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ビジネス 佐藤勝人の「儲けてみっぺ」 vol.5 セルフマネジメントの行方 佐藤勝人の「儲けてみっぺ」 商業経営コンサルタント/サトーカメラ代表取締役副社長

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リクルートの在宅勤務から

 
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上海・蘇州・北京を回った出張中、現地にて
皆さんこんにちは。佐藤勝人です。前回は勝人流・移民受け入れ論から展開して、「日本ならではのクリエイティブが生まれるんじゃないか」という話をしました。クリエイティブに収束する意味ではこれも同じ流れかもしれない。というわけで、今回は「リクルート社が全社員を対象に10月から在宅勤務を導入」という、あのニュースから。
 
報道によると、対象人数は2000人だそうです。2000だよ!? 3人や4人じゃないよ!? また、リクルートさんがやるというのが象徴的です。成功するか失敗するかはともかく、今回の試みは「労働」に対する日本人のこれまでの考え方が変わるきっかけになるんじゃないか。
 
従来の日本企業の労働管理は、私が言うところの「メーカー型」でした。社員を毎日同じ時刻に、同じ場所に集まらせて、何時間働いたかで評価・管理していた。これも確かに一面では正解だったんです。経営者はとにかく人の生産性を上げたいわけだ。大手は人件費がかさむから特にそう。するとどうするか。遊んでる社員をなくす方向に発想するんだね。有能な社員の割合を増やすよりもね。だから業務をできるだけ標準化して、どんな社員でも決まった時間勤務すれば平均的な成果が出る仕組みにして、「人数×会社に来てる時間」で管理してきた。投入資本あたりの生産性が正確に計算できると事業戦略上有利です。従来型の日本企業の強みはそこにあったわけです。
 
いっぽうで今回の在宅勤務。ニュースから私が連想したのは、吉本興業の「住みます芸人」でした。大阪や東京でパッとしない芸人を地元に帰らせて、ようは在宅勤務をさせて、仕事も自分で、地元で取れっていう趣旨のプロジェクト。栃木にも住みます芸人がいたから話を聞いたのよ。そうしたら、やっぱりキツイってね(笑)。すごく自分が試されるって。そりゃそうだよ。情報発信も売り込みも全部自分でやるんだから。でも、そうやって自分発で動くうちに、感覚が変わってきたそうです。「東京でバイトしながら続けてた頃は、芸人での成功は宝くじにあたるかどうかみたいな感覚だった。でも今は、真面目にやってたら官公庁とも繋がりができてくるし、自分で努力したぶん社会での居場所を広げられる」ってね。なるほどな~って思いました。
 
やっぱり日本人の働き方とか「労働」の考え方は、これから全体的にセルフマネジメント寄りになるんだと思います。雇う側は「あなたの働きは正味こうだから、報酬はこうです」。雇われる側も「自分の働きは正味こうだから、給料はこうだな」。お互いが労働の対価を正味で考えるようになる。少なくとも知識労働は確実にそうなる。リクルートさんは以前から雇用や労務管理の面で先進的な企業だから、全部見越して仕掛けてる気がしますね。たぶん今後、社内でフリーランス的な雇用形態になる人が増えますよ。在宅で短時間で業務を終わらせて他社の仕事も請ける人や、業務を早く終えて浮かせた時間をスキルアップの勉強にあてる人が出てくるだろうから。
 
いずれにしても、成長意欲旺盛で優秀な社員とそうでない社員が、結果的にふるい分けられてくるでしょう。愛社精神とか会社への忠誠心とかも変わってくると思います。そういえば今年7月にリクルートさんでセミナーをやった時に、幹部の方が言ってました。「佐藤さん、リクルートは社員に『会社のために働くな』と教育するんです」って。なぜって私が聞いたら、「社員の隠ぺいとか不祥事は会社のために働くから起きるんです。会社に良かれと思ってやるんです」って。それよりは、会社で働くリスクもメリットも自分本位で考えるぐらい優秀な人間に来てほしいんだって。シビレますよね。
 
 
五輪エンブレム問題」に学ぶ
 
リクエストに応じてこの話題にも触れておこう。すでに各分野の識者や先生方から様々な意見が出ていますが、一商業者の目で言うとしたら、確か今回、公募主つまりクライアントである東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が採用作へ出した対価は、賞金・制作料・著作権譲渡料として100万円だ。これは単純に、安すぎなかったか???
 
もちろん、今後の仕事全般に“東京五輪のエンブレムをデザインした”という箔がつくことは、そのクリエイターにとって大きなメリットだろう。それを見越してかどうか、委員会はクライアントとして100万円を提示した。門外漢であることは承知のうえで、キリがいいという以外に、この額にした理由が想像できない。そして実際その通りだったら、事業者をあまりにもナメた話だ。
 
個人事業主にせよ法人企業にせよ、自社の商品やサービスを出すにあたっては適正価格を見積もる。逆に言えば、価格があらかじめ固定されて動かなければ額に応じた仕事を納めるのが普通だ。採用不採用はクライアントが判断すること。選んだのは主催者であり、何で選ばれたほうがぐちゃぐちゃ言われなきゃならないのか。今回の件が盗用にあたるのか、あたるとして当人にその意識があったのか、あってもなくても全体として対応がどうかといったことを論じる立場に私はないし、採用が白紙撤回された今となってはなおさら、クリエイター当人について言うことは何もない。だが、組織委員会が案件の価値を正しく評価・価格設定できていたかについては、一商業者として疑問を感じざるを得ない。もっと高額を提示して世界中から優れた作品を募っていれば、状況は違っていたのではないか?
 
「名誉料込みでこの額でどうでしょう」――そんな仕事をしていても発展はない。もうそんな時代ではないのだ。我々はそのことを学ぶべきだ。
 
 
 
佐藤勝人の 儲けてみっぺ
vol.5 セルフマネジメントの行方

 著者プロフィール  

佐藤 勝人 Katsuhito Sato

サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長

 経 歴  

栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万?1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。

 オフィシャルサイト 

https://jspl.co.jp/

 オフィシャルフェイスブック 

https://www.facebook.com/katsuhito.sato.3?fref=ts

 サトーカメラオフィシャルサイト 

http://satocame.com/

 YouTube公式チャンネル 

https://www.youtube.com/channel/UCIQ9ZqkdLveVDy9I91cDSZA (サトーカメラch)

https://www.youtube.com/channel/UC4IpsvZJ6UlNcTRHPgjellw (佐藤勝人)

 
(2015.9.9)
 
 
 
 

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