ひとまずの定義――「リアル店舗を持たないEC完結型の小売店」
OniGOは「日本初のダークストア専業スタートアップ」を標榜し、メディアもそれに沿って「欧米や中国で急成長中の新業態がいよいよ日本でも」という報道の仕方をしているが、正直なところ、既存のネットスーパーとの違いがよくわからない。単に宅配所要時間の違いか? だとしたら何分(あるいは何時間)あたりから違ってくるのか? 品揃えを控えてスピード=利便性に特化するならばコンビニのネット宅配とどう棲み分けるのか?
本稿はこれらの疑問を経由する形で「ダークストア」の概念を整理し、その本質的理解を試みる。
まず、ダークストアとは「リアル店舗を持たないEC完結型の小売店」のことだとひとまず定義しておこう。「ダーク」をどう解釈するかで理解が混乱しかねないからだ。
例えば日経クロステックの記事は「来店客お断り、配送特化の専門拠点」としているが、日経クロストレンドでは「店舗の所在が分からない小売店」となっている*1。テック領域の視点からは配送拠点即ち倉庫物流業に見え、マーケティング・消費領域からは小売店に見えている。筆者の理解ではダークは「ダークマター」のダークに他ならないが、この一例をとっても、理解がまだ定まっていない状況が見て取れる。
以下、「リアル店舗を持たないEC完結型の小売店」というひとまずの定義を、他のEC業態と比較しつつほどいていく。
ネットコンビニと比較する
次にネットコンビニとの棲み分けについて。ネットコンビニについては各社とも、EC完結型の業態はなかなか普及しない状況が続いてきた。セブン‐イレブンは辛うじて「セブン‐イレブンネットコンビニ」を続けているが、2019年中の全国展開を目指したはずがまだ北海道・広島・東京の一部エリアに留まっている。店頭起点型の業態に関しても、店舗によっては宅配サービスを使って提供するものの、配送を店舗スタッフでまかなうのは現実的でないことから加盟店の反発が大きく、さまざまなサービスが試されては消えてきたのが実情だ。
ただ、この点は、少し前からラストワンマイル物流が多様化していたところにコロナ禍に伴う巣籠り消費でデリバリーが日常化したことで、状況が変わるかもしれない。特にローソンとファミリーマートは、昨年からmenuやUberEatsなどのいわゆるギグワーカーを宅配要員として取り入れている。最大手のセブン‐イレブンも、ギグワーカーこそ認めないものの、2017年に西濃運輸と提携して始めた新会社GENieを通じて今年8月からデリバリーのシェアリングプラットフォーム「エニキャリ」を使い始めた。同じ8月の末には「セブン‐イレブンネットコンビニ」を出前館で運用する実験も始まっている。他にもPickGoなど数社と連携している*2。
「セブン‐イレブンネットコンビニ」は昨年12月に宅配時間を最短2時間から30分に短縮してからはデリバリーの日常化の波に乗ったと報じられており*3、井阪隆一社長は2025年までに「最短30分宅配」を全国に広げると意気込んでいる*4。仮に今回は本当に成功するとして、「最短30分でセブン‐イレブンの商品力を展開されたら」と思うと、OniGOもうかうかしていられないのではないか。ローソンとファミリーマートは既にギグワーカーで行くと割り切っているわけで、こちらも差し迫った脅威だろう。
ネットスーパーと対照する
OniGoはとにかく「10分」というスピードに特化しており、逆に言えばそれ以外強みはないが、既存ネットスーパー勢もここに来てネット宅配の利便性向上、特にスピードアップに向け動き始めている。例えばイオンは、従来は最短でも5時間半かかった〔注文→宅配〕の時間を6月下旬から最短2時間に縮めた*5。今はまだ名古屋市のイオン熱田店一店舗のみだが、他の店舗にも拡大予定とのことで、実地でノウハウを溜めた後は導入可能な店舗から順に全国に広げるだろう。
また、イオンの場合、再来年にEC完結型のネットスーパー「イオンネクスト」が開業する*6。これが始まればまさしくダークストア。「リアル店舗を持たないEC完結型の小売店」だ。現在は千葉県千葉市に大元のフルフィルメントセンターを建設中で、完成後はイギリスOcado Solution社の、ピッキングロボットを使った自動倉庫システムが稼働する。これで大元の供給力を高めたうえで、次で触れる次世代型マイクロフルフィルメントセンターを各地に設置すれば、宅配時間はあっさり1時間を切るのではないか。「食品スーパーの品揃えを1時間足らずで宅配されたら」と思うと、OniGOは、そしてネットコンビニも、うかうかしていられないに違いない。
ダークストアの本質
以上を考えてくると、「10分」と「1時間」の間にビジネスのクリティカルポイントを探す発想がそもそもどこまで有効かと思えてくる。注3の記事が示すようにネットコンビニは「30分」を分水嶺としてネットスーパーと棲み分ける新市場を見つけたかもしれないが、少なくともダークストアに関してはそこが本質ではない。
「JNEWS LETTER」4月15日号*7はダークストアについて、「人口が数十万人以上の都市を1つの商圏と捉えて、生鮮品、食料品、日用雑貨、アパレルなどのオンライン注文を受け、当日または翌日までに配送するデリバリーサービスの拠点であり、物流業界では「マイクロフルフィルメントセンター(MFC)」と定義されている」と述べる。つまり基本は倉庫物流業だということだ。「即配」を絡めることはダークストアへの理解を混乱させるのである。
ダークストアと不動産
首都圏ではマイクロフルフィルメントセンターに適した500~2000㎡クラスの土地は――これは筆者の肌感覚だが――、所有者の代替わりでまさに転用ラッシュが始まったところだ*8。それらの土地に新しく独立系マイクロフルフィルメントセンターができていけば、そして「ストア」としても中小のプライベートブランドやDtoCブランドを助けるようになれば、小売業界に変化が起きそうだ。
注文から10分で届く 欧米で急成長「ダークストア」が日本初登場(日経クロストレンド 2021/9/7)
*2 CBcloudが「PickGo配送API」をリリース。6月より「セブン‐イレブンネットコンビニ」と「PickGo」が連携を開始(CBcloudニュースリリース 2021/6/28)
*3 セブン「ネットコンビニ」拡大 驚異のスピード配送が生む新市場(日経クロストレンド 2021/3/12)
*4 セブン、全国で宅配参入 2万店活用、アマゾンに対抗 配達最短で30分(日本経済新聞 2021年8月24日)
*5 イオンリテール、ネットスーパーの待ち時間を短縮(日本経済新聞 2021年6月15日)
*6 最先端の技術を導入したイオン次世代ネットスーパーに着手(PRTIMES 2020年8月19日)
*7 JNEWS LETTER 2021.4.15(No.1624)(JNEWS.com)
*8 土地によっては「生産緑地の2022年問題」も絡んでくるのではないか。
(2021.10.6)