当時は珍しかったサウナ専門店を35年間経営
斉藤湯は1934年に祖父が創業した銭湯で、父がその後を継ぎました。私も学生時代は日本大学芸術学部に通いながら家業を手伝っていたものの、学業との両立は難しく、大学を中退して20歳から銭湯業に専念し始めました。当時、我が家では同じ日暮里で「ほまれ湯」と「むつみ湯」という別の銭湯も営んでいて、1971年にむつみ湯をビルに建て替えた際に、当時は珍しかったサウナ専門店を2Fに開いたんです。兄弟で協力しながら、そちらを35年間経営しまして。その後、1985年に3代目として斉藤湯を受け継ぎました。
――斉藤湯さんではかつて、お湯を仕込んだり、掃除をしたり、お客さんの体を洗い流したりする三助の橘秀雪さんがいらっしゃった銭湯としても有名ですよね。
橘さんが斉藤湯で三助を始めたのは、私が小学生の時です。彼は当時の私にとって兄的な存在で、よく映画や野球観戦に連れて行ってくれました。私が3代目となってもなお三助を続け、約50年間、体力の限界が来る75歳頃まで現役で働いてくれまして。日本で最後の三助として、仕事をまっとうしてくださいました。
みんなが喜ぶ“湯づくり”にこだわった銭湯
銭湯は本来、老若男女すべての方々が来られる公共の場のはず。ですが、改装前は浴槽が2種類しかなく、お湯も高温で、子どもにとって入りづらい設備だったんです。ある親子の来店時に、お湯が熱すぎてお子さんが不機嫌で帰っていく姿を見かけて「これでは銭湯が嫌われてしまう」と、思い切って改装を決めまして。洗い場を減らし、高濃度人工炭酸泉、ジェット・寝風呂・電気風呂のある大浴槽、高温風呂、水風呂と浴槽の種類を増やしたんです。かつての庭と縁側は露天風呂に変え、そこにシルキー風呂を設置しました。男湯の石のベンチは、以前から庭にあったものを引き継いだんです。お湯だけで楽しめる銭湯にこだわりたかったので、サウナはあえてつくっていません。安全面も考えて浴場に手すりを付け、床の全面は滑りにくいタイルに変えるなど、子どもからお年寄りまで、安心して入っていただける設備を整えました。浴槽やカランの水は、すべて肌に優しい軟水が出る仕様です。
おかげさまで今では皆さんに満足していただけています。最近は、家のお風呂機能も進化していますが、それに負けない入浴体験をしていただくことが私の信念です。家風呂だと軟水は出ませんし、炭酸泉浴もできません。でも、銭湯にはその設備に加えてジェット機能も付いていますから、やはり家風呂は銭湯には叶わないと思います。
――お湯づくりにこだわっている斉藤湯さんではお風呂の他にも、さまざまなサービスを提供されていますよね。
変わり湯ではさまざまな柑橘果物を贅沢に
息子の裕一や妻をはじめとした家族経営を主体にしながら、スタッフは15人ほど雇用していて、2人体制で受付に立ってもらっています。店長は息子の妻の兄が務めてくれています。実はこの営業スタイルも、リニューアルで変えたことの一つなんです。というのも、かつては番台に一人で立つのが基本で、家族への負担が大きかったんですよ。人員を増やせば万一の事故が起こっても安心ですし、銭湯を続けて行くうえでも、スタッフを増やすのがベストだと思いました。結果的に、毎日6時間かけて行う掃除やメンテナンスも分担して徹底して取り組むことができ、実行して良かったです。また、私はスタッフのことをとても大切にしていて、忘年会や暑気払いなどの行事も積極的に行います。最近もOBも招いてバーベキューを開きましてね。スタッフが楽しく働けるための環境づくりにおいては、店長が日々コミュニケーションをとって取りまとめてくれている点が一番大きいです。
――力を入れて取り組んでいるイベントはありますか?
――変わり湯での名物は「ゆず湯」だそうですね。
はい。実は妻の地元の栃木県茂木町はゆずの名産地で、毎年12月ごろになると、自らゆず狩りをしに出向いているんです。その他にもご縁があって屋久島の方からタンカンやポンカンなど、鹿児島からはキンカンなど柑橘類の果物をたくさん送っていただいているので、そのたびに季節の変わり湯に使用させていただきます。商品として出荷できないものではありますが、味も絶品の高級品ですから、「お風呂に浮かべるなんてもったいない」という声をいただいたこともあります(笑)。
銭湯は世界中の人から喜ばれる魅力がある
銭湯は日本だけでなく世界中の人にとっても喜ばれる魅力があると思います。特にコロナ前はフランスやイタリア、スペイン、インドなど、各国からのお客様もいらして、翻訳機を使って対応に四苦八苦しました(笑)。私も大の銭湯好きで、休日は銭湯巡りをするほどです。毎日銭湯に入っているので、78歳の今も元気に過ごすことができています!
――最後に今後の目標をお聞かせください。
現在、太陽光の熱エネルギーを利用して、お湯を沸かすシステムの導入を計画しています。SDGSの観点からもエコな銭湯を目指せれば嬉しいですし、それが実現できれば銭湯廃業の原因の一つある水道光熱費高騰などの問題解決にもつながり、銭湯業界が継続できるきっかけにもなると思います。今後も若い人の意見も取り入れながら、みなさんに喜ばれるサービスを提供していきたいですね。
――時代の変化にも柔軟な姿勢で、楽しんで銭湯を営む斉藤さん。これからも日本のみならず世界に目を向けながら、みんなから愛される存在として、末永く続けてほしいです! 応援しています!
■住所
〒116-0014 東京都荒川区東日暮里6-59-2
■アクセス
JR山手線「日暮里駅」より徒歩3分
■営業時間:14:00~23:00
休業日:金曜
■URL:http://www.saito-yu.com
vol.10“こだわりの湯づくりでみんなをご機嫌にする日暮里斉藤湯
(2022.12.21)