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本書4丁目(第4章)「無駄な会議が多い」72ページにこうあります。「NTTデータ経営研究所の調査によると、日本の会社の業務で会議や打ち合わせの占める割合は15.4%。なんと、1人あたり1日1.4時間も会議のために費やされているとのことです」。※従業員規模30名以上の企業の経営者・役員クラスを含む雇用者(正社員)、20歳以上のホワイトカラー職種対象
 
1人あたり1日1.4時間、つまり働く人全員が毎日1.4時間会議に時間をとられていたら、そりゃあ、残業にもなります。会議は勤務時間に含まない方針の企業にいたっては何をかいわんや。本書はそんなふうに仕事が終わらなくなっている日本の“当たり前の職場”の問題を11項目取り上げ、それぞれの改善策を指南する1冊です。まずは以下列挙。
 
1丁目 手戻りが多い/2丁目 上司・部下の意識がズレてる/3丁目 報連相できていない/4丁目 無駄な会議が多い/5丁目 仕事の所要時間を見積もれない/6丁目 属人化/7丁目 過剰サービス/8丁目 「何を」「どこまでやればいいのか」が曖昧/9丁目 仕事をしない人がいる/10丁目 だれが何をやっているのかわからない/11丁目 実態が上司や経営層に伝わっていない
 
「ああ・・・」と思わず嘆息が出そうな項目が並びます。もう少し詳しく言うと、9丁目はいわゆる「2:6:2の法則(どんな集団も働き者は2割、6割が普通、残り2割は怠け者になる)」について。著者は、組織においては下位2割の人も意外な機能を果たしているものだから適正な役割を与えて受け入れよう、と論じます。11丁目については、売上高などの定量化された結果だけ報告するのではなく、プロセスも知らせて改善策を相談すべし、と説きます。よくわかります。わかりますけれども・・・。
 
少し意地悪な想定をすると、それこそ2:6:2の法則のように、これらの問題はそれぞれある法則性のもとに、一定割合は必ず生じるんじゃないでしょうか。「だからその法則性にアプローチするんです」ということだと思いますが、アプローチした末に残るのが例えば1人1.4時間の会議だとしたら、1.4時間のうち2割が密度の濃い会議、6割が普通の会議として、残り2割の16分48秒をもう一度切って捨てるかといえば、もういいんじゃないかという気がします。少なくとも、もう一度切って捨てるためには一段深い、まったく新しいアプローチが要る。その意味での新しいアプローチについては、本書には書かれていません。
 
でも、だからダメかといえばそれは違います。その先は個別コンサルを入れるしかないのに、コピーで新しい普遍法則みたいに思わせて売っている書籍がなんと多いことか。(とはいえそれらも、個別コンサル領域の問題も解決できる新しい普遍法則を編み出そうと目指した本には違いないわけですが)。そう考えると、優れた実用書の条件ないし資質とは、汎用性の高い基本のアプローチから出発していかに何度も諦めずにトライさせ、個別の深い気付きを自分で得させるか。そのための「読ませるおもしろさ」「取り組ませる楽しさ」があることだと思います。この点で、本書は間違いなく優れた実用書だと思います(冒頭とじ込み「職場の全体地図全体マップ」の力作ぶりを見よ)。
 
もう1つ印象的だったのは、有名なPDCAサイクルの代わりに、同サイクルの発案者でもあるW・エドワーズ・デミング博士の言葉を引きながら「定義→測定→報告→改善」というサイクルが紹介されていたことです。調べてみるとデータマネジメント業務の世界ではこれに似たフローがあるようで、情報システム系の職種の皆さんにはスッと入ってくるのではないでしょうか。ちなみに博士の言葉は次の通り。
 
「定義できないものは、管理できない。管理できないものは、測定できない。測定できないものは、改善できない」
 
「定義」これが一番の難物かも。212ページで「何を測定するのかを定義し、日々の業務を測定する。それを上司や経営層に責任を持って報告し、改善につなげる」と解説されるこのサイクル、始まりの「何を」は、サラリと書かれているものの、本当は「何の何を」という意味です。「何」はすぐ見つかる。それ「の何を?」と追い込めること、追い込みが的を外さないことのほうが、もっと重要なのです。
 
サイクルを使いこなすのも法則性へのアプローチも、やっぱりセンスが要りそうですね。
 
(ライター 筒井秀礼)
 
『職場の問題地図 「で、どこから変える?」残業だらけ・休めない働き方』
著者 沢渡あまね
株式会社技術評論社
2016/10/25初版第1刷発行
ISBN 9784774183688
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価格 本体1480円

(2017.3.8)
 
 
 
 
 

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