前回は「税金が戻ってくる!」というテーマで、繰り戻し還付制度についてご紹介しました。
第2回のテーマは「良い節税とは」。いわゆる幽霊資産に注目します。
節税は義務
突然ですが、経営者の皆さんは「節税をするか、しないか」というのは任意だと思われますか?「節税してもしなくても、そんなの会社の勝手でしょ」と言われるかもしれません。しかし、節税すれば、従業員や取引先にそのぶんが還元できたかもしれません。また、中小企業においては、節税対策を実行できるのは(判断の権限があるのは)、通常、経営者だけです。
これらのことを考えると、私は「正しく賢く節税することは、経営者にとって義務である」と考えます。「節税は義務」というと違和感があるかもしれませんが、余分な税金を払うことによって本来払うべき人へ還元できる資金が減少してしまっているとしたら、それは良くないことではないでしょうか。
節税3ケ条
しかし節税と一口にいっても、その形態は様々です。私は節税を大きく3つに分けて考えています。
それは「良い節税・悪い節税・普通の節税」です。
悪い節税とは、無駄遣いにつながるようなものや、結果的に会社や経営者にお金が残らない節税のことです。
普通の節税とは、特殊な節税対策等ではなくて、当たり前のことを当たり前に会計・税務処理する節税のことです。例えば、「役員報酬の適切な設定」や「税法基準にのっとった決算賞与の支給」といったことです。こういったことをきちんと事前に検討・実行しておくのは節税のためのごく一般的なアクションですが、会計がブラックボックス化してしまっていたり、数ケ月遅れでしか試算表ができあがらない会社では、この「普通の節税」ですらできていないことが多いのです。
それでは「良い節税」とはどのようなものでしょうか。私なりに節税3ケ条をまとめてみました。
第1条 資金不要であるべし
第2条 永久的な節税であるべし
第3条 高い節税効果があるべし
とかく巷に出回っている「節税商品」といわれるものは、節税するために先に何らかの支出が必要となります。結果、決算を終えて払う税金は確かに減ったけれども、手元資金はそれ以上に減少しているということも、実はよくあります。第1条の「資金不要」というのは、節税対策を実行するに当たってとても大切なことです。
また、今期は節税となっても、来期以後にそのぶんの課税が実現されるような「税金支払い繰り延べ対策」というのは、本来的な節税対策とは言えないかもしれません。節税対策は、可能な限り「永久的な節税」であるのが望ましいです。
とはいえ、来期以後の見通しが不明瞭で、とにかく当座は今期の節税対策さえ実行できればいいというケースもあるでしょう。そのような場合には、「資金が多少必要」あるいは「永久的な節税ではない」としても、「高い節税効果」があればOKですので、それが良い節税の3つ目のポイントとなります。
資金不要の永久節税対策
では、上記「良い節税」の第1条と第2条を満たす「資金不要の永久節税対策」にはどのようなものがあるのか、見ていきましょう。
まずは、「使用していない又は存在していない固定資産を除却できないか」という点を検討してみてください。「貸借対照表」又は会社の固定資産を詳細に記した「固定資産台帳」を1つずつ見ていき、「貸借対照表や台帳には載っているが、実在しない」資産――つまり幽霊資産がないか確認していくのです。
経営者の中には、「我が社の経理はしっかりしているから、貸借対照表に載っていて会社には実在しない幽霊資産なんてあり得ない」と感じられる人もいるかもしれません。しかし、「新しいトラックを購入した際に古いトラックを廃車した」とか「故障の多い機械装置だったので、現場サイドで勝手に捨てた」などというケースは意外によくあります。経理担当者が工場や製造現場などを見て歩くことは少ないでしょうから、廃棄などの情報がきちんと経理に伝達されない限り、処理しようがないのです。
そして上記のような幽霊資産が発覚したら、台帳などに載っている期末帳簿価額について、
「借方:固定資産除却損××円 貸方:機械装置などの固定資産科目××円」
として仕訳してください。すると、幽霊資産の期末帳簿価額分だけ固定資産除却損という費用が計上され、税金がそのぶん減少します。ちなみに、このために必要なアクションは仕訳するという経理上の手続きだけですから、全く資金不要です。もちろん、永久的な節税対策でもあります。
この方法によりどれくらいの節税効果が見込めるのか、帳簿価額300万円の幽霊資産があるケースで試算してみます。この場合、300万円の固定資産除却損という費用が計上できることになります。つまり、それだけ利益を圧縮できることになりますから、「300万円×40%(実効税率と仮定)=120万円」の節税効果といえます。
ちなみに、この節税対策は、売掛金などに対する不良債権についても同様の効果となります。
ただし、不良債権を税務上の「貸倒損失」という費用に計上しようとすると、いくつかの厳格な要件が必要です。実行に際しては顧問税理士などに充分確認してください。そのうえで該当すれば、この場合も同様に、資金不要の永久節税――「良い節税」の対策となります。
次回以後、さらに良い節税対策をご紹介していきます。
今日のこの話が経営者の皆様のお役に立つことができれば幸いです。
執筆者プロフィール
今村仁 Imamura Hitoshi
マネーコンシェルジュ税理士法人 代表社員
経 歴
京都府京都市出身 立命館大学経営学部企業会計コース卒 会計事務所を2社経験後、ソニー株式会社に勤務。その後2003年今村仁税理士事務所開業、2007年マネーコンシェルジュ税理士法人に改組、代表社員に就任。税理士・宅地建物取引主任者・CFP等ベンチャー・起業家・中小企業の参謀役税理士(SZ)として、会社設立から株式公開支援まで幅広くサポート。大阪・京都・神戸・滋賀・奈良・東京・横浜を中心に活動。マネーコンシェルジュ税理士法人(旧今村仁税理士事務所)
オフィシャルホームページ
http://www.money-c.com/