資本主義の最終局面にいち早く立つ日本。世界史上、極めて稀な長期にわたるゼロ金利が示すものは、資本を投資しても利潤の出ない資本主義の「死」だ。他の先進国でも日本化は進み、近代を支えてきた資本主義というシステムが音を立てて崩れようとしている。
――カバーテキストより
近代資本主義の基本は言うまでもなく重商主義である。企業や事業主は物価の安い国で原材料を買い、人件費の安い新興国で製品をつくり、物価の高い先進国で売って利益を出す。完成品を扱う際も発想は同じだ。
今までは中国や東南アジアが新興国の機能を担ってきた。しかし、いずれそれらの国や地域も生活水準が上がり、物価と人件費が先進国に並ぶ。企業は“次”の新興国を探して移動し、その新興国が先進国に並ぶとまた“その次”の新興国を探し、やがて地球上のどこにも新興国(時系列的に表現すれば後進国)がなくなって、次に向かう先は――? 論理的には宇宙だろう。〈企業〉を〈連邦〉や〈地球政府〉とすれば、高度成長がバブルに進む70年~80年代に世に出た宇宙戦争もののアニメには必ずこの世界観があった。
重商主義も宇宙戦争も、テーマは「既存システムに空間的な外部あるいは周縁がなくなった世界で、利益の源泉としての格差をどこに発見/残存させるか」だ。本書によれば、現在、先進各国で資本主義が“終焉”しつつある。地球の地理的・物的空間から実体経済のフロンティアが消滅したからだ。「資本主義は宇宙に出なければ存命できないところに来た」――これがアニメの話ではない根拠を、本書は15世紀後半のヨーロッパにおける資本主義の始まりまでさかのぼりつつ、原理的に解き明かす。
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その大枠はこういうものだ。
15世紀前半まで、ヨーロッパは荘園領主による封建制を経済システムとしていた。当時の先進国はローマを擁するイタリア、そしてスペインなど、地中海経済圏の国々である。しかし14世紀初頭から15世紀後半にかけて農業の技術革新が進み生産性が向上したことと、度重なるペストにより人口が激減したことで、長期にわたりデフレが続き、既存のシステムが揺らいでいた。稀少になった労働者と領主のあいだで力関係が逆転――労働分配率は推定117%。領主は年あたり付加価値の17%ぶんもの資本をストックから取り崩して労働者を雇っていた――した状況で、領主層は特に有力な領主に権力を集めて国王にし、王=絶対的資本家が国の経済を牛耳る国家資本主義システムを新たに創出することで自己保存を図った。これが資本主義の祖形である。
やがて16世紀に入り、それまで周縁だった東欧や英蘭独仏の各国が新興経済圏として地中海経済圏を飲み込むようになると(人口比4600万対2400万)、ペストが去って人口が増えたせいもあり、非連続かつ長期的な物価高騰が始まった(「価格革命」)。労働者実質賃金は低迷し、その間に王=資本家層による余剰資本の不可逆的収奪が進み、並行して両経済圏の統合もさらに進み、域内に「外部」「周縁」がなくなったところで、ヨーロッパは新大陸を目指す大航海時代に入る。
以降、国王に出資された事業体が海を越えてインドやアフリカ、アメリカ大陸に格差を持ち込んで現代にいたる。そして1995年には、OECDにより資本の国際間移動が自由化され、グローバリゼーションが完成。フロンティアが消滅し、資本主義の終焉が見えたというのが現在の状況である。
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この大枠と一緒に著者は、現代における経済圏の統合(例:BRICSの先進国入り)がはらむ問題、あるいは、これから格差が「外部」「周縁」ではなく国内に向かい、社会システムとしての民主主義をも損ねてしまう問題などを、具体的なデータにもとづいて解説する。ではどうすればよいか? 「セカンドベスト」としての資本主義に変わる経済システムは何に求められるか? これからの世界と社会を考えるうえで必携の良書だ。