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学生から社会人まで、多くの人を啓発してきた教育学者の齋藤孝さん。その「齋藤メソッド」は具体的かつ論理的、思わず「はっ!」とする気付きが満載です。齋藤教授が語る、仕事品質底上げのための集中講座。連載第3回のテーマは、「仕事にゲーム感覚を取り入れる」。
 
 

ゲーム感覚をうまく取り入れよう

 
 私は、学びにはゲーム感覚が伴うことが大事だと考えている。私たちがゲームに夢中になるのは、トランプも将棋も麻雀も、勝ち負けが明確で、ルールにあわせて自分で戦略を組み立てていくのがおもしろいからだ。麻雀などは大の大人が朝まで延々やってしまう。体力的にも、脳の負荷からいってもキツイはずなのにそれができるのは、ゲーム感覚だからである。仕事にもこの感覚を取り込んでみようというのが私の提案だ。
 
 ゲーム感覚はスポーツ感覚と言いかえてもいいだろう。たとえば仕事に欠かせないコミュニケーション。私はコミュニケーションがテーマの講演では、最初に来場者に 「今日、ここは 『コミュニケーション部』 です。皆さんはコミュニケーション部に体験入部しに来ています」 と話す。そうしておいて 「うなづき練習」 「ポイントで笑う練習」 「上手に質問する練習」 と入っていく。「隣りの知らない人と雑談する練習」 もある。その際、会場の雰囲気によっては軽くジャンプをしてもらってから課題に入る。通常であれば未知の人とは緊張して、いきなり雑談などできないものだが、スポーツ感覚に置き換わると、心も体も解放されて、できてしまうのだ。(「ジャンプ」 は何にでも使えるから覚えておこう。20秒ジャンプをするだけで、人の脳はスポーツ感覚に切り替わる。会議やディスカッションの前に取り入れれば、盛り上がっていい会議になること間違いなしだ。)
 
 こんなふうに、たとえば自分の脳の癖と “遊ぶ” というゲーム感覚ができてくると、日常のいろんな局面がおもしろくなる。そう思うと仕事も、時々トラブルがはさまるぐらいがスパイシーでおもしろいのではないだろうか。
 
 

チームで競争するから盛り上がる

 
 ゲーム感覚になるには 「身体から入る」 「チームでやってみる」 という二つのコツがある。前者はスポーツ感覚のこと。後者は、事に当たる際は常に3~4人のグループを組んで競争するといいということである。ゲームには 「共通の課題に対し、競いあう」 という側面があるからだ。そもそも、誰かと組んでいいチームにしていく行為が、すでにゲームなのである。
 
 ちなみに、チームの感覚は、一対一の勝負の世界でもあるようだ。将棋の羽生善治さんは、もはや勝ち負けにこだわる将棋には意味を感じないと言う。「勝って残念そうな羽生さん」 を、将棋のテレビ番組などで見たことはないだろうか。羽生さんは、自分と相手、互いの力をハイレベルで拮抗させ、美しい棋譜を残すことを目標に戦っている。だから、せっかくそこまで良かった将棋が敵のミスで終わってしまうことほど残念なことはないそうである。
 
 羽生さんの将棋のように、それ自体が楽しいというふうになるのも、いい仕事をする秘訣だ。現在私はNHK教育の 『にほんごであそぼ』 という番組に関わっているが、その会議が非常におもしろい。会議自体は夕方5時から7時までなのだが、終わってみんなで食事に出て、お酒も少々入るうちに、誰からともなく続きが始まる。そこからが長い。深夜1時か2時頃まで、ずーっと、延々、番組づくりの話をするのである。もはや場は完全に 「アイデアを競うゲーム」 と化し、制作に関わる全員が一体となって盛り上がる。これが実に楽しいのだ。もしかして私たち人間は、アイデアを考えてみんなで盛り上がるのが快感で自然だという生き物かもしれないと思うほどである。一般には 「時間を食うばかりで意味がない」 と不評な社内会議なども、うまくゲーム化すれば変えられるのだ。
 
 

基本はやっぱり『ドラゴンボール』

 
 そしてやはり、『ドラゴンボール』 を読み返すことをお勧めしたい。
 私も、同じくテレビの仕事で、ケンドーコバヤシさんが自分の好きな漫画について様々な企画をこなす番組 『漫道コバヤシ』 に呼ばれた際に、全巻を読み返した。主人公のゴクウは修業がおもしろくて仕方がない。彼には修業が辛いという概念がそもそもない。修業はハードだから楽しい。今までより強い相手が出てきて負かされそうになって、ゴクウが 「おめえ、おもしれーなッ!」 となるのは、本来大人もそうなれるはずだ。
 そうやって、負けては修業を積み、また負けては新たな修業を積みを繰り返すうち、ゴクウは最終的にスーパーサイヤ人になっていく。番組でご一緒した俳優の山本耕史さんも、舞台に立つときはスーパーサイヤ人になるそうである。しかも、自分がスーパーサイヤ人になっていると、同じ舞台に立った相手にまだスイッチが入っていなければ、「あ、こいつはまだスーパーサイヤ人になってないな」 とわかるのだそうだ。
 
 学びでも仕事でも、ゴクウを自分の中に入れてみよう。ゴクウの根本的な明るさを思い返してみよう。小学3年生ぐらいの頃は、みんなゴクウみたいな感覚で生きていたはず。だから、きっとできる。
 
 
 
 
 齋藤先生に聞こう! 仕事品質底上げ講座~
vol.3 ゲーム感覚を取り入れる

 執筆者プロフィール  

齋藤孝 Takashi Saito

明治大学教授

 経 歴  

1960年生まれ。静岡県静岡市出身。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程などを経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラーになった 『声に出して読みたい日本語』(草思社・毎日出版文化賞特別賞受賞) をはじめ、『コミュニケーション力』 『教育力』 『古典力』(岩波新書)、『現代語訳 学問のすすめ』(ちくま新書)、『頭が良くなる議論の技術』(講談社現代新書)、 『人はチームで磨かれる』(日本経済新聞出版社)など著書多数。専門の教育学領域以外にも、身体を基礎とした心技体の充実をコミュニケーションスキルや自己啓発に応用する理論が「齋藤メソッド」 として知られ、高い評価を得ている。

 
 
 

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