいつは仕事ができる」 と言われることは大事だけど、他の誰かでもできることができたって仕方がない。「あいつじゃないと任せられない」 っていう存在にならないとな。
 たとえば岡野工業がそうだ。「どんなに優秀な工場でも、何パーセントかの不良品は出る。仕方ない」 そう思うだろ? でも、うちは不良品は出さない。1年で1億個作っても不良品はゼロ。これがブランドだよ。大手企業が交渉のテーブルについて、こちらの言い分を対等な立場で聞いてくれるのも、ブランドがあればこそだ。
 
 一生懸命働いて、それでも自分に対する評価が低い、給料が安すぎると思う人は、「あいつには絶対にかなわない」 「この仕事はあいつ抜きじゃ成り立たない」 っていうブランドを持っているかどうか、もういっぺん考えてみるといい。それで自分なりのブランドに思い当たれば、胸を張って堂々と会社にかけあえばいい。会社に体力があれば評価を見直してくれるんじゃないかな。それで給料が上がれば・・・ その恩は忘れちゃダメだぞ。
 
 
 というわけで、次回もよくある相談に答える形で、「スランプ知らずの仕事術」 について話してみよう。
 
 
 
 
 
 もういっぺん、作ってみようや! ~町工場最強オヤジ!岡野雅行の直言~
第10回 仕事が面白くなる発想法

 執筆者プロフィール  

岡野雅行 Masayuki Okano

岡野工業株式会社 代表社員

 経 歴  

岡野工業株式会社代表社員。十代初めから、実父が営んでいた岡野金型製作所で職人修業を開始。勤勉に仕事にいそしむかたわら遊び仲間も多く、仕事と遊びの双方で「向島の岡野雅行」の名を上げ始める。1972年、製作所を引き継ぐと 「岡野工業」 と社名を変更。金型だけでなくプレスも導入し、高い技術力を持って大手との取引が増え始める。インシュリン用の注射針で主流になっている「ナノパス33」をはじめ、ソニー製ウォークマンのガム型電池ケース、携帯電話のリチウムバッテリーケース、トヨタプリウスのバッテリーケースなど、世界的な躍進を遂げた製品はどれも岡野工業製作の部品が支えているとすら言われている。

 
 
 
 

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