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 皆さんこんにちは。ガラスデザイナーの川上麻衣子です。今回で私のコラムは最終回。私が日頃大切にしている「んっ!?」という感覚のお話から、最後は連載全体のまとめです。ぜひお付き合いください。
 
 

“ひっかかって”ますか?

 
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川上麻衣子作品例・カクテルグラス「URUSHI」 径79㎜-高さ117㎜ 
 皆さんは日常の中で、たとえば初めて会った相手や初めて取り組む仕事に対して、「んっ!?」と感じる瞬間はありますか? “何かひっかかる”っていう感じ。私はあります。それに、あの感じがすごく好きです。
 人って、たとえばキレイなものを見ても、「キレイだった」っていう事実だけだと忘れてしまうんじゃないでしょうか。「キレイなのはわかるけど、何かひっかかるな」とか、人であれば、「いい人なんだけど、なんかこう・・・ねぇ」みたいに(笑)、単独の事実で終わらせずに印象を残さないとダメだと思います。最初悪い意味でひっかかってしまう人もいますけど、それでいいと思います。
 
 これはガラスの話ではないですが、特に女優業は知名度勝負の面があります。芸能界に残れる人たちは良くも悪くも“ひっかかる”人たちです。芸能人に付きものの「好感度調査」も、私は先輩から「最初に嫌われた人の勝ちよ」と教わりました。若い時は自分が嫌われるなんてすごいショックだけど、「嫌われた人は後で必ず好かれていくから」と教えられたのはすごく励みになりました。その後も長く芸能界にいて思うのは、「嫌い」は、反対に「好き」と感じてくれる人も同じくらいいることの証明なんですよ。きっとね。
 
 皆さんも、「どうも自分は一部で嫌われてるらしい」と感じたら、チャンスと受け取ってほしいです。伸ばすべき個性って、意外にそういうところに隠れてる気がします。環境に対して違和感を感じさせられるのって、すごいこと。全然悪いことじゃないですよ。
 
 ガラスの仕事で例をあげるなら、最初の個展からロングランで出してる「DEBESO」というシリーズ。径50mmの高さが70mmぐらいのグラスで、側面に一つ、ぽこっと、突起を付け足してあります。それこそ出ベソみたいに。このグラス、お酒を飲まれる方にすごく評判がいいんです。飲んで酔ってくると、みんなそこをいじってるんですよ。「さっきから何か指に当たってるんだよね。何だろう?」とか言いながらいじってる(笑)。これも最初はワンポイントで色を入れる予定だったのが、試作する中でもうちょっと“ひっかかる”ことをしてみたくなって、いっそ突起物を付けてみたら、そこから可能性が広がった例です。ひっかかったり、当たったり。そういうのが大事だと思いますね。
 
 

無駄の中にある「自分を語ってくれるもの」

 
 それと、最近私は、手間がかかったり時間がかかったりするものと一緒にいたい気持ちが強いです。そういう、一見無駄に思えるものには、優雅さがあるでしょう? 「不便だけど優雅なもの」を残して楽しむ姿勢が、昔は社会全体にもっとあったんじゃないでしょうか。残すべきものを持っていない社会って、寂しいですよね。
 
 「自分を語ってくれるもの」は無駄の部分にあると思います。今は音楽もネットからダウンロードしてデータで持つでしょう。でも昔はレコードで、初めてその人の部屋に招待されて行ったら壁一面がレコードジャケットで埋まってて、眺めるだけでなんとなくその人のことがわかるとか、あったんですよね。レコードなんてかさばるし、管理も面倒ですけど、一見無駄なものが、本人も気付かないままその人のことを語る大事な要素になっている。たとえば仕事の進め方一つとっても、そういうことはあるんじゃないでしょうか。
 
 

強さはチカラ

 
 性などのタブーに対してオープンなスウェーデンを知っている私からすると、私は日本のタブー意識についても不満があります。タブーがあることをもっと認めるべきですよ。タブーがないフリをして済ませてたら何にも進まないと思います。「言いにくいけど真実はこれです」とか、「嫌われてもこのことは言わせてもらいます」という姿勢を尊重したいですよね。
 
 そしてそれらは、やっぱり強さだと思うんです。今回お話しした、周りと違う存在になることを恐れない強さ、嫌われるのを恐れない強さ。第2回でお話しした、煮詰まってしまうのを怖がらない強さ、何かをあきらめて次のステップを踏み出す強さ。初回でお話しした、ギャップを乗り越えてしたたかに生き抜く強さ、意外な展開を怖がらないで乗っていける強さ・・・。そういった強さに私は魅力を感じるし、自分もそんな存在でありたいと思っています。
 
 ガラスも本質的に強いもの。そしてそれは、両義的で多面的な素材であることの強さです。冷たいのにやさしかったり、凛としているのにどこか隙があったり、シャープでバランスもキレイなのに、近づいて見ると歪んでいて、しかもそれがその子の個性になってたり(笑)。ガラスのそんな魅力を、これからも追いかけていきたいです。
 
 
 
 
(構成:編集部) 
 
 
 
 
透明なチカラ ~あるガラスデザイナーの工房から~
vol.3(最終回) いろんな在り方を許せる強さを

 執筆者プロフィール 

川上麻衣子 Maiko Kawakami
ガラスデザイナー/女優

 経 歴 

スウェーデン出身。インテリアデザイナーの両親のもと、幼少期からスウェーデンと日本を行き来して過ごす。14歳でテレビドラマに出演し、『3年B組金八先生』の生徒役で一躍人気者に。映画『でべそ』では第6回日本映画プロフェッショナル大賞主演女優賞を受賞。女優業と並行してガラスデザイナーとしても、北欧のガラス工芸に影響を受けた作風で定期的に作品を発表。2005年からは隔年で個展を開き、旺盛な創作活動を続けている。

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