こんにちは、上原浩治です。
今年のシーズンもいよいよ幕開けです。普段はこのコラムを担当しているけど、今月は
スペシャルインタビューにも記事が出ているので、そちらもぜひ覗いてみてください。
このコラムを書いているのは、今年のオープン戦の初登板直後。この時期は、どの選手も監督や首脳陣にアピールして、横一線からレギュラーの座を争っていく時期です。まずは、自分がやりたいことを試して手応えをつかんで、そして年間を通してコンスタントにチームに貢献できるコンディションに仕上げていきたいですね。オープン戦はどの選手にとっても、プレーを高い次元で安定させられるよう、いろいろ試行錯誤する期間です。だから、日本のメディアは「打った!」とか「打たれた!」などの結果を話題にしますが、暖機運転中であるので、この時期の結果はあまり気にしていません(笑)。
メジャーは練習しなさすぎ?
一塁ベースカバー、いわゆる投内連係の練習中
シーズン開幕を迎える前に、キャンプからオープン戦への流れについてお話しておきましょうか。
日本のプロ野球でもキャンプの様子がニュースでわかるから、キャンプで選手たちがどんな練習をしているかはだいたい想像がつくでしょう。メジャーリーグのキャンプも基本的には同じです。練習内容はキャッチボールしたりランニングしたり、連係プレーの練習をしたり。ただ、朝がとにかく早いのがこちらの特徴。午前中にチームで1.5~2.5時間練習して、そこから先は各自にお任せ。早々に帰ってしまう選手もいるし、残る選手もいるんです。ぼくの場合は、だいたい13時か14時頃まで自主練習をしてから上がることが多いかな。
日本の野球界はチーム練習を16時くらいまでやるのが当たり前のようだけど、もうちょっと控えてもいいんじゃないかな。逆にアメリカはさっさと帰る選手が多くて、やらなさすぎと感じることもあるかな(笑)。「もうちょっとやろうよ・・・・・・」って思うくらいですね。
とはいえ、みんな一流ですから、自分に足りないと思えば適切な量の練習を自分に課して調整します。だから、外野が余計なことを言わなくても大丈夫。メジャーは選手の主体性を重んじてくれて、自分のペースでできますから、ぼくには合っているんですよね。
穏やかムードとプロ意識
「まだ陽も高いうちに練習が終わって、そのあとの時間はどう過ごしているんですか?」とよく聞かれますけど、これも選手ごとに違い、十人十色です。ぼくの場合は本を読むことが多いかな。皆、それぞれにリラックスする方法を持っているし、キャンプの時点ではまだチーム全体が本番ムードになっているわけでもない。練習はきちんとこなしますけど、チームのムードはとても穏やかですね。ミーティングは選手会でのミーティングが多いけど、「みんな、怪我せずやっていこうぜ!」みたいな確認が中心でね。本番に入ると緊張感も出てくるけど、キャンプ中の会話も「オフに何してたんだ?」とか「母国に帰ってたのか?」といった近況の話をしたりしてね。バカンスに行ってた人もいれば、違うことをしていた人もいるけど、基本、トレーニングは皆欠かしていない。だから、当然ですけどキャンプで慌てずにペースを守って調整することができるんですよね。
やりたいことを迷わずやる
そもそもメジャーの水はぼくに合うと思っているんですが、ボストン・レッドソックスというチームの環境も、ぼくにとってはとてもやりやすいと思っています。チーム全体が選手の体の状況をとても気遣ってくれるのがわかるし、自分がやりたいことを重んじてくれる。
野球チームでもビジネス組織でも、プレイヤーである個人がやりやすいと感じるか否かは、結果に大きく影響すると思うんですよね。ぼくにとってやりやすい環境とは、まず自分の好きなように動くのを認めてくれること。そしてそれを手助けしてくれることかな。
「ある程度は規制や縛りがあったほうがやりやすい」という考えもあるかもしれませんが、それは規制や縛りを超えて自分を出せる人に限ってのことですよね。言われたことをやるだけ、先を考えずにやるだけというのは、自分の可能性を狭めてしまうことになる。与えられた仕事の、その一歩先をやらないといけない。それがチームや会社に貢献することにつながれば、おのずと評価はついてくるものでしょう? 自分の考えのもとで一歩先に足を出せるか、出せないか。仕事ができる人とできない人の大きな違いは、まずそこにあるんじゃないかな。
やってみる。もがいてみる。
もちろん自分の考えで動いて失敗することもあるでしょう。でも、失敗して得るものはちゃんとあるんです。経験を得られる――これはもちろんですよね。そして、「こうしたら失敗してしまう」という教訓を得られる。同時に「このやり方は失敗したやり方だから、別のやり方をしよう」と判断するきっかけを得られる。つまり、逆を言えば、動かないと何も得られない。だからこそ「経験は財産」です。特に4月から新社会人になる方などは、どんどん何かできることを自分で探して動くべきです。いろんな経験を楽しめるようになれば最高ですね。
ぼくもこの年齢になっても試行錯誤の毎日です。「絶対にこれなら大丈夫」なんて保証は、野球でも仕事でもありません。そんな中、毎日を真剣に生きているからこそ、毎日が楽しめる。先日今季限りで引退することを表明したニューヨーク・ヤンキースのジーター選手。ぼくはメジャー公式戦で最初に対戦したのが彼でした。彼との対戦などでもそう思いましたよ。今年も“勝負の一瞬”は嫌でも訪れますから、「今年が最後」という感傷に浸りこそしませんが、今考えるとジーター選手もぼくもお互いに真剣にやっていたからこそ、「いい勝負ができたな」と自分なりの経験に昇華できていると思うんです。
だから、今年も真剣勝負。一試合一試合、一球一球、もがいて攻めて投げていきます!
執筆者プロフィール
上原浩治 Koji Uehara
ボルチモア・オリオールズ投手
経 歴
大阪府出身(出生は鹿児島県)。東海大学付属仰星高校から大阪体育大学に進学し、大学3年時に日本代表に選出。1997年に出場したインターコンチネンタルカップ決勝では、当時国際大会151連勝中だったキューバから先発勝利をあげ、注目された。ドラフトで読売ジャイアンツに1位指名(逆指名)を受け、1999年に入団。ルーキーイヤーに20勝投手となり、最多勝利、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の4冠を獲得し、新人王と沢村賞も受賞。翌2000年は肉離れのため登録抹消となるなど、ケガに苦しむシーズンを送るも、2002年に再び17勝をあげ、優秀選手賞を受賞。2004年にはアテネオリンピック野球日本代表に選出され、銅メダル獲得に貢献。2006年のワールド・ベースボール・クラシックでも日本代表のエースとしてチームを優勝に導いた。2009年にボルチモア・オリオールズに入団。ベテラン投手の一人としてチームを牽引している。